マンガ誌「週刊モーニング」(講談社)の連載が5月に30周年を迎えた、うえやまとちさんの人気グルメマンガ「クッキングパパ」。人情味のある物語と主人公・荒岩一味が作るさまざまな創作料理、分かりやすいレシピなどで30年経った今も幅広い層から支持されている。荒岩と走り続けて30年たった今、はたしてどのような思いを抱いているのか。原作者のうえやまさんに現在の心境や連載中のエピソードなどを聞いた。
ウナギノボリ
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連載開始から30年。長い年月を主人公と二人三脚で走ってきたうえやまさんは「いつの間にか30年たっちゃった、という感じですね」と淡々と感想を語る。とはいえマンガと料理、二つの作業を進めなければいけないのだからスケジュールはタイトだ。「毎週料理を作って、味見して食べて、マンガをバタバタと描き上げて……。いつもスムーズには行かず、滑り込み。それでぐっすり寝て、飲みに行って。気がついたら30年」と振り返る。
主人公の荒岩一味は、立派な体格のサラリーマンだ。連載誌「モーニング」はサラリーマンが中心読者のため、主人公もサラリーマンを設定することになった。当初は違うキャラを予定していたが「どうしてもサラリーマンっぽくならないので、土壇場で(今の主人公に)変えた」とうえやまさんは明かす。モデルは、うえやまさんの他の作品(「大字・字ばさら駐在所」)に登場する暴れ者の源さんだ。源さんの髪を七三に分け、ネクタイを締めさせて主人公・荒岩が誕生した。
連載開始当初にうえやまさんが決めた、「人生肯定派で、楽しいことを描いていく」という方針は現在まで変わっていない。ただ、男性が料理するという設定は、今でこそ珍しくなくなったが当時はまだメジャーではなかった。うえやまさんは「単身赴任とか、奥さんが病気がちとか、そういう設定にした方が読者は納得するかも、という時代でした」と振り返る。料理のレシピを掲載するおなじみのスタイルも連載当初から一貫している。変化といえば、連載初期は小さなコマで説明していたのが回を重ねるごとに大きなコマになっていったこと。ページ数の制限に苦しんだこともあったが、うえやまさんはそれも「すごく勉強になった」と語る。「むだなコマが入れられないから、どう凝縮させるか、苦しみながら描いていた」という。
料理のネタは、取材や本、「うえやまプロ」内での試作……とさまざまだ。場合によってはレシピを紹介しているサイト「クックパッド」も見るし、面白い料理があると聞けばどこへでも飛んで行く。仕事の流れは、まずは料理を決定し、それからマンガの作業に取りかかる。試作は「クッキングパパ」用のキッチンだ。だが、料理作りは苦労の連続。時には「うまくできなくて、4日ぐらい料理だけしていた」こともあったという。それでも、うえやまさんは「料理が好きだから、楽しい時間ですね」と笑顔で語る。
レシピには思いがけない人も参加している。フォークシンガーの故・高田渡さんだ。連載開始から間もないころ、主人公がローストチキンを焼く回があるが、これは高田さん直伝だ。高田さんはライブで九州に来た際にうえやまさんの家に遊びに来ていたといい、「暇なときは台所で何か作ったりしてました」とエピソードを明かす。豚肉とニラの鍋も、高田さんから「これ(マンガに)描いたらいい」と勧められたものだ。うえやまさんは「三つぐらい高田さんから料理をもらってます」と打ち明ける。
今後はどのような物語を描いていくのか。うえやまさんは「今は(マンガの中の)1年を、2年かけて描いている。主人公は31歳でスタートして今は46、47歳。それぐらいのスピードで成長しているので、定年まで行ったら……俺、90歳か!」と豪快に笑い、具体的なゴールなどは「考えていません」と語る。「クッキングパパの世界がどうなるか、キャラが多すぎて考えられませんね。キャラがみんな幸せになって、いい人生を送ってもらえれば。幸せにしてくれよとキャラが言いますから。(作者は)神様じゃないからね、どう生きたいのよ、とキャラたちと相談しながら……」と楽しそうに語った。
うえやまさんの底知れぬ創作意欲によって生み出されていく「クッキングパパ」のレシピ。今後、荒岩の手でどんな料理が生まれるのか、興味は尽きない。
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