小野憲史のゲーム時評:次世代ゲームの鍵を握る「インディーズ」

プレイステーション4の戦略を語るSCEのアンドリュー・ハウス社長
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プレイステーション4の戦略を語るSCEのアンドリュー・ハウス社長

 超硬派のゲーム雑誌「ゲーム批評」の元編集長で、現在はゲーム開発と産業を支援するNPO法人「国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)」代表の小野憲史さんが、ゲーム業界の現在を語る「小野憲史のゲーム時評」。今回は、次世代ゲーム機でカギを握る「インディーズゲーム」を解説します。

ウナギノボリ

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 ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)が新型ゲーム機「プレイステーション(PS)4」を発表した。ネットワークサービスに力を入れ、タブレットやスマートフォンなどとの連携を強化する点が特徴だが、そこでカギを握るのがインディーズと呼ばれる独立系デベロッパー(開発会社)や、小集団クリエーターの取り込みだ。

 過去のPSシリーズを振り返ると、世代交代でハード性能が上がるたびに開発費が高騰し、ゲームの発売タイトル数が減少する傾向が見られた。いまや大作ゲームでは開発費が数十億円におよぶ例もあるほどだ。これを補うのがパッケージ版の販売後に追加配信されるダウンロードコンテンツだが、これによりゲーム1本あたりの消費期間が延びる一方で、さらなる発売タイトル数の減少が懸念される。

 一方でスマートフォンのアプリをはじめ、低予算ゲームが大ヒットする例も増えてきた。フィンランドのRovio(ロビオ)社が開発し、世界で12億ダウンロードを記録したとされる「アングリーバード」は好例だ。ゲームメーカーのリストラなどで独立したインディーズが、こうした市場に続々と参入。続編志向が強く硬直化した市場に対して、独創的なゲームが登場しており、注目を集めている。

 この状況はスーパーファミコンの晩期を彷彿(ほうふつ)とさせる。当時もゲームソフトの開発負荷が高まった一方で、ファミコンソフトの受注でノウハウを蓄積した開発会社が増加し、チャンスをうかがっていた。SCEは初代PS発売で彼らに広く参加を促した結果、「パラッパラッパー」などのユニークなゲームソフトが多数登場。「ファイナルファンタジー7」などの大作ソフトと“両輪”となり、初代PSの普及拡大につながった。

 実際、こうしたインディーズゲームの取り込みを狙って、世界でさまざまなゲーム機が発表されている。米のベンチャー企業の「OUYA(ウーヤ)」、米の半導体会社NVIDIA(エヌビディア)の「PROJECT SHIELD(プロジェクトシールド)」、人気ゲーム「カウンターストライク」を生み出した米Valve(バルブ)の「Steam Box(スチームボックス)」などで、アンドロイドOSを搭載し、デジタル配信に特化している点が特徴だ。家庭用ゲーム機の間隙(かんげき)を縫って、こうしたニッチハードが急成長する可能性も否定できない。

 一方SCEもインディーズの発掘・育成に力を入れており、12年にリリースされた「風ノ旅ビト」はオンライン配信タイトルでありながら、世界中のゲーム賞を総なめにするなど、内外で高い評価を得た。ライバルのXbox360も、インディーズの人気タイトル「マインクラフト」の移植版をリリースし、500万本以上の大ヒットを記録している。このようにインディーズが今後、ゲームの重要な供給源になる可能性が高い。

 幸い独自設計だったPS3と異なり、PS4は汎用性の高い設計になっており、PCを中心に活動するインディーズには朗報だろう。逆にインディーズに高い障壁を作り、大作偏重のソフト戦略をとると、失速する可能性が出てくる。タブレットやスマートフォンユーザーには、カジュアルゲームを手軽にプレーしたい層が多いからだ。

 残念ながら、こうした動きに日本は後れを取っていたが、「東京ゲームショウ2013」でインディーズゲームコーナーの新設が発表された。こうした施策が国内のゲーム産業活性化を促すと共に、PS4の成功例にもつながることを期待したい。

◇プロフィル

おの・けんじ 1971年生まれ。山口県出身。「ゲーム批評」編集長を経て2000年からフリーのゲームジャーナリスト。08年に結婚し、妻と猫3匹を支える主夫に「ジョブチェンジ」。11年から国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)代表に就任、12年にNPO(特定非営利活動)法人の認定を受け、本格的な活動に乗り出している。

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