サカナクション:ボーカルの山口一郎に聞く「大きなお山のマイノリティーでいたい」

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 5人組ロックバンド「サカナクション」がニューシングル「夜の踊り子」を8月29日にリリースした。ボーカル&ギターの山口一郎さんは、人気グループ「SMAP」のシングル曲「Moment」の作詞・作曲を手掛けたことでも知られ、最近は活動の場が広がってきている。そんな、バンドのフロントマンである山口さんに、自身の音楽ルーツや新作を含む近況について聞いた。(水白京/毎日新聞デジタル)

ウナギノボリ

 −−山口さんは北海道出身で、ご両親が小樽で喫茶店をやっていたという環境が今の音楽性にも影響しているそうですね。

 昼は喫茶店、夜はバーみたいな感じでちょっとしたステージがあって、いろんなフォークミュージシャンがうちの店を使ってたんです。中でも友部正人さんが歌ってたのをよく覚えていて、それが生まれて初めて見たライブだったんですけど、それで自分も音楽をやってみたいなと思ったし。喫茶店で流れている音楽もすごく多種多様で「サイモン&ガーファンクル」や遠藤賢司さん、「クラフトワーク」とか。夜になるとよりコアな音楽が流れて、店の上が住居だったんですけど、寝ていると大人の笑い声としゃべり声とその音楽が下から聴こえてくるというのが子守歌になっていたというか。そのうちに、家にあるフォークギターを弾き始めたりして、イルカさんの「なごり雪」を歌ったり。それが(ルーツに)あるので、今でも曲はアコギ1本で作ってますね。

 −−現メンバーの岩寺基晴さんも在籍していた前身バンドをへて、サカナクション結成時にクラブミュージックの要素を取り入れたそうですが、フォークやロックをベースにそれを付加した経緯は?

 クラブミュージックって、音が一つずつ増えていくことやループすることで高揚したり感情をコントロールする音楽だと僕は思っていて、それが、文学でいうと俳句や短歌のように決められたリズムの中で美しさを競うというか、何かを隠喩(いんゆ)したり比喩したりすることにつながる気がして。そういう日本古来の奥行きや深みをロックに取り込んでどう鳴らすかっていうのが、クラブミュージックを交ぜ合わせるようになった一つの流れです。

 −−バンド名のサカナクションは“サカナ"と“アクション"を合わせた造語ということですが、実は釣りがお好きなんですよね。

 見えている世界の、そのさらに下に、あるルールで魚が生活していて、こういう地形でこの時間帯だからここに隠れてるだろうなっていうのを想像してさおを投げて、実際に釣れたときは「来た!」って思うし、見えないものを意識するというのが、音楽を作ったり言葉を考えるときの感覚に近いんですよね。それが、言葉にするのは恥ずかしいから、何かに比喩したり隠喩するという制作スタイルになっていったのかなって。

 −−なるほど。新曲「夜の踊り子」についてお聞きしたいのですが、今作は12年度の「モード学園(東京・大阪・名古屋)」のCMソングとして制作されたそうですね。

 今の若者って、学校選びとか将来を考える意味で“どんな未来が待ってるんだろう”ってすごく不安が多いと思うんですよ。そこで、クモの糸じゃないけど、何か1本たぐり寄せられるような歌になればいいなと思って。自分も前のバンドが解散したときはどうしようと思ったけど、好きなものに引き寄せられるようにクラブに行って、そこで得たものをまたライブに転換したいと思ってサカナクションを作って。そういう自分の経験を音楽にすることで、なにかメッセージになればなと思ったんです。

 −−「夜の踊り子」というタイトルに込めた意味合いは?

 冒頭の「跳ねた跳ねた~」っていうのが自分の中では日本舞踊というか、日本の伝統的な音階の感じがして、それがアタマ(冒頭)に来ることで曲を印象づけて、最終的にハイパーなものにつながっていくっていうのは、すごい僕ららしいなって。それを体現したとき、「伊豆の踊り子(踊子)」っていう言葉があるくらいだし、そこも連想してもらえればと思ってつけました。

 −−ところで、SMAPに提供した「Moment」(TBSロンドン五輪テーマソング)も大会の時期によく耳にしましたが、自分の曲がテレビから流れてくるって、どんな気持ちですか。

 いまだに慣れないですね。ロンドン五輪の男子サッカーの試合を深夜見ていたときも、いきなり流れてきて「うわっ、変な感じ」と思って。隣に誰かいたら「聴いた? すごくない?」って言いたくなる感じなんだけど、実際一人だから“はにかむ”みたいな(笑い)。でも、この曲は「サカナっぽい」「一郎さんっぽい」みたいな意見がすごくあって、それは安心したというか。時代の中に自分の音楽が入り込むっていうのは、“らしさ”みたいなものがないと(自分の)カラーにならないと思うし、五輪で流れたっていうのもスペシャルなことだからうれしいですね。

 −−そういう意味で、今後J−POPシーンに訴えていきたいという思いはありますか。

 そうですね。ロックバンドという小さいお山で有名になるんじゃなくて、エンターテインメントという大きなお山のマイノリティーでいたいです。その、大きなお山にロープウエーでたまに行って戻って来るというか。テレビからしか情報を得ず、音楽を深く探らない人たちにも、洋楽しか聴かない人たちにも、面白いねって言ってもらえるバンドになれたらいいなと。だから、テレビとかもあんまり出たくないけど(笑い)、でもその世界で勝負して広めていくっていうチャレンジもしていきたいなと思ってます。

 <プロフィル>

 メンバーはボーカル&ギターの山口一郎さん、ギターの岩寺基晴さん、ベースの草刈愛美さん、キーボードの岡崎英美さん、ドラムの江島啓一さんの5人。05年に地元の札幌で活動開始。07年、ファーストアルバム「GO TO THE FUTURE」をリリース。 山口さんが初めてハマッたポップカルチャーは、エラリー・クイーンの推理小説「Xの悲劇」「Yの悲劇」「Zの悲劇」で、「読んだ本の一番古い記憶がこの小説で、言葉って面白いなって読み始めたのが最初。それが小4のときで、そこからはかなりのスピードで早送りのように本を読んでましたね。小5では普通に(作家の)安部公房(の著書)とかを読んでました」と話した。

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