ショートアニメ:「FASTENING DAYS」石田裕康監督に聞く 完全デジタル化「十分できるレベル

YKKのショートアニメ「FASTENING DAYS」を手がけた石田祐康監督
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YKKのショートアニメ「FASTENING DAYS」を手がけた石田祐康監督

 大学在学時に自主制作した「フミコの告白」(2009年)で第14回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門の優秀賞を受賞し、その後に発表した作品でも数々の賞を受賞した石田祐康監督の最新作「FASTENING DAYS」がYouTubeなどで公開中だ。「FASTENING DAYS」は、ファスナーメーカー「YKK」の「Fasten(つなぐことの大切さ)」というメッセージをテーマとしたショートアニメで、元電気グルーヴの“まりん”こと砂原良徳さんが音楽を担当し、エンディングテーマはPerfumeの「Hurly Burly」を採用している。声優として「ハヤテのごとく!」などの白石涼子さんらが参加。制作を手がけた石田監督に、今作の制作過程やデジタルによるアニメーション作りなどについて聞いた。

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 ◇自主制作の感覚を思い出した

 「FASTENING DAYS」は、近未来を舞台に、正義感が人一倍強いヨージと、手先が器用で気が優しいケイが、さまざまなファスナーを自在に放出できる「Fastening Machine」を使って人を幸せにするために奮闘する姿を描いたショートアニメだ。ファスナーがモチーフの作品をと聞いた時の心境を「最初はさっぱり分からなかった」と笑いながら明かした石田監督だが、脚本を読み「荒唐無稽(むけい)なところが、自分向きなのかなとも思った」という。

 今作は企業のブランディングアニメという珍しい性質の作品だ。「テレビシリーズは、より制限が厳しいものが多く、原作があってキャラクターデザインや監督が決まっていて、いろいろとお膳立てがしっかりした上できっちりビジネスとしてやっていくというところがある」とテレビアニメについて持論を展開。一方、今作については「今回の作品がビジネスではないと言っているわけではありませんが、すごく自由度が高くて、どこか僕が学生の頃にやっていた自主制作の感覚を残したままやれたとは思います」と今作の特性を語る。

 ◇デジタルは動きのチェックがしやすい

 石田監督の作業場を見ると、作画をはじめ、多くの部分でデジタル化されている。石田監督は「最初に作ったのがデジタルで、そのあとに作った時にデジタルの古いタブレットを使ったのですが、まだ性能が(やりたいことに)追いついていなく『これでは絵が描けない』というので紙に移った」と自身の体験を語る。その後、「どんどん性能が上がってきて、板状ではなく液晶画面のタブレットを使い始めたら、いろいろなことができると感じ、便利さに引かれて移行している」と次第にデジタルでの作業へと変わっていった経緯を説明する。

 デジタルでの作業の利点を尋ねると、「動きのチェックがしやすい」ことを挙げ、「デジタルで描いてあればその場で見ることができる」と石田監督。利点が多いデジタル化だが、業界全体では「時代に合わせてスムーズにデジタル化していった業界や職種に比べると、(アニメ業界はデジタル化に)とても手こずっている」と見解を示す。そして、「職人的な色合いが強い世界ですし、それを基軸に出来上がっているシステムで動いているところが大半なので、なかなか変えられない」と分析し、「連携を取らないと作品は作れないので、一部だけ変わっても、ほかがみんなそうだから難しい」と問題点を指摘する。

 デジタルと紙の連携やバランスの取り方について、石田監督は「なかなか連携は難しい」と前置きし、「作業工程がいくつか枝分かれしている中で、路線の切り替えポイントをどこか分かりやすいところに指定してやれば連携はできるはず」と断言。具体的には「作業が進んでいくと美術さんに行って背景作業に入ったり、CG(の担当)さんに行ってCG作業に入ってと枝分かれする瞬間があり、そのタイミングに合わせてそこから先はデジタル作業と決めればいいのでは」と提起する。

 ◇個人と集団それぞれのよさを語る

 石田監督はスタジオコロリドに拠点を置く以前は、多くの作品を自主制作で発表してきた。「個人(制作)は気楽」と笑う石田監督は、個人制作のよさを「できない限界が明確にありつつも、全部自分の手を動かして自分の範疇(はんちゅう)でやるから全作業にそれなりに納得がいく」と説明し、「当然、全部自分でやっていますから、やり応えはすごい」と力説。対して集団での制作は、「やり方にもよるけれど、大きい規模の作品であれば、説明書だけ書いて、ほとんどの作業を自分がやらないことになる」と切り出し、「(上がってきたものを)チェックして直したりとかして、自分が想像していた説明書の完成予想図に近付けていく。自主制作の全部自分でやっていたというやりがいに比べると、確かに(方向性が)ちょっと違う」と分析する。そして、「そういう喜びをかみしめていた人間からすると、やっぱり我慢はしないといけない」と苦笑いする。

 石田監督の言う「我慢」という部分がある分、「自分よりも能力の高い人はいっぱいいるので、そういう人たちにお願いできれば、よりよい結果が出てくる」と集団制作の利点を強調し、「任せたほうが絶対いい部分はあるし、思いつかなかったことも出てくる。なにより自分で処理できなかった圧倒的物量をこなせる」と長編大作には集団での作業が欠かせないという。

 ◇長編制作に意欲を見せる

 これまで短編を数多く発表してきた石田監督だが、長編への思いを聞くと、「作りたい気持ちはすごいあるけど、まだあまり想像がつかない」と回答。「長いからこそ語れるものや見せられるものというのがある。でも今はまだそれは難しそうなので、短編ばかりやっている」と語る。長編を制作するとしたらどんなジャンルを……と投げかけると、「『FASTENING DAYS』にしろ『フミコの告白』やそれ以前に作った作品にしろ、企画時には長編にしようと思えばできるなというような心積もりではある」と明かし、「考えればいくらでもいろんなものが付け足せそうなので、どれも短編向けのシンプルな内容だが、やろうと思えばシンプルなテーマでありつつも長くはできる」と力を込める。そして、「長いからこそ、より迫力をグッと高めて見せられるんじゃないかなという思いはあるので、長編でもやっぱり似たようなことをやりたいのかもしれない」と語り、「それ以外のジャンルは自分にとっては未知数」と話した。

 今後、新作を制作していく上で完全デジタル化を目指すのかと尋ねると、「アナログのよさはすごく分かるし、実際描いていて実は鉛筆のほうが楽しかったりするところはあるが、僕の目的は絵を描くことではなくて作品を作ること」と言い切り、「その優先順位でいえば作品を作るためによりよい方法を取るとするなら、やっぱりオールデジタル」と言い、「それはやったらやったでちょっと面白いのではと」と笑顔で語る。「会議の時に紙に印刷して見たほうが見やすいというのは当然あるが、実際の制作においては、全部デジタルでも十分できるレベルには来たなという感じ」と完全デジタル作業への期待感を示した。「FASTENING DAYS」はYouTubeなどで公開中。

 <プロフィル>

 1988年生まれ、愛知県出身。京都精華大学アニメーション科卒業。大学在学中の2009年に発表した「フミコの告白」が東京アニメアワード2010の学生部門優秀作品賞、第14回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門優秀賞など多数の賞を受賞。11年には大学の卒業制作として発表した「rain town」が第15回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門新人賞など数多くの賞に輝いた。11~12年は、劇場版アニメ「グスコーブドリの伝記」の制作に参加。13年には「陽なたのアオシグレ」が劇場公開された。現在は、スタジオコロリド所属のアニメーター。

 (インタビュー・文・撮影:遠藤政樹)

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