グローリー:エバ・デュバネイ監督 キング牧師を初映画化した黒人女流監督「7人から選んでもらった」

「グローリー 明日への行進」のメガホンをとったエバ・デュバネイ監督
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「グローリー 明日への行進」のメガホンをとったエバ・デュバネイ監督

 1965年に黒人の選挙権を求め決行されたセルマからモンゴメリーへのデモ行進、通称「セルマ大行進の先頭に立ったマーティン・ルーサー・キング・Jr.=キング牧師について初めて映画化した「グローリー 明日への行進」が公開中だ。キング牧師の号令の下、2万5000人もの人々が集まり、ただ歩くことで、ジョンソン大統領を、アメリカという国を、そして歴史をも動かした米国の公民権運動の中で最も重要な出来事といわれる世紀の大行進を感動的に描き上げた映画について、黒人の女性監督、エバ・デュバネイ監督に話を聞いた。

ウナギノボリ

 ――キング牧師について初の映画化ですが、なぜ今、キング牧師をテーマとして扱おうと思ったのでしょうか。

 この作品は企画から完成までに8年間かけて作った作品です。企画当初は私のほかにも7人の監督がキング牧師の映画を作ろうとする動きがありました。米国育ちの私はキング牧師を主役にした映画が作られていないというのをもちろん知っていたから、こういうチャンスを与えられたことと、それを自分が監督できる、選んでもらったということはすごく誇らしく思いました。製作費が集まったタイミングや、その他のさまざまな要素があって、今のタイミングで映画が完成したのですが、この作品が単なる50年前に起きた歴史的な事象ではなく、今現在起きているさまざまな事件へと続いているということで、作品が理解してもらいやすくなったと感じています。

 ――キング牧師役をデビッド・オイェロウォさんが演じているほか、ティム・ロスさん、キューバ・グッディング・Jr.さん、プロデューサーも兼ねたオプラ・ウィンフリーさんらが出演しています。キャスティングについて、監督が最も望んだことはどんなことでしょうか。

 米国では大スターであるオプラ・ウィンフリーをキャスティングできたことによって、他のキャストに関しては知名度ではなく、純粋に才能だけでキャスティングすることができました。米国ではオプラ・ウィンフリーの人気は絶大なので、マーケティングとしてのキャスティングのことは一切考えませんでした。他の作品を見て、才能があって面白いと思った役者さんを配役しました。それによって才能があるのに日の目を見ない役者さんを起用することもできたと思っています。

 ――アカデミー賞にノミネートされるなど評価されていますが、ヒットすると手応えを感じた瞬間は?

 企画に長い年月をかけて、昨年まで撮影をしていたのに、出来上がった途端、あっという間にプレミアがあって、世界中で公開されて、賞レースにも参加して、米国ではもう、DVD、ブルーレイディスクが出ているという感じで、完成からはすごいスピードで走ってきた感じだったので、映画ができてから公開されるまでの流れの中で、手応えを感じた瞬間はなかったのんです。でもやっぱり、プレミアを含め、映画を見た観客の反応を見たときに、手応えを感じました。特に一般の人々から分かち合える感想が聞けたときに、いいものが作れたのかな、と思うことができました。

 ――監督が最も手応えを感じた場面(シーン)は?

 手応えを感じたのは「血の日曜日事件」のシーンです。本当に50年前に事件が起きた橋で撮影して、たくさんのエキストラ、スタントを起用して、催涙ガスとかも使って、かなり大がかりなシーンでした。女性の監督には無理だろうと思われていたんですが、すごく満足のいくものになったと思います。撮影が終わったとき、かなり達成感がありました。

 ――監督が今作の制作で最も重点を置いたこと、この作品に込めたメッセージは?

 元は白人の脚本家が書いた作品だったのだけど、私はアフリカ系米国人の女性であるという立場から脚本をリライトして、アフリカ系米国人の歴史、その時代の人々を掘り下げることを大事にしました。

 「公民権運動」はその名の通り「運動」というだけあって、キング牧師たった一人で成し得るものではありません。そこには本当に多くの人々、アフリカ系米国人、白人、年齢も性別もさまざまな人々が一つになって、人種差別のない公平さを求めてムーブメントを起こし、初めて変化をもたらしたのです。だからこそ、この作品のタイトルは「キング牧師」ではなく「セルマ(原題)」なんです。

 ――米国の映画界で女性監督は珍しく、しかも黒人の女性となるとさらに数が少ないと思いますが、やりにくさ、逆にやりやすさはありますか。

 現状は、ハリウッドの映画監督で、女性監督はわずか4%、さらにアフリカ系米国人の女性監督は1%です。なので、その環境で前に進むことは挑戦です。そういう状況にあって文句を言うか、自分で作品を作り続けるか、という選択ができると思うけれど、私は後者を選んで、作品を作り続けたいし、作品を作り続けることで、この非常に不健康な状況・システムを皆に知ってもらえればと思います。

 ――次作について、言える範囲でどんな作品を構想してらっしゃいますか。

 次の作品はラブストーリー&殺人ミステリーです。「ハリケーン・カトリーナ」という作品で、10年前にアメリカを襲ったハリケーン・カトリーナを舞台にした、ラブストーリーであり、殺人ミステリーでもあります。当時の文化的、政治的背景みたいなことにも踏み込んだ作品になると思います。主役はまたデヴィッド・オイェロウォで、彼とは本当に仲がよくて、チャンスがあればいつも一緒に仕事がしたい、組みたい相手なんです。

 <プロフィル>

 1972年8月24日 米国生まれ。脚本、製作、監督、インディペンデント映画の配給と幅広く活動している。初の長編監督作品であるヒップホップドキュメンタリー「This Is The Life」(2008年)でトロント国際映画祭、ロサンゼルス映画祭、シアトル国際映画祭で観客賞を受賞。10年、初のフィクション映画「I Will Follow」で、脚本、製作、監督を務め、アフリカン・アメリカン映画批評家協会賞の脚本賞を受賞。12年には「Middle of Nowhere」でサンダンス映画祭の監督賞やインディペンデント・スピリット賞のジョン・カサべテス賞などを受賞している。これまで14年以上にわたって映画製作と宣伝に携わり、99年に「DVAメディア+マーケティング」を設立。同社は、120を超える映画やテレビ・キャンペーンの宣伝を担当している。また今年バービー社による「Shero」キャンペーンで活躍した女性6人の一人に選ばれバービー人形が作られた。今作で黒人女性監督として初めてアカデミー賞の作品賞にノミネートされた。

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