めめめのくらげ:村上隆監督に聞く「大人たちを無能に、子供たちは行動する人間として描いた」

映画「めめめのくらげ」について語った村上隆監督
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映画「めめめのくらげ」について語った村上隆監督

 男性デュオ「ゆず」やヒップホップアーティストのカニエ・ウェストさん、さらにルイ・ヴィトンとのコラボレーションで有名な現代美術作家の村上隆さんが、映画監督に挑んだ作品「めめめのくらげ」が全国で順次公開中だ。子供たちと不思議な生き物“ふれんど”が繰り広げる冒険ファンタジーで、「映画を作るプロセスが、自分が予想していたものよりもはるかに多くてびっくりした」と語る村上監督に話を聞いた。(毎日新聞デジタル)

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 「めめめのくらげ」は、村上監督のオリジナルストーリーだ。父(津田寛治さん)を亡くした草壁正志(末岡拓人君)は、母、靖子(鶴田真由さん)とともに郊外の街に引っ越してくる。そこで奇妙な生き物に出会う。正志は、それがくらげのような形をしていたことから「くらげ坊」と名付け可愛がる。一方、正志のおじ、直人(斎藤工さん)が勤める研究所では、子供を相手に恐ろしい研究が進められており、正志もそれに巻き込まれてしまう……というストーリーだ。

 村上監督は、キャラクター設定を分かりやすい形で構成したという。大人たちを「無能」に。子供たちは「行動する人間」に。正志をはじめとする 子供たちは「文句もいわず生きていながら、唐突に怪物が出てくると、なんとかしなければと集結して立ち上がる」。一方 大人たちは、ただ右住左住している。2000年代に入って導入された「ゆとり教育」を推進した結果、若者たちは無責任で夢見がちな「自分探し」だけを指針とする生き方になってしまい、それを推進したのは村上監督の世代なのではないかと。「反省はしなければいけない。そのためには、僕ら大人は無能だったということを今一度思い出させる要素が必要だし、その構成がおとぎ話にリアリティーを与えると思った」と話す。

 また、構成する要素に村上監督の子供時代の記憶も織り交ぜた。「子供の頃、住んでいたエリアは台風のたびに床下浸水するようなところだった。周りには長屋があり、貧乏がとぐろを巻いていて、住人たちの喧騒(けんそう)もつまりは貧乏が原因であることは子供心に分かった。そこからの脱出には米国式の『夢はいつかかなう』という詭弁(きべん)は通じず、子供心に社会構造の歪みを気づかざるを得なかった。そしてテレビの中の『ウルトラマン』や 『ゲゲゲの鬼太郎』などのお話の中に、そうした“社会ドグマ”が織り込まれるのに対して、どこか信頼感を覚えた。だから、僕のような子供に向けて、 真摯(しんし)なお話を造らねばならないと思った」と力を込める。

 そんなシリアスなストーリーの中に、可愛いキャラクターがたくさん登場する。その代表格が、正志と友情を育む、ピンク色の傘を頭に乗せた、身長38センチの愛くるしい表情のくらげ坊だ。くらげ坊はさまざまな変遷をへて、今のキャラクターに落ち着いたのだが、企画を開始した当初は「『ゲゲゲの鬼太郎』のねずみ男みたいな、身長180センチの背の高い、目のいくつもある気味の悪いふんどしをした修行僧」だったという。しかし、スタッフ間の話し合いにより、現状の形態になり、かつさまざまな形状に変身する設定に変化していった。

 今作にはまた、“現代美術作家・村上隆”としての代表作で、03年ニューヨークのサザビーズのオークションで50万ドル(約6800万円)で落札された等身大フィギュア“ココちゃん”こと「Miss Ko2」も“出演”している。出演させたその理由について村上監督は、「劇中の『ふれんど』は自分の分身。僕の分身の一人として彼女を登場させました」と いうが、今年4月にロサンゼルスで開催されたプレミアでは、ココちゃんが登場すると、「スター・ウォーズ」でダースベイダーが出てきたときのような大きな拍手が沸き起こり、「海外の人たちはアーティストとしての僕のキャリアを理解して見てくれている」ことを改めて実感したという。

 音楽にもまた、村上監督らしさが感じられる。主題歌「Last Night,Good Night(Re:Dialed)」はバーチャルアイドルとして人気のボーカロイド、初音ミクが歌う。その曲の作者、kz(livetune)さんには映画内のサントラも作ってもらったという。「テクノを意識した構成になっていて、いわゆる邦画的なアプローチではなく、むしろ“アニメ”な方向に振ってみた」と話す。

 「今回『めめめのくらげ』を撮って分かったのは、「自分は映画監督に憧れていたと思ったが、そうではなく、作品を通してメッセージを伝えるために映画を作るということだった」と村上監督。そして、「村上監督と呼ばれると違和感がある」とも。「いわゆる映画監督と違って、僕はいろんなジャンル、テーマの映画を撮れる作家ではない」とし、映画には「自分が立ち上げた企画を最後まで見せる媒体」「自分のメッセージを伝えるための媒体」という認識で接していると話す。

 その映画は現在、4本ほどが進行中で、その中には「めめめのくらげ」の続編も入っている。舞台は今作の「2年後の話」で、くらげ坊はもちろん、「今作のメインキャストは全員登場」し、「お客さん側の立場に立って疑問に応えられる設定になっている」という。とはいえ、パート2は今作あってのもの。まずは4月26日公開の「めめめのくらげ」を楽しんでほしい。

 <プロフィル>

 1962年、東京都生まれ。東京芸術大学大学院美術研究科博士後期課程修了。91年に青井画廊でアーティストとしてデビュー。98年にはUCLAアートデパートメント、ニュージャンル科に客員教授として招かれ、08年には米タイム誌の「世界でも最も影響力のある100人」に選ばれる。六本木ヒルズやルイ・ヴィトン、カニエ・ウェストなどとのコラボレーションが有名。代表的な個展に、カルティエ現代美術財団「Kaikai Kiki」(02年)、ベルサイユ宮殿での「MURAKAMI VERSAILLES」(10年)、カタールAI−Riwaqエキシビションホールでの「Murakami−Ego」(12年)。有限会社カイカイキキの代表として、若手アーティストの育成やマネージメント、ギャラリー、ショップなどの運営も手掛ける。著書に「芸術起業論」「創造力なき日本」など。アニメ作品「6HP」が13年にリリースされる。

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