松井玲奈:初主演映画「gift」が全国公開 「常にテンションが低いところにこだわった」

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 人気アイドルグループ「SKE48」「乃木坂46」の松井玲奈さんが主演し、愛知限定で公開されていた映画「gift」(宮岡太郎監督)がこのほど全国公開された。映画は、一つの地域にスポットを当てて映画を製作し、その地域の人々によって全国に作品を広げていくという「Mシネマ」の第1弾。俳優の遠藤憲一さんが一代で財をなしたが偏屈な性格で周囲から疎まれている会社社長・篠崎善三役で松井さんとダブル主演を務め、松井さんが演じる借金を抱えたキャバクラ嬢・沙織に「100時間で100万円」というバイトを持ちかけ、ある目的のために旅をする姿を描いている。今作が映画初主演という松井さんに、全国公開された時の気持ちや熱演が光る沙織役について聞いた。

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 ◇念願の映画出演を果たす

 12日から全国公開された今作だが、松井さんは「うれしいというのが一番」と全国公開決定に笑顔を弾けさせる。「全国公開の予定が最初はなかったので、そういった中で決まったというのは本当にたくさんの方が見てくださったからということと、全国の映画館の方が期待をしてこの映画を上映しようと決断してくださったからなのかなと思っています」と感謝の言葉を述べた。

 映画初出演で初主演を飾った今作を見て、「自分が出ている作品を見るというのがなかなか慣れなくて、なんか恥ずかしかったです」とほおを赤らめる松井さん。今回の話が決まったことを「びっくりしましたが、映画に出演することが夢の一つだったので、かなうことがとてもうれしかった」と心境を明かし、「早く撮影が始まらないかなと思っていました」と振り返る。そして今作を見た周囲から「よかった」といってもらったことで自身の出演作に向き合えるようになったといい、何よりも「私じゃなく『最後まで(沙織という)役として見ることができた』といってもらえたのがすごくうれしかった」と役になり切れたことを喜ぶ。

 ◇これから先を見据えた役作り

 松井さんが演じたのは笑顔がなく排他的に過ごすキャバ嬢・沙織役。「希望も何もなくて頑張ってもいいことなんて一つもないという人生に絶望している女の子」と自身の役をとらえ、「常にテンションが低いところ」にこだわったと話す。今作出演までは「お芝居をする時は声を張るイメージがあったので、意識的に大きな声を出すようにしていました」という松井さんだが、「今回の役では違うのだろうなと思い、ぼそぼそっとしゃべって、一度やってみたら『もうちょっと声を大きく』とはいわれなかったので、これぐらいがいいんだなと思って、その話し方でずっとお芝居をしました」と役作りについて打ち明ける。

 接客など店内でのシーンはなかったが、「最初にキャバクラ嬢というキャラクター設定を聞いたときは驚きましたが、お話を読んでいくとなんともやる気がなく嫌々働いている感が満載だったので、やりたくない気持ちを表現することに集中しました」と語る。撮影当時、黒髪がトレードマークの松井さんが茶髪に染めたことが話題を呼び、ファンからは賛否両論だったが、本人からすると「(髪の毛を)染めたのは初めてでしたが、意外と気に入っていました」という。そして「アイドルにとって黒髪は大事だと思いますが、今回のチャンスは先を見据えた時にとても大きなものになると思ったので、ウィッグとかではなく、自分の髪の毛を染めるという選択をしました」と決意を明かし、「先のことを考えて、間違っていなかったと思っています」と力を込める。

 ◇表情だけでなく動きでも心情を表現

 「好きなシーンはいっぱいあります」という松井さんに、特に気に入っているシーンを聞くと「歩いているシーン」を挙げ、「(沙織と篠崎の)2人の最初の距離感というものが明確に表れていて、物語が進む上でだんだんと分かり合っていくというのが(2人の歩く距離から)見えていくので好き」と理由を語った。さらに「警察署から帰ったあと、それまでずっと沙織が早歩きだったのが、警察署でかばってもらったことで初めて(篠崎の)優しさに気付き、立ち止まって一緒に歩くようになる……」と説明し、「そこからのシーンでは(沙織が)ちょっと早く歩いていても途中で気付いて、すぐに歩調を合わせて一緒に歩く」と沙織と篠崎の心の距離感を表現していると強調する。

 さらに篠崎が沙織を警察署に迎えに来たシーンについて、「警察署でかばってもらって帰っていく時、篠崎が(左右に分かれている道で帰る方向が)どっちか分からなくなる。その時に沙織が言ったせりふが、沙織が初めて心を許した時なのかな」と分析する。そして、「この(篠崎が帰る方向を間違える)シーンは台本にはなくて、撮影しながら『そっちの方がいいのでは』となって生まれたシーン。やっていて面白かった」と現場でのやりとりから出てきたシーンだと明かす。

 ◇共演の遠藤憲一から演技を絶賛される

 共演した遠藤さんの印象については「うそのない方」と評し、「いい悪いがすごくはっきりしている方で、よく怖かったかどうかを聞かれるのですが、全く怖いことはなく、とても優しくて、いい方でした」という。舞台あいさつなどの場で自身の演技を褒められたという松井さんは、「撮影中に『最近一緒にやった若い女優さんの中では一番うまい』と言っていただいて、『そんなことってあるの!』と思ってすごくうれしかった」と喜び、「その後もずっと褒めてくださるので、もっと頑張らないといけないと思いました」と撮影の励みになったことを明かす。

 沙織も篠崎もどこか孤独を感じながらも周囲にうまくなじめず、生き方が上手ではないキャラクターだが、そんな2人に共感できるかと聞くと、「うまく素直になれないところは共感できるかな」といい、「沙織は本当は誰かに甘えたり、頼ったりしたいけど、そうやって生きてこられなかったから、どう人に頼っていいか分からなくて突っぱねちゃう……というのはなんかよく分かります」と理解を示す。

 ◇アイドル映画ではないので見てほしい

 ロードームービーに分類される今作だが、松井さんは「景色がどんどん変わっていくのがいいし、旅をしているような気分にもなる」と魅力を挙げ、「移動した先々で『次は何が起きるのだろう』『どう展開していくのかな』というワクワク感が楽しめる」と分析。自身の作品については「主演の私がアイドルなので“アイドル映画”と思って敬遠しちゃう人もいると思いますが、全然アイドル映画ではなく、遠藤さんがすごくお芝居をされていて、私も負けないようにと思って頑張っていました」と自信を見せ、「この作品を見てすてきな気持ちを受け取っていただけたらうれしいです」とメッセージを送る。

 映画は公開中のため、一度見た人が2度目、3度目に見る場合の楽しみ方を聞くと、「今回は2人の人間のちょっとした感情の動きがたくさんあるので、2回目はどちらかの表情を中心に見て、3回目はもう片方を見るみたいな楽しみ方もできるかもしれない」と提案。「1回目を見て結末を知って、もう1回見ることで、篠崎の言葉の一つ一つにより重みが出たりするのかなと思いますので、そういう楽しみ方もあるのかな」と語った。シネマート新宿(東京都新宿区)ほか全国で公開中。

 <プロフィル>

 1991年7月27日生まれ、愛知県出身。2008年に「SKE48オープニングメンバーオーディション」に合格。今年開催された「AKB48 37thシングル選抜総選挙」では5位にランクイン。最近では個人の活動も目立ち、ドラマ主演、バラエティー番組への出演、ファッションショーへの出演など多方面で活躍中。今作は6月に愛知県限定で公開され、7月から全国で公開された。

 (インタビュー・文・撮影:遠藤政樹)

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