化物語:“小説のマンガ化”ではなく“マンガで小説を書く” 話題の大暮維人コミカライズ

「化物語」のコミックス第12巻
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「化物語」のコミックス第12巻

 西尾維新さんの人気小説「<物語>シリーズ」の「化物語」のコミカライズが、「週刊少年マガジン」(講談社)で連載されている。「<物語>シリーズ」は、阿良々木暦ら少年少女と怪異にまつわるドラマを描いた小説で、アニメ版も人気を集めている。コミカライズを手がけるのは「エア・ギア」「天上天下」などの人気マンガ家の大暮維人さん。人気マンガ家が人気作を描いたこともあり、話題になっている。「個人的には“小説のマンガ化”ではなく“マンガで小説を書く”というチャレンジをしてみたい」という思いでマンガを描いているという大暮さんに、執筆の裏側を聞いた。 

ウナギノボリ

 ◇マンガはより複雑な情報を伝えることができる

 西尾さんの小説の文体は独特だ。「<物語>シリーズ」は、アニメ化もされているが、アニメは映像ならではの表現によって、同作の新たな魅力を提示した。マンガ版もまた小説、アニメとは異なる表現でファンを魅了している。大暮さんは「心的な部分が一番ダイレクトに画面に出てくるので、まずは自分が楽しむこと」を意識しているという。

 「西尾さんの作品は小説でしかできない技巧や遊びが、これでもかと盛り込まれていてワクワクします。その部分をいかにしてマンガに落とし込み、新しいファン層に提示できるかというのは相当に難易度が高いじゃないですか。できるできないは別として、まず『しなきゃいけない』のは、ファンを裏切らない、そしてマンガにしかできない表現を加味して、『化物語』というコンテンツの魅力をマンガを通してより大きく広げること。それが自分の責務なのかな、と感じています。しかし、自分がこの物語に没入していなければ読者には何も伝えられない。結局は技術的なものよりも、心的な部分が一番ダイレクトに画面に出てくるので、まずは自分が楽しむことですね。個人的には“小説のマンガ化”ではなく“マンガで小説を書く”というチャレンジをしてみたいし、しているつもりではいます」

 「マンガでしか表現できないこと」とは何だろうか?

 「マンガだと当然絵があるので暦のちょっとした表情や仕草で、より複雑な情報を伝えることができます。言葉にしなくても意味が分かるというのは、別の見方をすると読者との“空気の共有”がそこにはあるのではないかと思っています。実は、この“共有感”って、描いてる最中からすでにこちらは感じているんです。読者はまだそのページを読んでいない、時には存在すら知らないシーンなのに、おかしな話ですよね。読者と世界観を共有して一体化する、というのはマンガ独特の感覚なんだと思っていますが、ほかの媒体の制作者さんはこのあたりどうなんでしょうか。逆に知りたいですね。また、マンガ独特というよりはこの時期のコミカライズだからこそという意味で、先の展開や結末が分かっているというのはとても大きいと思います。結末から逆算して伏線を挿入することができますし、新しい要素を入れるときにもインスピレーションを得やすい。これはとてもありがたいですね」

 ◇「傷」を入れた理由 最後は…

 マンガ版は2018年3月に連載をスタートした。「<物語>シリーズ」は既刊27巻にもおよぶ大長編だ。マンガではどこまで描くのだろうか?

 「連載は『化物語』のエンドまで、という構想です。『つばさキャット』で羽川の抑えられていた心情が爆発するわけですが、これは『化物語』単体でなく『傷物語』や『猫物語』などのほかのエピソードとも絡んでのことです。『つばさキャット』単体のエピソードだけでは、原作シリーズ未読の読者には羽川が理解できないというか、感情移入がしにくいのかもしれない。それに『傷』を入れることで、羽川の思いとか、逆に『傷』では一切出てこない戦場ヶ原の立ち位置がより明確になるんじゃないかと思ったんです。西尾さんがどこかのインタビューで“羽川は暦をあちらに誘った人”という言い方をされていて、それを読んだ時に構想が固まりました」

 「化物語」以外のエピソードも入れることで、マンガならではの「<物語>シリーズ」を表現しようとしている。

 「そもそも、羽川は最初から“あっち側”のスペシャルな存在だったわけですよね。体が人間であるというだけで、猫がいてもいなくても一種の怪異……のようなもの……なんだと。暦を吸血鬼にしてしまったそのきっかけであり、ある種の黒幕でもあるわけです。一方の蟹から解放された戦場ヶ原は、いわゆるワナビーであり、“特別になりたい、悲劇でもなんでもいいから主人公でありたい”と願い続け、しかし結局はなりきれない、願い続けることすらもできないというどこにでもいる女子高生の一人でしかない。中途半端で普通の“こっち側”の代表のような人です。その中間にいる グレーゾーン暦は2人の間を揺れ動きながら、“あっち”と“こっち”の世界の橋渡し役、忍野メメの後継者として成長していく……と。これらは『<物語>シリーズ』の重要な核なのですが、原作の『化物語』ではほぼ語られていません。そしてキスショットと暦の関係、特に忍野忍の由来や行動原理も『化』では全く明かされていない。そこで、西尾さんにお願いして、『なでこスネーク』と『つばさキャット』の間に『傷物語』を挿入することを了承してもらいました。必要という意味では『猫物語』も必要なんですが、これはまだ未定です。イメージはありますが」

 マンガだけ読んでも楽しめるし、原作を読むとより理解が深まる。大暮さんの緻密な分析があるからこそ「マンガで小説を書く」というチャレンジは成功しているのだろう。

 気になる結末について「原作通り文化祭で終わります。ただ、キスショットはこのシリーズのアルファにしてオメガであるわけですから、彼女についてはより詳しく語られると思います」と語る大暮さん。最後まで目が離せない。

 「化物語」のコミカライズのコミックス第12巻が発売されたことを記念して、講談社のマンガアプリ「マガポケ」で第1~11巻が無料配信中。4月16日まで。

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