テレビアニメ「ガンダム Gのレコンギスタ(G-レコ)」の劇場版第2部「Gのレコンギスタ II」「ベルリ 撃進」(富野由悠季総監督)が2月21日、上映が始まった。第2部は、アニメ「進撃の巨人」「甲鉄城のカバネリ」などで知られる荒木哲郎監督が参加したテレビシリーズ第10話「テリトリィ脱出」を含むエピソードを再編集。“荒木演出”が見どころの一つになっている。MANTANWEBでは、第10話が放送された2014年11月に富野総監督、荒木監督の対談を掲載したが、第2部の上映を記念して再び対談が実現。富野総監督は、荒木監督を絶賛しつつ、ネットに依存する現代社会に対して警鐘を鳴らした。
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「ガンダム Gのレコンギスタ」は、「機動戦士ガンダム」誕生35周年記念作品の一つとしてテレビアニメ版が2014年10月~15年3月に放送。地球上で必要なエネルギー源を宇宙よりもたらすキャピタル・タワーを守るキャピタル・ガード候補生のベルリ・ゼナムの冒険を描いた。劇場版はテレビアニメ全26話に新たなカットを追加。全5部作として上映される。
久しぶりに会ったという富野総監督と荒木監督。富野総監督の第一声は「痩せた? たたりじゃないの?」だった。荒木監督が「『G-レコ』でも、たたりという言葉が印象的でした。メカアニメに出てくると新鮮でインパクトがあります」と切り出すと、富野総監督は「たたり」について説明を始めた。
「僕の場合はああいう言葉遣いしかできない。なんとなく扱っているわけではないけど、この言葉しか出てこないのが富野の限界。あまり好きじゃない。そういう反省はあります。もっとロジカルな言葉遣いを発明したかった。無条件で自信を持っているわけではない。だから、そう言われるとホッともします」
そもそも、富野総監督のファンという荒木監督は「G-レコ」の制作が発表されると、自らを売り込み、富野総監督が「やらせてくれ!という人にはやらせる」と快諾して、参加することになった。荒木監督は、自身が参加したテレビシリーズ第10話「テリトリィ脱出」を「計算だけではなく、はしゃいで、楽しんだところもあります」と振り返る。富野総監督は「本当にありがたかった」としみじみ語る。
「第10話を押さえてくれてよかった。あれがなければ、映画がずっこけた作りになる。第2部のへそとして収まっている。テレビのときは気づかなかったところもあるけど、本当にうまい! あの絵コンテは僕にはできない。テクニックではない。世代の違いかな? 僕はメカそのものの構造を追いかけて演出しないといけないと思うけど、そこをなくしていて、劇として必要なカットしかない。本当に無神経! 僕にはできない。悔しかった。腹が立つから映画では外したい(笑い)。でも、外せない。あのブロックがないと第2部は成立しない。本当にすごい」
荒木監督は第2部について「冒頭の戦闘が好き。それにアイーダと父が再会して、浜辺に座るカット。あそこ一つで伝わることが端々にあります。その手触りがすごくいい」と感じたという。富野総監督は「再会のシーンが効いているのは、荒木演出の戦闘との対比があるから」と語る。
「多少、ロジカルな演出をやっていたら、親子のシーンはあんな簡潔には見えなかった。荒木演出があったお陰で、命拾いをしました。演出は一つのタッチでまとめないといけないけど、それを映画でやるとつまらなくなる。シーンごとに手を変えないと楽しく見えない。第2部はフラットではなくて、いろいろな要素があります。ある人に『すごくビビッドですね』と言われたことがあって、うれしかった。歯切れがいいからそう見えるかもしれない」
劇場版「G-レコ」はテレビアニメを再構築した総集編でもある。テレビアニメ版は荒木監督をはじめさまざまスタッフが参加しているため「ビビッド」なところもある。富野総監督は「全部コントロールしようとはしていなかった」と明かす。
「全部をコントロールしようとしたフィルムは固い。だから、人に任せないといけない。しっかり、コンセプトを押さえていればいいんだけど、必ずしもそうでもない。コントロールできて、よくできているけど、クソみたい……という映画もある。例えば『地獄の黙示録』がそう。『2001年宇宙の旅』もそう感じる。あれは40分くらい切ってほしい。『2001年~』は一度、自分で編集してみたい」
荒木監督は、かつて「進撃の巨人」などの総集編を作る際、「富野監督の『存在する画(え)と相談する』という発言を読んで、自分も意識しました」という。富野総監督は「構成の仕事は手厳しい」と考えているようだ。
「我が出たときにまとめきれなくなる。ここは好きだから、頑張ったから残したい!というのはダメ。ニュートラルにやらないと、破綻する。悪い画も悪いなりに使う。第2部はそんなに新しい画は入れていません。説明し直しているともいわれるけど、説明もそんなに入れていない。組み立ての問題で、並べ方、タイミングで見え方が変わる。それを間違えるとブツ切りになります。フィルム上で4、5コマをつまむだけで、きれいに見えてくることもあるんだから」
荒木監督は「より客観的になる。フェティッシュは捨てるということですね」と大きくうなずく。さらに、富野総監督は、アニメのディテールについて語る。
「『鉄腕アトム』を作っているときに教えられたことがあるんです。倒れて、入院したとき、看護師さんに『アトムって可愛いよね』と言われた。『アトムっていろいろな顔がある(エピソードによって作画にむらがある)』と言ったら『ウソでしょう! 違うんですか?』と驚かれた。その時、気づかされたのは、結局、大事なのはお話なんだと気づいた。見ている人がイメージしているものをストンと渡せばいい。作画主導の作品もあるけど、話が面白くなければしようがない。中抜きがあろうが、なかろうが関係なく、塊として受け止めている。でも、ディテールも見ている。映像は最終的にはディテールの積み重ね。ディテールはこだわらないといけないけど、こだわってもいけないという難しさがある」
荒木監督は「G-レコ」に参加したことで「光栄でした。見たことがない舞台装置、ビジュアルの発明が大切。その後もいろいろな方と仕事をする中でもその話を答え合わせすることができました」と学んだことも多いという。荒木監督は「G-レコ」を見て「宇宙を突き進むと海に抜けるシーン、それに軌道エレベーターもそうですね」と舞台装置、ビジュアルに驚かされたところがあった。確かに「G-レコ」では、軌道エレベーターのビジュアルに驚かされる。富野総監督は、特別な思いを込めて軌道エレベーターを描いた。
「軌道エレベーターのことを本気で考えると、これほどナンセンスなことはない。軌道エレベーターはインフラなので、なぜ運用するのか?という経済論も考えないといけない。インフラとして性質、社会性が分からないといけない。宇宙開発をしたい工学者、政治家は夢想家でしかない。そういうことをやんわり教えるにはアニメという媒体は最適!」
さらに、ネットに依存する現代社会に対して疑問を投げかける。
「GAFA(米国のグーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)がやっていることは、全体主義の統制よりも厳しい。国家じゃないから全体主義に見えないだけ。監視されていることに気づいた方がいい。全体主義的な統制になって、ずっと耐えられるのか? どこかで破綻すると思う。本当に人の暮らしのために機能するのか? ちょうどいいからとみんな使っているけど、それは本当に道具なのか? アニメでそういう問題を考えることができればと思っています。だから、僕は新海(誠)監督のような作品はやっていられない!」
劇場版は第5部まであり、富野総監督は今後の展開について「テレビシリーズでは、ベルリとアイーダとの関係、ビーナス・グロゥブがきちんと説明されていない。この二つをやらないと作品にならない。第3、4部ではそこに突っ込んでいきます。第5部はテレビシリーズの最終回そのままでいける」と説明する。全5部作の大作で一体、どんな展開を見せるのだろうか……。
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