土屋太鳳:「人狼ゲーム ビーストサイド」で悪女役「自分たちが本当に苦しまないと伝わらない」

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 NHKの連続テレビ小説「花子とアン」で、主人公・花子の妹、もも役を演じている女優の土屋太鳳(つちや・たお)さんが主演した映画「人狼ゲーム ビーストサイド」(熊坂出監督)が30日に公開された。今作は、米国ではボードゲームが人気で、インターネット上でもブームとなった心理ゲーム「人狼ゲーム」をモチーフに、女優の桜庭ななみさんが主演した映画「人狼ゲーム」(2013年)の続編で、今作は村人を襲う人狼側の視点で描かれる。殺りくゲームの加害者となる「人狼」役を引き当てながらも、非日常のゲームに興奮し楽しんでしまう悪女・樺山由佳役を演じた土屋さんは、2015年の朝ドラ「まれ」のヒロイン役を射止めるなど、今、注目の若手女優の一人。土屋さんに初の悪女役や人間の本質に迫るストーリー、朝ドラのヒロイン決定などについて聞いた。

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 ◇何を伝えたらいいかに試行錯誤

 今作に出演するにあたり、「猟奇的な表現に挑戦することがセンセーショナルだというとらえ方もあるとは思いますけど、私はあまりそういうとらえ方はしたくなかった」という土屋さんは「何を伝えたらいいか、何を意識して今作に取り組むかにすごく悩みました」と打ち明ける。過激なシーンも多々あるが、「命とか心とか体が崩れていく状況を興味本位に表現するのはあまり得意ではないし、今の自分では表現し切れないと思いました」と謙そんしながらも、「ただ殺し合ったとか誰かが残るとか、そういうシンプルなエンターテインメント作品というのにはしたくなかった」と強調する。

 クランクインするまで、作品との向き合い方や伝えるべきことに悩み続けたという土屋さんだが、撮影に出かける当日、「家を出る時に姉が写真を撮ってくれ、薄暗い雲の後ろに太陽があったのですが、そういう時は太陽の形が見えるじゃないですか。私は横顔だったんですけど、その写真が“人が狼になっていく”ように見えた……」と切り出し、「その時に『この作品は誰が残るとかそういう問題じゃなくて、人が人でなくなっていく過程を描いた映画なんだろうな』というふうに感じ、それを意識していこうかなと思いました」と歩むべき道筋を見付けたことを明かす。

 ◇演じ切れたのは共演者のお陰

 土屋さんが演じる樺山由佳は、出演中の朝ドラでのイメージなどとはまったく異なる役どころの悪女役だ。由佳役について「こういう役だと説明するのが難しいのですが、由佳は友達が欲しかったんだろうなと思いますし、誰かを信じたかったのでは」と印象を語り、「自分は何者なんだろうとすごく迷う時期があるじゃないですか。そういった中で象徴的な女の子が由佳ちゃんなのかなというふうには思いました」と分析する。

 殺りくゲームという極限状況を演じるため、「『こういう取り返しの付かない世界は嫌だ』と見ている方に感じていただくには、自分たちが本当に苦しまないと伝わらないと思った」と決意を固めて撮影に臨み、「ギリギリの状態で演じていた」と語る土屋さん。それは「キャスト全員も同じ」といい、「お互いに本気で攻めていかないといけないので、いろいろと話し合いました」と明かす。さらに「『なんでこんな言葉を吐かないといけないんだろう』とか、『なんでこんなに一人になるまで殺していかないといけないの』とか、いろんな気持ちが出てきたりしました」と続け、「由佳としてちゃんと生きられたのは、今回のメンバーだったからだと思います」と共演者に感謝する。

 ◇魂を削るような現場

 泣き叫んだり暴れたり、作中の登場人物には“怒”や“哀”の感情が多く見受けられるが、気持ちを高めていく上で、「本当にその子として生きるしかない」と感じたと話す土屋さん。熊坂監督からは「さらけ出せとかむき出せとか、演技をする上での土台を教えてもらった」といい、「本当の意味でのむき出すとかさらけ出すとかというのは、すごく勇気がいることでもあるし、魂を削っていかないといけない。そうしないと何かつかめない気がした」と力強く語る。「みんなが自分の魂を削っているような現場だったと思う」と振り返ったあと、精神力だけでなく体力も消費する撮影が続いたからか、「(撮影後の)ご飯はすごくおいしかったです(笑い)」とチャーミングな笑顔を見せる。

 撮影の合間には共演者と「人狼ゲーム」を楽しんだそうで、「私は(人狼の時には)すぐばれました。一番最初に『怪しい』といわれて終わりましたからね」と笑う。理由は、「ニヤニヤしちゃったり、顔に出ちゃう。苦手ですね……」と映画で見事な演技を見せたとは思えないほど、無邪気な表情を見せる。ちなみに、共演者の中で誰が一番強かったかを聞くと、対馬瞳役の佐久間由衣さんの名前を挙げ、「『私は違うよ』といいながら人狼が勝った時に喜んでいて、みんなで『怖い……』と(笑い)」と暴露した。

 ◇言わずに後悔するのは嫌

 土屋さん自身、極限状況では「とことんぶつかって泣きます」という。とにかく「いった方がいいと思った時はいわずに後悔するのが嫌」と話す土屋さんは、先日決定した15年前期のNHK連続テレビ小説「まれ」のヒロイン役についても「もう絶対いわないと後悔するということで最後、『私にチャンスをください』と言いました」と打ち明ける。その結果、「プロデューサーさんも『チャンスを与えたい』と思っていただいたそうです」とうれしそうに話し、「次の『まれ』のチーフカメラマンさんが、『最後のオーディションの時、これをいわなきゃ絶対後悔するという気持ちで「チャンスをください」とこっちを向いたでしょう。あれがすごく伝わってきた』と。スイッチャーさんとかいろんな方が私(土屋さんをヒロインに)と言ってくれたみたいで、地道にコツコツやってきてよかったなと思いました」と感慨深げに当時の状況を思い出していた。

 出演決定の知らせを聞いた時はあまりのうれしさに「えー!? 待って!」と言葉にできないほどの喜びを感じたといい、うれしさを誰に伝えたいかという質問には、「多分プロデューサーさんとかは『家族』と言うと思っていたのでしょうが、私が(現在、朝ドラで共演中の)お姉やん、吉高由里子さんに伝えたい』と言ったら、『えっ!?』と(いう反応だった)」と屈託のない笑顔でその喜びを表現する。

 ◇どうとらえられるか不安

 土屋さんは小さい頃、「『みんなのうた』で流れていた『アイアイ』」が大好きで、「流れた瞬間にテレビの前に行って一緒に歌っていて、泣いている時も姉が『アイアイ』を歌えば泣きやんだらしいです」と笑いながら教えてくれた。今作について観客に、「どうとらえられるのかな……と思った」と不安を隠せない様子だが、「精いっぱい、できる限りみんなで話し合いながら作りました」と自信ものぞかせる。「いろんな見方があるとは思いますが……」と前置きし、「『自分って何者なんだろう』とか『自分らしく生きる実感ってどこにあるんだろう』とか、そういうふうな考え方を持って意識して見ていただけらいいのかなと思います」とアピールした。新宿武蔵野館(東京都新宿区)ほか全国で公開。

 <プロフィル>

 つちや・たお 1995年2月3日生まれ、東京都出身。2005年にスーパー・ヒロイン・オーディションMISS PHOENIX審査員特別賞を受賞し、08年公開の「トウキョウソナタ」で女優デビュー。主な出演作に、映画は「釣りキチ三平」(09年)、「ウルトラマンゼロ THE MOVIE 超決戦!ベリアル銀河帝国」(10年)、「アルカナ」(13年)など、ドラマはNHK大河ドラマ「龍馬伝」やNHK連続テレビ小説「おひさま」、TBS系の「桜蘭高校ホスト部」などがある。現在はNHK連続テレビ小説「花子とアン」に出演中で、15年前期のNHK連続テレビ小説「まれ」のヒロイン役に決定している。

 (インタビュー・文・撮影:遠藤政樹)

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