“安芸の小京都”と呼ばれる広島県竹原市を舞台にしたアニメ「たまゆら もあぐれっしぶ」。亡き父との思い出の地である竹原市に引っ越して来た写真好きの少女・沢渡楓(さわたり・ふう)が、友達や地域の人との関わりを通じて成長していく心温かな物語が、「共感できる懐かしさ」をキーワードに描かれている。佐藤順一監督に話を聞いた。(毎日新聞デジタル)
ウナギノボリ
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−−「たまゆら」には、お色気シーンもない、穏やかなアニメですね。
私が関わったアニメで「ARIA」という作品があり、おかげさまでシリーズ3期まで放送しましたが、そこには何か求められるものがあったわけです。「ARIA」も「たまゆら」も、まったく悪意のない世界で、視聴者が気持ち良く見る物語を心がけています。若い中高生は刺激の強い作品を求める傾向にありますが、いろいろな世界を見た社会人の一部の方が、奇麗な物語を望んでいたりするんです。
−−奇麗な世界だと、物語を作るのが大変では?
確かに起伏がないと物語を作りづらいのは事実で、「ARIA」のときは仲間から「どうやって見せるんですか?」と言われたこともあります。切り口を多くするのがポイントですが、「ARIA」のときは「毎回最終回のようですね」と言われました。
−−「たまゆら」制作の経緯を教えてください。
「ARIA」はイタリアにある水の都・ベネチアがモデルでしたが、今度は「日本で行ける場所で、ARIAよりも地続き感がある場所でやっては?」というのが始まりですね。キーワードは「共感できる懐かしさ」で、海があり、単線の鉄道が走っている地域が候補でした。約20の候補があったのですが、そんな中で瀬戸内の島があり、穏やかな海があって、(江戸時代の)町並み保存地区のある広島県竹原市にしたのです。また実際に訪れたとき、地元の人が自分の町を好きだったのもあります。もしアニメを見た人が(竹原を)訪れても楽しい思い出になるだろうし、そんな地域なら「たまゆら」も応援してくれると思ったのです。
−−放送中のアニメ2期「もあぐれっしぶ」のポイントは?
主人公の楓に軸線を戻したことです。1期の「hitotose(ひととせ)」は、4人それぞれにスポットを当てていましたが、今回は、楓とお父さん、楓と友達という形にしています。写真部を作るので学園を描くこともできますから。あとは毎話ごとに「もっと最終回っぽくならないかな?」という話もよくしています。
−−新キャラクターは、1年上の先輩です。
まず「楓が写真部を作る」という話があり、新キャラクターを後輩にすると、楓がしっかりして目標ができてしまい、ゆるやかな雰囲気が消えてしまいます。だから新キャラクターの三谷かなえが「先輩なのに部員」という立ち位置にして、楓が後輩なのに部長にする。すると、どっちもしっかりしない感じになって、作品にぴったり合うのです。
−−今後は?
楓の知らない(幼いころに亡くなった)父の話が出てきます。いろいろな人と出会うことで父のことを知り、それを軸に成長していきます。人を失っても、その人を知る機会はあるわけで、(身近な人を失った悲しい)思いを乗り越えたところにあることを描こうと思っています。
−−今は2年生の楓ですが、3年生になった次の物語は?
そうですね。 (楓の)卒業もあるので、そうなればと思っておりますし、現実になるよう頑張ります。
プロフィル
さとう・じゅんいち=アニメ監督。代表作に「ARIA」「カレイドスター」など多数。感動させるアニメで人気。
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