龍三と七人の子分たち:北野武監督、藤竜也さんに聞く・下 カーチェイスは「アクシデントでもうけた」

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 引退した元ヤクザの“ジジイ”たちが、詐欺集団の“ガキ”ども相手に大暴れする娯楽作「龍三と七人の子分たち」が25日に全国で公開された。北野武さんの17作目の監督作。元ヤクザの組長を藤竜也さんが演じるほか、近藤正臣さん、中尾彬さん、小野寺昭さん、品川徹さん、樋浦勉さん、伊藤幸純さん、吉澤健さんの平均年齢70歳超えのベテラン俳優たちが、刀や拳銃、カミソリ、五寸くぎといった武器を片手に、安田顕さん演じるガキどもと大立ち回りを演じる。もともとコンピューターグラフィックス(CG)を使ったアクションシーンが嫌いだという北野監督。今作では、CGを使わない“アナログ”のアクションシーンも披露する。そのアクションシーンについて、北野監督、藤さんが語った。

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 ◇“想定内”のCGと“想定外”のアナログ撮影

 「本当にテーマパークのライド(乗り物)ですよ(笑い)。相当な遠心力もかかるから振られますしね。本当に振られたら危ないですからね。みんなそれなりに必死につかまっているんですよ」。藤さんがそう話すのは、クライマックスの、龍三たちが市バスをジャックするカーチェイスシーンだ。特に龍三は“職業柄”指が2本ない。残った3本の指で「正直に」ポールをつかんでいたため、藤さんは、手が痛かったと苦笑する。

 名古屋市内のある商店街の休みの日を利用して撮影したというそのシーンについて、北野監督は「実際、みんなを車に乗せて走ってみたら相当危険で、中で(人が)慌てふためいているのが見えたり、スタントマンが職業柄ギリギリまでやるからガンガンやっちゃって、乗っている人たちはたまんねえってのなんのって(笑い)」と振り返る。

 CGは、編集の際、バスの中を撮ったカメラを消した以外使っていないという。バスのスピードも映っている通りで「早回しはしていない」(北野監督)し、商店街に作ったオープンセットも実際に壊しては組み立て、壊しては組み立てを2~3回繰り返したそうだ。北野監督がそういったアナログの撮影にこだわるのは、自身が「ドンと爆発して人が飛んだり、車が横転してもまだ生きていて屋根に上ったりといった(ハリウッドが作るような)CGのアクションが大嫌い」だからだ。

 北野監督によるとCGは「人間の想像で作っちゃうから想像の範囲内」。しかしアナログでは想像以上のことが起こりうる。「今回は、よく商店街を作ったなと思うし、本当に(名古屋の)フィルムコミッションがよく手伝ってくれて、美術さんも、よくぞ作ってくれましたって感じで。相当大変だったけど、あのシーンがあることによって、割とうまく締まったというか、大作になったね(笑い)」と胸を張る。

 ◇偶然が生んだ“もうけた”シーン

 北野監督は、むだなカットは撮らず、撮影は「早い」ともっぱらの評判だが、監督自身もそれは自覚しているようで、「それは自分が漫才師出身だからじゃないですかね」と分析する。「客を入れといて、客前で1回漫才やって、同じネタを2回やっても全然ウケないでしょ。1番目が一番いい演技と決まってるから」と語り、「役者さんもね、同じ演技を何回もやっているとじゃんじゃん鮮度がなくなってくる。だから俺、やり直しというのはせりふを間違えたときくらいですよ。あとはオッケー、オッケー」と自身の“早撮り”について説明する。

 その言葉に藤さんもうなずきながら、「北野さんは、頭の中にある必要なカットしか撮らないから撮影時間も長くない。あれもこれもと撮ってワンシーンに時間がかかると、エネルギーの消耗は役者にはとても大きいんですよ。刺し身を手でベタベタ触ってクタクタになったのを持って行かれるみたいな感じになっちゃう。だけど北野さんの場合はすっと切ったらすっと盛ってくれるからこちらも楽だし、いちばんベストのものを使ってくださるから、それはもうありがたかったですよ」と北野監督の手腕を称える。

 北野監督によると、「撮りたいカットを撮ればいい」そうで、アクションの時こそ複数台のカメラを使うが、それ以外は1台のカメラで事足りるという。あとは「だいたい頭の中に編集したもの」があり、目をつぶればそのシーンが浮かんできて、それをなぞりながら撮影を進めていくのだそうだ。だから、偶然撮ったカットが良かったということも基本的に「ない」。ただ、今回は珍しくその「偶然」があった。「バスの中から撮った画がガンときたから、これは『もうけた』ってもんでさ(笑い)。(バスの窓)ガラスにひびが入ってきた時はみんな焦りまくったというけど、こっちは得したな」と、アナログの思わぬ“効果”に、してやったりの表情を浮かべる。

 ◇「とにかく初日まで生き延びてくれ」

 タイトルの「七人」は、敬愛する黒澤明監督へのオマージュを込めて、「七人の侍」(1954年)から付けた。龍三をはじめとする8人のモデルは、浅草時代に北野監督が見た「いろんな人」から着想を得ているという。その8人の俳優たちと、これまで北野作品ではやったことのなかった脚本の読み合わせを今回初めてしたそうだが、それは、「いい年の方もいらっしゃるので、本当にしゃべれるだろうか、本当にこの人動けるんだろうかということの確認だけ」と冗談を交えて話す。

 撮影中、どうしても難しい場面では吹き替えを使ったりもしたそうだが、「大半は本人たちが全部(演技を)やった。よくやり切れたな、と」と出演者を称える。しかしそこで終わらないのが北野監督。「とにかく初日まで生き延びてくれ、舞台に上がってくれ、あとはどうでもいいから。黙とうから始まるのは嫌だから(笑い)」と、毒舌を交えながら作品をアピールした。映画は25日から全国で公開中。

 <北野武監督プロフィル>

 1947年生まれ、東京都出身。主演も務めた「その男、凶暴につき」(89年)で初監督。98年製作の「HANA−BI」で第54回ベネチア国際映画祭金獅子賞を、「座頭市」(2003年)で第60回ベネチア国際映画祭銀獅子賞(監督賞)を受賞している。ほかに、「ソナチネ」(1993年)、「菊次郎の夏」(99年)、芸術家としての自己を投影した三部作「TAKESHIS’」(2005年)、「監督・ばんざい」(07年)、「アキレスと亀」(08年)や、「アウトレイジ」(10年)と続編「アウトレイジ ビヨンド」(12年)などがある。今作「龍三と七人の子分たち」が17作目の監督作となる。

 <藤竜也さんのプロフィル>

 1941年、北京生まれ。大学時代にスカウトされ日活に入社。62年、「望郷の海」で役者デビュー。「愛のコリーダ」(76年)で報知映画賞最優秀主演男優賞を受賞。主な映画出演作に「アカルイミライ」(2003年)、「村の写真集」(03年)、「サクラサク」「私の男」「柘榴坂の仇討」(いずれも14年)などがある。現在、主演を務めるNHK時代劇「かぶき者 慶次」が放送中。

 (取材・文・撮影/りんたいこ)

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