朗読少女:乙葉しおりの本の小道 第100回 新美南吉「牛をつないだ椿の木」

「牛をつないだ椿の木−童話集(角川文庫)」著・新美南吉(角川書店)の表紙(左)と乙葉しおりさん
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「牛をつないだ椿の木−童話集(角川文庫)」著・新美南吉(角川書店)の表紙(左)と乙葉しおりさん

 美少女キャラクターが名作を朗読してくれるiPhoneアプリ「朗読少女」。これまでに100万ダウンロードを突破する人気アプリとなっている。「朗読少女」で、本の朗読をしてくれるキャラクター、乙葉しおりさんが名作を紹介する「乙葉しおりの本の小道」。第100回は新美南吉の「牛をつないだ椿の木」だ。

ウナギノボリ

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 あけましておめでとうございます、乙葉しおりです。

 旧年は「マヤ暦の終わり」が話題になり、世界各国で見ると一部騒ぎになったところもあったものの、こうして無事お正月を迎えることができて本当に良かったです。

 さて、2013年は巳年(みどし)、十二支では6番目に位置する蛇さんの年です。巳年は「已(い)」という字がその語源だそうで、止む、止まるという状態を表すことに転じて「成長しきる」という意味があるとか。

 私にはまだまだ縁遠い言葉ですが、蛇さんのようににょろにょろゆっくりとした歩みでも、日々成長を目指して前に進んでいこうと思います。

 では続きまして、新春お誕生日ご紹介スペシャル! 今回は朗読倶楽部のお話をお休みさせていただいて、拡大枠でご紹介させていただきます。

●12月31日

・林芙美子さん(1903年生まれ)

 代表作「放浪記」は、森光子さん主演の舞台が有名で、2017回のロングラン公演を記録しました。

・ニコラス・スパークスさん(1965年生まれ・米国)

 昨年劇場公開された「一枚のめぐり逢い」など、多くのヒット作品を持つ作家さんです。

●1月1日

・ウィーダさん(1839年生まれ・英国)

 本名マリー・ルイーズ・ド・ラ・ラメーさん。代表作「フランダースの犬」は、テレビ番組・名場面ランキングの常連ですよね。

・ジェローム・デイビッド・サリンジャーさん(1919年生まれ・米国)

 世界的ベストセラー「ライ麦畑でつかまえて」はあまりにも有名です。

・角野栄子さん(1935年生まれ)

 スタジオジブリの手で映画化された「魔女の宅急便」シリーズで知られています。

・夢枕獏さん(1951年生まれ)

 「キマイラ」シリーズ、「餓狼伝」シリーズなどの代表作を持ち、バイオレンスとオカルトを得意とする作家さんです。

●1月2日

・アイザック・アシモフさん(1920年生まれ・米国)

 「ロボット工学三原則」を初めて描いた「アイ,ロボット」は、その後のSF作品の方向性を決定づけた名作です。

・森村誠一さん(1933年生まれ)

 「棟居刑事」の推理作品シリーズなどで知られ、その初登場作となる「人間の証明」は数度にわたり映像化されています。

●1月3日

・ジョン・ロナルド・ロウエル・トールキンさん(1892年生まれ・英国)

 ファンタジー作品に大きな足跡を残した「指輪物語」、映画化された際の原題「ロード・オブ・ザ・リング」でご存じの方も多いと思います。

・森村桂さん(1940年生まれ)

 旅行記「天国にいちばん近い島」は、原田知世さんの主演で映画化されました。

●1月4日

・夢野久作さん(1889年生まれ)

 日本3大奇書の一つ「ドグラ・マグラ」の作者として有名ですが、以前ご紹介した「お菓子の大舞踏会」など、幅広いジャンルの作品を発表されました。

・山田風太郎さん(1922年生まれ)

 「魔界転生」や「忍法帖」シリーズなどの伝奇・時代小説は後進の作家さんに大きな影響を与えました。

●1月5日

・片山恭一さん(1959年生まれ)

 「世界の中心で、愛をさけぶ」は、社会現象になるほどのヒットを記録しました。

 以上、年末年始生まれの作家さんから、2013年にちなんで13人の方をご紹介させていただきました。

 最後に一つ、お知らせがあります。

 おめでたい新年と同時に当コーナーが、ついに100回を迎えることができました! 今年もがんばりますので、引き続きよろしくお願いいたします!(^−^)

 ◇しおりの本の小道 新美南吉「牛をつないだ椿の木」

 こんにちは、新年最初にご紹介するお話は、新美南吉さんの「牛をつないだ椿の木」です。

 今年2013年に生誕100年を迎えられた新美南吉さん、このお話はその最晩年にあたる作品で、今から70年前の1943年に発表されました。

 明治時代のお話です。

 あるところに、村と隣町を結ぶ山道がありました。その途中、椿の若木を目印にして道路脇の草むらを分け入ったところに冷たい清水が湧いており、通行人ののどを潤していたのです。

 ある日のこと、人力車ひきの海蔵(かいぞう)さんと牛ひきの利助さんが水を飲んで戻ったところ、椿の木の下でかんかんに怒った山の地主さんが待ち受けていました。

 2人が水を飲んでいる間に、木につないだ利助さんの牛が、椿の葉をみんな食べてしまっていたのです。

 海蔵さんも一緒に謝ることでどうにかその場は収まりましたが、このときから海蔵さんの頭に「あの清水が道のすぐ近くにあれば……」という思いが生まれたのでした。その後、井戸掘りの新五郎さんから、「あの場所なら井戸を掘れば水が出る」と聞いた海蔵さん。でも、井戸を掘るにはかなりのお金がかかります。

 そこで、最近土地でひと財産築いたという利助さんにお願いしてみるのですが、断られてしまいました。それならみんなの力で……と、椿の木に募金箱を置いたのですが、誰もお金を入れてはくれません。やがて「自分ひとりででもやるしかない」と、海蔵さんは決意するのですが……。

 このお話で登場する舞台「しんたのむね」は、新美南吉さんの故郷・愛知県半田市に実在し、かつては作中同様に清水が湧いていたといいます。 新美南吉さんも、ここでのどを潤しながらこの作品を着想したのでしょうか……。

 何かを成し遂げることの難しさと素晴らしさを知ることができる、必読の一作です。

 ※本コラムをしおりさんが朗読する「乙葉しおりの朗読倶楽部」がiPhoneアプリ「朗読少女」のコンテンツとして有料配信しています。

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