松本まりか:来年デビュー20年 “怪演女優”が振り返る遅咲き人生 演じることで生きる実感

女優の松本まりかさん
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女優の松本まりかさん

 「私は求められていないし、現実的な希望も見えない中やっていくというのは、すごく苦しかった。表現する場がないのがどれだけ苦しいことか……。20年ってなかなか苦しいです」。来年デビュー20年となる女優人生をこう振り返ったのは、ドラマ「死役所」(テレビ東京系、水曜深夜0時12分)で、口元のほくろが特徴的なニシ川役を演じている女優の松本まりかさん(35)だ。2018年放送のドラマ「ホリデイラブ」(テレビ朝日系)で、さまざまな手段で他人の夫を奪い取ろうとする不倫妻・井筒里奈を演じて、「あざと可愛い」と注目を集めて以来、数々の作品でのエキセントリックな役どころから“怪演女優”と話題になることも多い。しかし、ここに至る道のりは決して順風満帆ではなかったという。

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 「死役所」は、あの世の「シ役所」を舞台に、シ役所「総合案内」で働く職員・シ村(松岡昌宏さん)が、次から次へと現れる死者に「お客様は仏様です」と慇懃(いんぎん)無礼な態度で対応する姿を描くエンターテインメント作。

 松本さん演じるニシ川は、「自殺課」の職員。美人だが笑顔はなく、口が悪い。口元のほくろが特徴的で、「仕事はできる」と評されている。シ村とは仲良く見えるが、他人には一切興味がない……という役どころだ。

 ドラマを手がける倉地雄大プロデューサーによると、松本さんは、髪形やメークを何回も調整してニシ川を作り上げていったという。ホクロの位置も“キメ”があるといい、「ちょっとずれてもダメ」というこだわりぶり。アイラインも「ミリ単位」で調整した。

 当の松本さんによれば、原作のホクロの位置と、松本さんのホクロの位置は「ちょっと違う」といい、「原作の雰囲気と私の顔で一番合致するところっていうのがある。原作とまったく同じところにすると、似ていなくなる。私の顔で一番ニシ川っぽいっていうところをすべて探りました」とこだわりを明かす。

 視聴者からは「原作に忠実」などの絶賛の声があがっており、松本さんは「自分の中にはもっとやりたい気持ちはありますけど、すごくほっとしました」と話す。

 ◇「這いつくばっていた」10代

 「もし私がデビューしたときに、売れていたら、すぐに消えていったと思う。それだけの人間力、演技力を持っていないというのはわかっていたんです」

 松本さんは、1984年9月12日生まれ。東京都出身。乙女座のB型。2000年放送のドラマ「六番目の小夜子」(NHK)で女優デビュー。当時について、「デビューがドラマのいい役だったので、期待されていたし少しはチヤホヤされてきたわけですよ。ただ、自分は演技が好きなただの無知な子供で、世の中に面白がってもらえるような人間ではないと分かっていたものの、この芸能界で生きている。だから若いときは、自分は多少なりとも特別な人間なんだと思い込むことで自分を保っていた」と振り返る。

 15歳でデビューし、「芸能界の友達しかいなかった」という松本さん。「みんな、カ~ッとスター路線にいく中で、私はそうじゃなくて。這(は)いつくばっていた時期があって。全然仕事がなくて、どんどん追い抜かされていって、悔しかった以上に、この仕事をしているのに、求められていない自分が恥ずかしくて、自分の存在を自分ですら認められない、その事がとにかく苦しかった」と述懐する。

 自身について、「昔からよく『遅咲き』と言われて希望を持たせてもらっていた」と明かした松本さんは、20歳になる前、「30(歳)になったときに、すてきな人になっていたい。みんなから尊敬される人になっていたいと思ったんです。なぜかっていうと、当時、私は誰からも尊敬されるような人間とは程遠かったから……」と自己分析。

 芸能界の第一線で活躍している人たちには、「才能」があり、「人間力」があると考えたという松本さんだが、自身は第一線に「行けない」。ではどうすればいいのか。「周りの子たちがスター街道を行っている中で、私は普通の人として知っておかなきゃいけないことを経験しようとした。私なりに世の中を知る。かつ、自分を知るということをしてきた。とにかく自分で尊敬できる人間になりたかった」と振り返る。「この20年間、万が一、チャンスと巡りあった時のために、自分の感性だけは腐らせない生き方をしていようと思っていた」と続ける。

 ◇デビュー10年目に留学 帰国後、新たな出会い

 デビュー後は、テレビドラマのほか、人気劇団や、人気俳優が出演する舞台に出演してきた。「自分の力ではなく、すごく質のいい舞台に出られた。それは、自分が若いから呼ばれているだけ。自分の力で満席にできているわけではないし、自分の力で生きて何かを動かせる人になりたい」と考えたといい、デビュー10年目には、「誰も知らない、誰もチヤホヤしない過酷な状況に身を置くラストチャンス」と思い、一人で留学に行ったという。

 帰国後、小劇場のオーディションを自ら受けて、「自分の好きな芝居というものを、生きる場所を探していた」という松本さんが出会ったのが、山内ケンジさんの脚本・演出による演劇プロデュース・ユニット「城山羊の会」だった。「この人の世界に行きたいってビビビって思ったんです。私はまだお芝居を続けられるかもしれないと思って」と振り返る。

 そんな中、松本さんが出演した「城山羊の会」の舞台がきっかけで、「ホリデイラブ」につながった。「この里奈という役をたまたまみんなが面白がってくれて、そこから“怪演女優”みたいに呼ばれるようになったんですけど、それでお芝居できる機会が増えたのはラッキーですよね。皆さんにそう言ってもらえる事もすごく感謝しています」

 ◇35歳の今が「スタート地点」

 来年でデビュー20年となる心境を聞いてみると、「うーん……」としばらく思いをめぐらせていた松本さん。「やっぱり自分がこうやってたくさんの作品に出るっていうことは、正直想像がつかなかったし、すごく難しいと思っていた。じゃあ、なにを信じていたかというと、演技が好きだった。演じることが何物にも代えがたい、自分が唯一の生きているって感じられる瞬間。だからやめないでいられたというか……」と目を潤ませながら胸の内を語る。

 「小劇場やワークショップで頑張っている子たちが、『まりかさんは私たちの希望だ』って言ってくれたのには心を打たれて。私はそこの出(出身)だから。今はきらびやかな世界に見えるかもしれないけど、本質はそうではない。そうじゃないというのを知ったのはその時代で。報われないことを体験しているというのは、役に反映されると思うし、体の中にしみついている。いろんな境遇の人の気持ちがわかるようになった」ともがいた当時を振り返る。

 現在を「スタート地点」と表現する松本さんは、「今までずーっと、灰色の雲の中にいたから、それが今すごく動き出している。晴れるのかどうかわからないけど、35歳、こんなスタートがあってもいいんじゃないか。自分はそう思えているから」と話す。「自分がどこまでいけるか、何ができるのか、35歳だけど今すごく未知数。高校生のように目の前に未知の可能性が広がっている感じ」とこれからを語る松本さんは、晴れやかな表情そのものだった。

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 松本さんがレギュラー出演するドラマ「死役所」(テレビ東京系)は、毎週水曜深夜0時12分放送。松本さんは、口元のほくろが特徴的なニシ川役で出演。12月5日放送のドラマ 「ドクターX」(テレビ朝日系)第8話にもゲスト出演する。また、松本さんの15年ぶりとなる写真集「月刊 松本まりか」(小学館)は発売中。

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