ラノベ市場展望:新ジャンルも台頭で拡大 「なろう」の快進撃続く 

「なろう」発の人気ライトノベル「淡海乃海 水面が揺れる時」
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「なろう」発の人気ライトノベル「淡海乃海 水面が揺れる時」

 若者向けのイラスト付き小説「ライトノベル」で、ここ数年「なろう」の略称で知られる小説投稿サイト「小説家になろう」などネット発の作品が席巻している。昨年の書店の売れ行きの傾向や流行について振り返りながら、今年の展望を探った。

ウナギノボリ

 ◇「なろう」は勢い衰えず

 ライトノベルのコーナーが充実している東京・秋葉原の書店「書泉ブックタワー」。同店の2017年シリーズ別年間ランキング(16年12月1日~17年11月30日)のトップは「魔法科高校の劣等生」だった。トップ10のうち8作品がネット発の作品で、トップ3は昨年の上位作品。ネット小説の席巻は、昨年と同じ流れだ。

 ライトノベルに精通する同店の田村恵子さんは「昨年と同じような流れの順位ですね。そして『なろう』の勢いは衰えておらず、今後も快進撃は継続すると思います。正直、数年前に『なろう』が出たときは、ここまでになるとは思いませんでした」と話す。売れる「なろう」の書籍化は激戦状態だが、新人作家も続々登場し、書籍の刊行点数も増え、新しいジャンルも生まれるなど活発だ。

 新ジャンルで象徴的なのは歴史もの。織田信長など有名人物ではなくマイナーな武将を題材に、現代から転生した主人公が、現代の知識を武器に活躍する……という特徴がある。織田信長の兄信広を主役にした「織田家の長男に生まれました」や、弟信行を主人公にした「信長の弟 織田信行として生きて候」、関ケ原の戦いで西軍を裏切った朽木元綱をモデルにした「淡海乃海 水面が揺れる時」などだ。出版不況のご時世、普通であればボツ企画だろうが、ウェブで人気となった実績を基に商業誌になり、人気を集めているという。

 ◇アニメの終盤で売れ伸びる

 「なろう」と並んで、ラノベヒットのカギを握るアニメには、以前とは少し違う傾向がある。田村さんは「今はアニメが放送されて最初の1カ月は目立って動きがないんです。3カ月目の終盤で伸びたり、終わってから伸びることもあります」と話す。理由について「おそらくアニメをまとめて見て気に入った人、アニメの最終回を見て続きが気になった人が買うのだと思います」と分析する。しかし、これが悩みの種。放送後に売れ行きが伸びると、次の新アニメとぶつかるため、店の陳列に苦労するという。

 田村さんが「絶対に外せません」という「なろう」の売り方がある。原作のラノベとコミカライズしたマンガをワンセットにして陳列することだ。田村さんは「マンガの出来にもよりますが、原作とは違う解釈で行間をうまく取り入れていたりすると、原作よりもマンガの方が売れたりします。特にラノベが難しい場合は、マンガがラノベの入り口になったりしますね」と説明する。そのため「なろう」の人気作のコミカライズ権をわざわざ狙う出版社もあるという。

 ◇三つの読者層 「なろう」の弱点とは…

 田村さんは、現在のラノベの客層は、30・40代の男性層、恋愛好きな女性層、高校生の三つに分かれると見ている。「30・40代の男性層には、自分を投影できない高校生の主人公だと厳しい。やはりサラリーマンやおじさんが主人公の方が良いですね。逆に高校生は自分を投影できる高校生が主役の方が売れる傾向にあります。価格も関係しています。『なろう』は1000円を超えるので、高校生には厳しいですね」と話す。

 女性層に人気を博しているのが、「なろう」の「悪役令嬢」と呼ばれるジャンルだ。現代日本から「乙女ゲーム」や「ライトノベル」の世界に転生した主人公が、ヒロインのライバル=「悪役令嬢」に生まれ変わる。そして、自分が将来婚約を破棄されたり、実家が没落することを知っており、その未来を変えようとするストーリーが展開される。読者層の数こそ男性には及ばないが、一定層のファンがいて人気だという。田村さんは「アニメ化されるとファンが増えるかもしれませんが、恋愛ものなので男性層を取り込むのが大変かもしれません」と分析する。

 男女も取り込み、新規作も増加するなどジャンルも多彩で、商業誌も席巻する「なろう」は、一見すると無敵のように思える。しかし、田村さんは「現代ミステリーは、苦手な分野でしょうね」と明かす。

 だがそれでも「なろう」は、作家側には小説をネットにアップロードするだけで反響が分かり、読者側も無料で読めるメリットがあるのは大きい。「商業誌デビューの新人の作品が売れない」というラノベ業界のボヤキがある中で、第23回電撃小説大賞の大賞作である安里アサトさんの「86―エイティシックス―」が売れるなど、一部で商業誌の復権もある。それでも「なろう」の優位は動かない状況が続くのか、新しい流れが生まれるのかに注目だ。

◇「書泉ブックタワー」2017年シリーズ別ランキング(2016年12月1日~2017年11月30日)

1位 魔法科高校の劣等生
2位 この素晴らしい世界に祝福を!
3位 ソードアート・オンライン
4位 ナイツ&マジック 
5位 幼女戦記
6位 冴えない彼女の育てかた
7位 オーバーロード
8位 Re:ゼロから始める異世界生活
9位 ありふれた職業で世界最強
10位 ようこそ実力至上主義の教室へ

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