12年の本屋大賞と日本推理作家協会賞にノミネートされた人気ミステリー小説「ビブリア古書堂の事件手帖」シリーズ最新巻の3巻が6月23日に発売され、1巻発売からわずか1年3カ月でシリーズ累計発行部数が300万部を超えるヒットとなっている。人気シリーズを生んだ三上延さんに、物語が生まれたいきさつを聞いた。(毎日新聞デジタル)
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「ビブリア古書堂の事件手帖」は、神奈川県・鎌倉にある古書店「ビブリア古書堂」を舞台に、初対面の人間とは口もきけない人見知りだが、古書の知識は並大抵ではなく、本には人一倍の情熱を燃やす美人店主の篠川栞子(しのかわ・しおりこ)と、“活字恐怖症”で本を見るのも嫌だという青年・五浦大輔を中心に、栞子の元に持ち込まれる古書にまつわる事件や謎を解き明かすミステリーだ。夏目漱石の「それから」、太宰治の「晩年」などの名作が登場し、うんちくが語られながら謎が解き明かされていく。読後には題材になった名作を読みたくなるという人も少なくないという。
小学生時代には太宰治の「斜陽」や三島由紀夫の短編集などを読んでいた三上さんが、作家を目指したのは高校生のころ。一度は夢をあきらめて古書店員を目指してアルバイトを始めた。だが1年後に古書店の社員にと誘われると、改めて作家を目指した思いがわき上がり、三上さんの運命を大きく変える。それまでは純文学を執筆していたが、エンターテインメントに路線を変え、中高生に人気のレーベル「電撃文庫」の新人賞「電撃大賞」に応募した。落選はしたが、編集部から声がかかり、「ダーク・バイオレッツ」で02年6月、30歳で念願のデビューを果たした。同作でシリーズ7作を発表するなど10年にわたって作家として活躍している。
もともと「ビブリア古書堂の事件手帖」は、電撃文庫の大人向けレーベルとして09年12月に設立されたメディアワークス文庫用の企画だった。古書店員の経験を生かした斬新な案ではあったが、二つあった案のうち、三上さんが「選ばれない」と思った方が選ばれたという。三上さんは「(古書が題材だと)売れないと思ったので、(採用されて)逆に困ってしまった。そこで本を手に取ってもらうために、人物の性格を考え直しました」と明かす。本に精通する栞子と、本を読めない大輔の組み合わせを逆にすることも考えたという。
三上さんが注意したのは、題材となった名作を読んでいない人でも楽しく読めるようにすることだった。読者の視点に近い人物として、本を読めない体質の大輔を考えたのもそのためだ。さらに古書の話に興味を持ってもらうため、若い男性の読者層にとって魅力的な「普段は内気だけれど、本の話になると夢中になる年上の美人なお姉さん」という栞子の人物像を決めた。
シリーズの見せ場は、栞子が古書の知識を元に謎を解き明かしていくところだが、条件が制約されるだけに物語を作り上げる苦労は並大抵ではない。古書の値段を探ったり、東京・永田町にある国会図書館で調べたこともあったといい、さらにどれだけ時間をかけても古書を使った話として成立しないなら見送られる。三上さんは「調べて面白いけれど、作品として書くべきでない内容に行き着いてあきらめることもあります。試行錯誤です」と振り返る。
最新巻では、栞子の母に縁のある人物が登場し、栞子の謎も徐々に明らかになっていく。今後は、店名の「ビブリア古書堂」の由来、栞子と大輔のほのかな恋の行方なども語られていくという。現在はマンガの連載も始まり、映画やドラマなどの映像化のオファーも数多く持ち込まれているといい、広がる「ビブリア古書堂」の世界に注目だ。
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