FROGMAN監督:“平成のギャグ王”が考える「バカの力」 劇場版アニメ「天才バカヴォン」に込めた思い

劇場版アニメ「天才バカヴォン~蘇るフランダースの犬~」を手がけたFROGMAN監督(右)と元村有希子・毎日新聞デジタル報道センター編集委員
1 / 3
劇場版アニメ「天才バカヴォン~蘇るフランダースの犬~」を手がけたFROGMAN監督(右)と元村有希子・毎日新聞デジタル報道センター編集委員

 昭和のギャグ王として数々の名作を生んだマンガ家の赤塚不二夫さん。生誕80周年を迎える今年、代表作「天才バカボン」を、フラッシュを駆使してアニメ界の常識を破ってきた“平成のギャグ王”FROGMAN監督が、独自の解釈で挑んだ初の長編劇場版「天才バカヴォン~蘇るフランダースの犬~」が23日、公開された。そのFROGMAN監督に、科学記者で報道番組「ウィークリーニュースONZE」(BS11)のキャスターを務める元村有希子・毎日新聞デジタル報道センター編集委員が「バカの力」について聞いた。

ウナギノボリ

 ◇フランダースの犬とコラボした理由

 --映画を拝見しましたが、ナンセンス炸裂(さくれつ)でしたね。

 狙い通りですね。それ以外に何もないですから。

 --プロットに「フランダースの犬」が入ってきた理由は?

 映画を作るにあたって考えたのは、赤塚さんならどんなことをしたのかってこと。赤塚さんは型破りな方で、作品もすごくアバンギャルド。左手で描いてみたり、ぐちゃぐちゃにしてみたり、白紙にしてみたり、文字だけで表現したり……。
 
 --マンガの枠を壊すような……。

 当時の子供たちは理解できたのかっていうことを平気でやってしまう人だったから、誰も考えつかないようなコラボをしようって思ったんです。最初「エイリアン」に断られて、「じゃあプレデターだ」と言ってダメでした。そこで国内を見回した時に「フランダースの犬」がちょうど放送から40周年だったので、日本アニメーションさんに「実はネロが地獄に落ちて、悪いやつに操られて現代に復活する話ってどうでしょう」ってプレゼンしてみたら、オーケーをもらえたんですよ。
 
 --「フランダースの犬」って原作は「救い」がないですよね。貧乏で食べ物もなく、最後はヘトヘトになって死ぬみたいな。

 僕はてっきり最後、村人たちの誤解も解けて、ネロとパトラッシュは助かると思っていたんですよ。そうしたら死んじゃったじゃないですか。しかも死んだにもかかわらず、天使に導かれニコニコしながら天国に行く。子供心に納得がいかなかったんですよね。あれから40年たって、ネロとパトラッシュの魂の解放というか、もう一度エンディングをやり直してあげたいっていう思いもありましたね。
 
 --今回ネロとパトラッシュはすごい顔になるじゃないですか。
 
 僕の作品のキャラクターって、劇画調とすごく適当な感じが混在しているんですけど、そういった緩急の付け方は赤塚さんが原作でもやっている。実は赤塚さんって絵が本当に上手で、単純な線であっても強弱や緩急がとても巧み。そういった部分を意識しました。

 ◇科学的には説明がつかない結末も…
 
 --結末は科学記者として正直、納得いかないところもあったのですが(笑い)。

 科学的には説明がつかない結末かもしれませんが、実際の世の中って絶対に変わることがないってことが、あっという間に覆っちゃったりするじゃないですか。僕らが10代のころ、米ソの対立っていうのがあって、未来永劫(えいごう)ずっと続いて核戦争の恐怖におびえながら生きていかなくちゃいけないって思っていたのに、ある日、ソ連が崩壊して、僕らが思っている知識や常識なんて、それほど揺るぎのないものなのかって思いました。今回の結末には、もっと考えを緩くして、バカになってみれば、人がいがみ合うことってなくなるんじゃないのっていう隠喩も込めてみました。
 
 --「バカと呼ばれてきた人が世の中を変えてきた」ってセリフがありますね。それこそ「アップル」を創業したスティーブ・ジョブズも、少年時代は知恵を働かせて悪さをしたり、親友を裏切ったり、人を食った言動で周囲から鼻つまみ者扱いされたりしましたが、いまでは彼抜きにITは語れない世の中になりました。
 
 規模は違いますけど、(動画制作ソフトの)フラッシュでたった一人でアニメを作って、ビジネスするなんて僕ら以前にはいなかったですし、「フラッシュなんか」って言われ方もしましたが、いまや「常識」になってきた。だから新しい指標が出てきた時に、それって本当にバカにしてしまっていいのかって思いますし、そういった中から新しい世界が開けるんじゃないか、見極めるっていうのは大事なことだと思うんですよね。

 --赤塚さんは生き方そのものが「バカ道」を貫いていますね。

 僕には無理ですね。赤塚さんは、バカがマンガを描いたらこうなるだろうってことにチャレンジしていたと思うんですね。本当にバカなことばかりやって、そのあとパフォーマーになっていきますが、本当のバカはマンガも描けないし、パフォーマーにもなれないんですよ。僕は、バカになり切って作品を作るのは無理。そのギリギリの均衡というかせめぎ合いをうまく保っていく精神力は僕にはないですし、そういう意味で赤塚さんみたくはなれないでしょうね。
 
 --(赤塚さんと親交が深かったタレントの)タモリさんは、赤塚さんのことを「バカの天才」だと言っています。赤塚さんご本人も生前「バカにバカはできない」っておっしゃっている。

 バカを演じるって、これが本当にバカなのかどうか、罪のない笑いが何なのか、分かっていないとできない。何が罪になるかってことすら分からないバカが一番困るし、こういったバカが人の上に立つと本当に厄介。僕らは、この人がどういうバカなのか見極めなくちゃいけないですし、最近バカを演じているバカと本当のバカの区別のつかない人が多いですね。

 ◇「バカ」を継承していきたい
 
 --ところで、地方再生のキーワードに「よそ者、若者、バカ者」というのがあります。FROGMANさん自身、たまたま仕事で関わった島根を、自虐ギャグで全国的に有名にしましたね。

 僕にとっては逆に島根を利用させてもらっていると考えていて。あえて自虐っぽくやっていますが、県知事が、僕の作った「島根は鳥取の左側です!」っていうTシャツを着てくれて、それを見た県の職員が「自虐オーケーなんだ」って思ってくれたんですね。県民からは「お前ら何を言っているんだ」って言われてもおかしくないんですが、自虐ネタとして面白いし、翻って考えてみると謙虚さもあって、島根の県民性と合っていた。いろいろと偶然が重なった結果ですね。

--「バカが世の中を変える」は本当かもしれません。「バカ」をキーワードに、やってみたいと思っていることがあれば教えてください。

 島根にいたころ、知識もないのに「デザイナーやりますよ」とか「イラストレーターやりますよ」って、(ワープロソフトの)ワードでチラシを作ったりしていたんです。印刷会社の人に「イラストレーターってソフトがあるのでそれで作ってくださいね」って言われるような、今から思えば本当に恥ずかしいことをしていたんですが、自分の中ですごくいい経験だったなって思います。そんなバカになる経験を、クリエーターを目指している若い子たちにしてもらいたい。赤塚さんも作品を通してそう言いたかったんじゃないのかなって思っているし、僕も継承して作品を作っていきたいですね。

 <プロフィル>

 FROGMAN 監督・脚本・キャラクターデザイン・録音・編集・声の出演などを一人でこなすマルチクリエーター。フラッシュアニメ「THE FROGMAN SHOW」で人気を博し、2007年に初の劇場版アニメ「秘密結社 鷹の爪 THE MOVIE~総統は二度死ぬ~」を公開。08年度のニューヨーク国際インディペンデント映画祭アニメーション部門「最優秀作品賞」「国際アニメーション最優秀監督賞」をダブル受賞した。

 元村有希子 毎日新聞デジタル報道センター編集委員。1989年、毎日新聞社に入社。2001年、東京本社科学環境部。長期連載「理系白書」取材班キャップとして、文理の昇進格差や研究不正、理科離れの現状などさまざまな問題を提起。06年、「第1回科学ジャーナリスト大賞」を受賞。14年から現職。近著に「気になる科学」(毎日新聞社)。13年春からBS11「ウィークリーニュースONZE」キャスター。

 *……BS11では、次回の「ウィークリーニュースONZE」で対談と連動した特集を放送する。番組は24日午後6時~同6時55分に放送。

写真を見る全 3 枚

アニメ 最新記事