大塚愛:出産を経て「深くて切ないラブソングが書けるようになった」

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 シンガー・ソングライターの大塚愛さんが、7枚目のオリジナルアルバム「LOVE TRiCKY」を22日にリリースした。ダンスミュージックを主軸とする音楽ユニット「STUDIO APARTMENT(スタジオ・アパートメント)」の阿部登さんをサウンドクリエーターに迎え、「聴く音楽」をテーマに制作した作品で、先進的なエレクトロサウンドで新境地を開いている。以前は「歌う楽曲」と「聴く楽曲」を分けて考え、あえてカラオケで歌える曲をシングルに選んでリリースしていたという大塚さん。今作の音楽的変化の背景や出産を経て母になったことによる曲作りへの影響などについて聞いた。

ウナギノボリ

 −−ご自身のヒット曲「さくらんぼ」の「もう1回!!」のフレーズは、カラオケで盛り上がることを想定して書いたんでしょうか。

 まったく意図してなかったです。あれはただ、もう1回サビがくるよっていう印というだけで、なんでそこがピックアップされたのかいまだに謎で……。でも、この曲が人の目を引くんじゃないかなっていう賭けというか、望みを託して、見事知ってもらえたっていうことはうれしいというか、ありがたかったです。

 −−ドラマ「花より男子」(2005年)のイメージソングになった「プラネタリウム」に関してはどうですか?

 あの曲は私、別にそんなに好きじゃないんです(苦笑い)。(この曲を作った)10代の頃って、ちょっと商業的に曲を書いてた部分があって、自分が好きな音楽というよりは、受け入れられやすいだろう、人に求められやすいだろうっていうことを大事にして書いてた部分があるので、「自信作です」みたいな感じで作ったわけではないんです。だから、なぜ(ヒットしたのが)これなんだろうなって。

 −−そんな中で、今回のアルバム「LOVE TRiCKY」で“聴く音楽”を掘り下げようと思った経緯は?

 前作までの5作のアルバムで、商業的なものから自分が好きだなって思う音楽に少しずつ移行していて、(前作の)6枚目で、さらに自分の好きな音楽にだいぶ寄れたアルバムができたところで、ちょうど(音楽シーンの流れとして)CDも売れなくなり、人の目を気にした楽曲制作じゃなくていいということもあって、だったら今までB面扱いしていた好きな音楽をとことんやろうかなって。(今作のような)オシャレな音楽も好きだったんですけど、オシャレな音楽は売れないと思っていて、まずは売れたかったので、当時は「今はやることではない」と思っていました。

 −−今作はダンスミュージックを主体にしていて、トラックのイメージを元に歌詞を書いていったそうですが、例えば「キミに恋したってそれがすべてにはならない……」と歌う「I’m lonely」はどんな構想から生まれたんですか?

 ちょうど私の周りの女性スタッフもオーバーサーティー(30歳以上)になってきて、みんなが口をそろえて「どうやって恋するんですかね?」って(笑い)。男の人を条件で見ちゃったり、夢をプラスして見られなくなる感じがあって、「ちっちゃいな」みたいなのが見えちゃうとサッと冷めたり。そうなった時に、恋に恋ができなくなる感じがあるなっていう話で盛り上がってました。そこからですね。

 −−「laugh」という曲は、“笑い”を意味する半面、言葉がすごく辛らつだったり、葛藤しているような内容の歌詞ですね。

 笑顔って、癒やされたりとか“可愛い”とか、そういうライトなイメージがあるんですけど、あざ笑ったりバカにする感じだったり、そういう笑いの方なんです。私、自分のことが嫌いで、よく「最低だなお前!」って思いながら、笑っちゃうぐらい嫌いだなって思うことがあって。だから、自分の中の自分と会話するみたいな。ライブの時も必ず、「(歌詞を)間違えてしまいなさい」みたいな悪魔のささやきが聞こえるんですよね。そういう、外から見える自分と、その中にいる自分との折り合いがつかないと、結構イラッとするというか。

 −−なるほど……。ところで、出産をされて母になったことで曲作りに何か変化はありましたか?

 ずっと、すごく切ない恋愛をしてるかのような気分で、ラブソングを書いていても、いわゆる男性のことを思って書いた今までのラブソングよりも、ずっと深くて切ないなっていう感じはあります。不思議なんですけど、自分が子供を産んだ時に自分も生まれたような気がして、「end and and~10,000 hearts~」は、自分が生まれてくる産道を歩くような感覚で書いた曲で……。

 −−「end and and~10,000 hearts~」は、実際に何人もの方から心音を集めて、それを基に制作したそうですね。

 実際に心音をトラックに入れてみて、より心音が聞こえるところと聞こえないところを比較すると、聞こえるところの方が、サーモグラフィーでいう“温度”があるような気がするんですよね。やっぱり(自分の時も)心音が確認できてからが妊娠ですよって先生に言われてたので、確認できるまではドキドキで。なので、「生きてますよ」って心音を聞かせてもらった時の感動というか、偉大なる感じは大きかったです。そういう意味で(この曲を作った)タイミング的にはよかったなって。

 −−アルバムタイトルを「LOVE TRiCKY」にした理由は?

 ずっと、真面目にやることが恥ずかしかったんです。大阪人としては「(マクドナルドのことを)マックて言っちゃったの? マクドやろ?」みたいな(笑い)。なので、私の曲には英語のタイトルがそんなにないはずなんですけど、今回は英語をしゃべれないのに英語のタイトルを付けているところとか、ちゃんと真剣にやった感じがトリッキーだなって。今までは(曲について)「ふざけてるだけなんで」「ただ盛り上がってるんで」とか、あとは普通に「ラブソング」とか、そういう説明が多かったんですけど、今回は、言葉とトラックのグルーブ感だったり、すごく音楽的な、真面目な取り組みをしたなって思ってます。

 <プロフィル>

 1982年9月9日生まれ、大阪府出身。2003年9月にシングル「桃ノ花ビラ」でデビュー。同年12月に発売した2枚目のシングル「さくらんぼ」が大ヒット。05年に10枚目のシングル「プラネタリウム」をリリース。大塚さんが初めてハマッたポップカルチャーは、91年に放送されたフジテレビ系ドラマ「東京ラブストーリー」。「小3の時に『東京ラブストーリー』にハマッてましたね。母親に『ちょっと(主演の鈴木)保奈美ちゃんに似てるね』って言われて、調子に乗って(鈴木さんが演じる)リカになりきる、みたいな(笑い)」と明かした。6月からはアルバム「LOVE TRiCKY」を引っさげて全国ツアーを開催予定。

 (インタビュー・文・撮影:水白京)

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