セバスチャン・サルガド:息子ジュリアーノ監督が撮った父のドキュメンタリー「人類の希望となる映画だ」    

偉大な報道写真家の父、セバスチャン・リベイロ・サルガドさんの軌跡を追った映画について語るジュリアーノ・リベイロ・サルガド監督
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偉大な報道写真家の父、セバスチャン・リベイロ・サルガドさんの軌跡を追った映画について語るジュリアーノ・リベイロ・サルガド監督

 世界的な報道写真家で環境活動家のセバスチャン・リベイロ・サルガドさんの足跡を追ったドキュメンタリー映画「セバスチャン・サルガド 地球へのラブレター」が1日に公開された。各国の映画祭で好評を博し、2015年の米アカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞にノミネートされた圧巻の映像叙事詩だ。サルガドさんの息子で映像作家のジュリアーノ・リベイロ・サルガド監督と「Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち」(11年)などの傑作ドキュメンタリー作でも知られる名匠ヴィム・ヴェンダース監督が共同で作り上げた。このほど来日したジュリアーノ監督は「家族でないヴェンダース監督の視点が加わり、父であるセバスチャン・サルガドの偉大さが理解できた」と話した。 

ウナギノボリ

 ◇ヴェンダース監督のアイデアで本人が解説

 セバスチャン・リベイロ・サルガドさんは、1944年ブラジル生まれの写真家。貧困、飢餓、内戦、難民などをテーマに「神の眼」とも称される奇跡的な構図と美しいモノクロームの写真で、見る者の魂を力強く揺さぶる。ヴェンダース監督もサルガドさんの写真に心揺さぶられた一人だという。映画は、初の写真集「Other Americas」から「GENESIS」まで、作品の足跡をたどっていく。ヴェンダース監督のアイデアによって特別な環境を用意して撮影された、本人による解説が生々しい。

 「ヴェンダース監督は、小さなスタジオのカーテンを閉め切って、スタッフ抜きで父と2人だけの親密な空気を作りました。本人には写真しか見せず、作品と対峙(たいじ)させました。こうして、映画のインタビューであることを忘れた父は、過去をありありと思い浮かべながら語ることができたのです」

 戦争、難民、虐殺……。人間の負の部分を見つめ出してきた写真が、スクリーンに次々に映し出されていく。

 「悲惨な写真も出てきます。父は時間をかけて被写体に溶け込み、愛と畏敬の念を持って被写体に接してきました。誰もが遠くの出来事として見ないようにするけれど、皆さんに視線を投じてほしいのです」

 ジュリアーノ監督はインドネシアや北極などの撮影に同行。共に取材旅行したことで「父との関係がより良好になった」という。ショートフィルムを見た父親から「作家性がよく出ている」と言われたことが何よりもうれしかったのだ。

 「父は人々や風景をものすごい集中力で撮影します。劇中にも出てきますが、パプアニューギニアに行ったとき、父は10分ぐらいで現地の人と親密な関係を作り上げました。とても驚きました。これまで、こんなふうに旅をしてきたのか、と。父は旅から帰って来ると、いつもその経験を家族中で分かち合いました。私は幼い頃、よく一緒に暗室にこもって、写真が浮かび上がってくるのを見ました。4~5歳の頃に見た、目を見開いた赤ちゃんの遺体写真がとても印象に残っています。父は『世界を見られるようにという意味だ』と言いました。父の写真は、幼い私にも広い世界を見せてくれました」

 ◇サルガドのルーツ、そして環境活動へ

 劇中では、サルガドさんの家族……ジュリアーノ監督はもちろん、弟のロドリゴさん、妻のレイラさんらが、とてもさりげなく映画に登場し、サルガドさんのルーツが知らされる。

 「若い頃の両親はブラジルの軍事政権に反対し、フランスに亡命して大変苦労をしました。そういった私の家族のことも出てきますが、映画はそれ以上に大きなことを語っています」と話すジュリアーノ監督。

 そう説明する理由は、ジュリアーノさんの母親が発起人となって立ち上げた「インスティテュート・テラ」というプロジェクトにある。95年ルワンダで撮影した後、「世界は変えられないのだ」と鬱々とした日々を送ったというサルガドさんは、故郷の森を再生するこのプロジェクトによって、次第に癒やされていったという。植えられた木は250万本以上にもなり、乾き切った土地に水が戻った。さらに2500万本を植える予定だ。そして、初めて人間ではない生き物を被写体に選び、地球上の最も美しい場所を探して撮影するプロジェクト「GENESIS」につながった。

 サルガドさんがこれまでやってきたことをやめ、エコロジストとしての活動を始めたことを、ヴェンダース監督は「勇気を持っている」とたたえてくれたという。

 ジュリアーノ監督は、「ドキュメンタリーの分野でも素晴らしい作品を作ってきた巨匠のヴェンダース監督が、偉大なアーティストである父の写真のパースペクティブ(遠近感)を理解してくれて、この映画ができました。父の経験を多くの人に見せることができたと満足しています。父の写真は、人々のドラマに満ちた人生を見せることで、常に問題提起してきたのですが、現在は環境問題を通して、より多くの人と大事なことを分かち合え、芸術家としてより大成したように思えます。よりよい世界を目指すための壮大な計画を映画によって紹介することで、人類の希望につながったと思います」と力を込めた。

 出演は、サルガドさん、ヴェンダース監督、ジュリアーノ監督ほか。1日からBunkamuraル・シネマ(東京都渋谷区)ほかで公開。

 <ジュリアーノ・リベイロ・サルガド監督のプロフィル>

 1974年、パリ生まれ。1996年、アンゴラの対人地雷についてのドキュメンタリー作「Suzana」を製作。エチオピア、アフガニスタン、ブラジルでドキュメンタリーを製作しながら、フランスとブラジルのテレビのニュース番組に携わる。2003年、The London Film Shcoolを卒業。フランスのテレビ局で短編映画とドキュメンタリーを製作。2009年、映画「Nauru an Island adrift」が、数多くの国際映画祭に招待される。現在、初の劇場用映画をブラジル・サンパウロで準備中。

 (インタビュー・文・撮影:キョーコ)

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