暗殺教室:羽住英一郎監督に聞く 続編は「すぐ撮れる準備はできている」

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 「週刊少年ジャンプ」(集英社)で連載中の松井優征さんの人気マンガを実写化した映画「暗殺教室」(羽住英一郎監督)が公開中だ。地球を破壊しようとたくらむ謎の生物「殺(ころ)せんせー」が、落ちこぼれが集まる椚ケ丘中学3年E組の担任となり、生徒たちは国家からその暗殺を依頼されるという斬新な設定が話題の原作を、「海猿」シリーズなどで知られる羽住監督が映画化。「Hey!Say!JUMP」の山田涼介さんが潮田渚役で映画初主演を務め、「嵐」の二宮和也さんが殺せんせーの声を担当するなど話題は尽きない。羽住監督に、実写化でのこだわりや今作に込めたメッセージ、続編の可能性などについて聞いた。

ウナギノボリ

 ◇今まで演じた中で一番特殊な役

 今作の監督のオファーを受けた際、「原作自体が持っているテーマにすごくシンパシーを感じた」と話す羽住監督。「ビジュアルの面白さは実写の方が、よりばかばかしさが増すのでは」と感じたという。続けて、「原作のイメージがそれぞれある中で、キャストの顔(外見)だったりで(キャラクターのイメージを)一つ提示する」と多様な意見が飛び交うことを意識しつつも、「殺せんせーがここに(実際に)いるということに関しては、ビジュアル的には実写が得。そういう部分では楽しい映画になるだろうなという思いの方が勝っていた」と打ち明ける。

 原作が連載途中なこともあり、羽住監督は原作サイドに「物語はどこに向かっていくつもりなのかということをちゃんと確認したい」とアプローチしたという。「教室で暗殺をするということだけれども、残虐なものを子供が面白がって見るというジャンルではないとはすぐ分かったが、最終的にもそう(その路線)なのかということをまず確認しました」という。

 方向性の確認と共有ができたあとは、「原作は本当に面白いエピソードが並んでいるので、原作のどこまでをやるか」を思案。「2時間の尺の中に収めないといけないので、一番盛り上がるところは、当時連載されている中ではやっぱり鷹岡(明)」と決意し、「南の島で暗殺しようとして生徒が頑張るところが、暗殺という言葉で成長しているところを見せられるし、そこまでがいいのかなと」と実写化する範囲を決めた。

 マンガ原作ではキャストのビジュアルが話題となるが、「(キャストが)本当の中学生ではちょっと難しいのかなと」と当初から感じていた羽住監督は、「年齢を全体的に上げていきつつも中学生の話というところで、山田くんは年齢的には20歳は超えていますが、まだ制服を着ても全然いけちゃう」と主演決定の経緯を説明。山田さんの印象について、「渚くんは特にすごい悪いやつでもないし、非常につかみどころがないからすごく難しいと思う」と切り出し、「でも山田くんはそのへんをナチュラルにというか、本当にフワッとした存在感というものをうまく出してくれた。すごくよかったです」と絶賛する。

 ほかにも印象的なビジュアルの加藤清史郎さん演じるイトナや、キレキレの演技を見せている鷹岡役の高嶋政伸さんなど豪華なメンバーが顔をそろえた。「イトナを探すのが大変で、ちょっと特殊な違和感がないといけないので、最初はハーフの子をキャスティングしたほうがいいのかなと思った」と話す羽住監督だが、「清史郎くんという発想が最初はなかったけれど、イトナだけリアル中学生にしてしまえばいいと(笑い)。それで清史郎くんというところまで年齢を下げました」と明かす。

 さらに「本当に期待以上」と絶賛する高嶋さんについて、「とにかく圧倒的な存在感でいてもらいつつ、今回の映画では鷹岡を三(の線)のキャラで終わらせたかった」という。その考えで「最後の最後まで嫌なやつだけれど、一件落着した後は三の線を出せる人がいいなと考えていた中でのキャスティングだった」と高嶋さんの起用理由を語る。「高嶋さんは怪演してくれて、最後もこちらの期待通りにあと味悪くなく終わらせてくれた」と手放しで褒める。

 今作で忘れてはならないのが殺せんせーの存在だ。撮影では「生徒の芝居をとにかく引き出したかった」という思いから、「なるべくそこに(殺せんせーが)いるようにしたいと思って、衣装と着ぐるみを作って俳優さんに演じてもらった」という。「中にはもちろん衣装もCGになっているカットもあるが、衣装はCGで描くのではなくて実写をそのまま使って、あとは触手と顔だけを描いていく作業にしようとした」決意するも、「そこに行き着くまでが結構大変でした」と明かす。「実際に人間が入ってあの体を作ってというと、造形を作る際にもバランスが難しかった」と振り返り、さらに「E組全体を、どう学園ものとして空気感を出すかというところで、なるべく(撮影を)合宿スタイルにした」とこだわりを明かした。

 殺せんせーの魅力を「生徒を絶対に裏切らないというところ」と感じていた羽住監督だが、「割とダメなところもあるというか、非常に抜けている部分もあったりするのが魅力的」とも語る。殺せんせーの魅力を含めて原作には「素晴らしいメッセージがあるので、それを僕は単純に映画というフォーマットに変えていくだけだった」といい、「クライマックスを、実写映画として鉄塔みたいなシーンに変えたりとか、そういうことで映画としての満足感を持てる2時間を作っていった」と映画ならではの要素を足していったという。

 「殺せんせーが『暗殺者としてまだまだ未熟です』とか『君たちは立派な暗殺者になってください』というのをすべて、暗殺者というのをちゃんとした人間、正しい人間と置き換えて僕は撮っていた」と今作に込めた思いを告白。そして、「暗殺というものは要は高校や大学に行く、いい会社に行くというのではなくて、人として生きていくためのものだから、落ちこぼれのE組でも暗殺者の才能がある子たちであふれている」と力を込め、「暗殺者を人とすれば、E組は素晴らしい教室なのではと思う」と熱く語る。

 今作を「年齢層を問わず楽しめる映画を目指して作った」と話す羽住監督は、「原作が好きな方たちは原作を知っている分、より細かいところを楽しめると思うし、知らない人も話のつかみやビジュアルのくだらなさも含め、すごく楽しめると思う」と自身をのぞかせ、「決してあと味が悪い映画ではないので、純粋にエンターテインメントとして楽しんでもらいたい」とメッセージを送る。

 原作が連載途中ということや、映画の中でも思わせぶりなシーンがちりばめられていて、続編に期待が寄せられている。羽住監督は「連載は続いているので、どこまで見せるかということを原作サイドとも話したし、映画もぜひ2作目をやりたいというのはスタッフたちとも話している」といい、「あとはこれがヒットしないとできないですが(笑い)、ヒットさえしてくれればいつでもすぐ撮れる準備はできています」とちゃめっ気たっぷりにアピール。そして、「実は第2弾の予告編をすでに撮ってある」と告白し、「映画が公開して、手応えがあればそれをくっつけて上映しようかと思っています」とほほ笑んだ。映画は全国で公開中。

 <プロフィル>

 1967年3月29日生まれ、千葉県出身。2004年に「海猿」で映画監督デビュー。その後、「LIMIT OF LOVE 海猿」(06年)、「THE LAST MESSAGE 海猿」(10年)、「BRAVE HEARTS 海猿」(12年)をはじめ、「おっぱいバレー」(09年)、「ワイルド7」(11年)などを手がける。次回作にドラマ「MOZU」(TBS・WOWOW)の劇場版を控える。

 (インタビュー・文・撮影:遠藤政樹)

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