テルマエ・ロマエ:「笑いを超越するワクワク感が根幹に」 ヒットの裏側をプロデューサーに聞く

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映画「テルマエ・ロマエ」プロデューサーのフジテレビ映画事業局映画制作部・稲葉直人さん

 ヤマザキマリさんのベストセラーマンガを阿部寛さん主演で映画化した「テルマエ・ロマエ」が、興行収入47億円(7日時点)と大ヒットしている。阿部さんが古代ローマ人を演じて話題を集め、劇場には家族連れ、若者など幅広い年代が集まり、笑い声を上げて鑑賞している。今秋以降にイタリアで公開されるほか、フランス、ベルギー、トルコなど世界20の国と地域から公開のオファーが殺到しているという。企画段階では「10億円を下回る」という周囲の声に対して、「笑いを超越するワクワク感が根幹にある。30億円はいくと思った」と確信しながらも、予想以上のヒットに驚きを隠せない同作プロデューサーのフジテレビ映画事業局映画制作部・稲葉直人さんに、製作の裏側を聞いた。(毎日新聞デジタル)

 映画は、古代ローマ帝国の浴場設計技師ルシウス(阿部さん)が、ある日、現代の日本の銭湯にタイムスリップ。そこで出会った日本人を「平たい顔族」と呼び、目にした新たな発見を次々とローマ帝国の風呂づくりに生かしいく……というストーリー。古代ローマ人役で市村正親さん、北村一輝さん、宍戸開さんらも出演している。

 ◇阿部さんの起用「どんなハリウッド俳優より面白い」

 稲葉プロデューサーが原作を手にしたのは、10年の正月。書店での立ち読みがきっかけだった。すぐに「主人公は外国人だけど、日本人の方が面白い、阿部さんだったら顔が濃いし……」とひらめき、「メーンのローマ人は日本人で、顔が濃くて重厚な演技派の人にしよう。笑えるし、ワクワクできるし、期待できる」と市村さんらの顔も次々に浮かんだ。

 「きまじめだけど端から見ると笑ってしまう(ルシウスの)キャラクターが、阿部さんにどんぴしゃり。どんなハリウッド俳優や、人気のお笑い芸人が演じても阿部さんには絶対勝てない」と思い、企画書と原作のみで阿部さんにオファー。「古代ローマ人役だし、(劇中の)8割が裸のシーンだし、断られるだろうと思っていた」というが阿部さんは即快諾。幸いなことに思い描いた古代ローマ人キャスト全員の出演が決まり、ルシウスの友人を演じる勝矢さんを含め、「ベスト5です」と胸を張る。

 ◇“平たい顔族”の老人はオーディションで選出

 一方、“平たい顔族”として出演する老人たちも、インパクト十分だ。60代を対象にオーディションを行ったが「全然おじいちゃんぽくなかった」と、70代に対象年齢を上げ、さらに80代以上にした。オーディションでは、ルシウスが初めて出会う老人役のいか八朗さんから「『君に言いたいことがある! 歩きなさい』って説教されたりして、まったくコミュニケーションが取れなかった」と苦笑いで振り返る。最終的に100人程度の80代の中から選出し、「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!!」(日本テレビ系)にピカデリー梅田として準レギュラー出演している菅登未男(すが・とみお)さんも出演することになった。

 また、映画オリジナルの日本人マンガ家役で登場するのは上戸彩さん。映画化のために「1本の縦軸が必要で、日本側に人が必要だった。紅一点、外国人顔ではない上戸さんが“平たい顔族”のプリンセスにいい」と起用理由を明かす。上戸さんが「あずみ」以来、約7年ぶりのメーンキャストでの映画出演だったことも決め手の一つになったという。

 ◇こだわりは「ギャップ」 冒頭シーンの撮影はイタリアのオープンセットで

 稲葉プロデューサーは「すべてギャップだと思った」と繰り返す。「キャスティング、芝居、舞台設定も大まじめにやればやるほど面白くなって、笑いを超越するワクワク感が出る。それが企画の根幹」といい、特に古代ローマの大仰さ、壮大さと日本のミニマムな世界観の対比は「切り捨てたら映画化する意味がない」と考えていた。

 偶然にも古代ローマのオープンセットが、イタリアのチネチッタにあると聞き、撮影を決めた。米国HBOと英国BBCが共同で製作し、05年から放送した連続ドラマ「ローマ」の撮影用に作られたもので、映画冒頭の古代ローマのシーンなどで使用されている。「阿部さんが“仮装大賞”に見えたら負け。どこまで真面目にローマの世界観を構築して、ローマ人として阿部さんがいるか。そこさえクリアできれば」とこだわった。

 ◇ヒットの鍵は企画、キャスティング…… 「化学反応式がうまくいった」

 「奇跡的にオープンセットがあり、キャストから出演を断られなかった。阿部さんがやってくれるといった瞬間、いけるなと思った」という稲葉プロデューサーの最終興行収入の想定は30億円。しかし周囲からの評価は低く、10億円を下回ると指摘されたこともあったという。それが50億突破が確実視されているヒットの理由を「何も考えず、明るく楽しめて、ちょっといい気持ちで帰れる。それが閉塞(へいそく)感のある時代と合っていた」と分析する。

 さらに「どこかで見たような企画、旬の人を集めた同じようなキャスティングの映画が並べられていて、企画的な閉塞感が映画ファンにはあったと思う。誰かが出ているからヒットするわけではない」と持論を掲げ、それに対して「なんだこれ?と感じる企画と珍しいキャスティング、演出、世界観の化学反応式がうまく伝わり、爆発力を生んだ」と語っている。

 ◇「イタリア人は心が広い」 壮大なギャグにも苦情なし

 同作は今年2月下旬にイタリアのローマでプレミア上映を行い、それをきっかけに同国で開催された「第14回ウディネ・ファーイースト映画祭」で、ネット投票で最多得票した作品に贈られる賞「マイムービーズ賞」を受賞した。同国での上映が決まり、各国から公開のオファーを受けている。

 稲葉プロデューサーは「日本人が楽しめればいい映画。海外で売ろうという大それた計画はなかった」という。ローマでのプレミアは「イタリア人がどう感じるのか」という単純な興味から行ったものだった。そのときのことを「拒否反応だと思ったら、びっくりするぐらいバカウケで、日本の試写の3倍ぐらいウケていました」と振り返っている。

 同作は、古代ローマの風呂文化の一端が、現代の日本から作られているという壮大なギャグが描かれているが、これまでの上映で「そこに対して苦情はなかった」と振り返る。「基本的に日本万歳の話。ヒロイン側も階段を一つ上がるという話にしたところが救いだったのかも」と分析しつつ、「イタリアの人は単純に心が広いのかもしれない」と笑った。

 ◇プロフィル

 いなば・なおと。映画製作を志し、01年にフジテレビ入社。ドラマ、営業をへて、07年に映画事業局映画制作部に配属。人気ドラマを映画化した「SP野望篇」「SP革命篇」のほか、「ロボジー」などを手がけた。「テルマエ・ロマエ」は初めて企画から製作した作品。

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