ハーモニー:なかむら監督とアリアス監督が語る製作の裏側 「伊藤計劃イズムに反することなく」

「ハーモニー」のメインビジュアル(C)Project Itoh/HARMONY
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「ハーモニー」のメインビジュアル(C)Project Itoh/HARMONY

 2009年に34歳で亡くなったSF作家の伊藤計劃(けいかく)さんの小説が原作の劇場版アニメ「ハーモニー」が13日に公開される。同作を手がけたのは、「AKIRA」の作画監督などとしても知られるなかむらたかし監督と「鉄コン筋クリート」の監督を務めた米国出身のマイケル・アリアス監督だ。2人に作品に込めた思いを聞いた。

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 ◇女性キャラの関係性を軸に

 「ハーモニー」は、高度な医療環境が構築された監視社会を舞台に、世界の戦場を渡り歩き平和維持活動を行う監察官・霧慧(きりえ)トァンが、突如起こった大量殺人事件の捜査を進める中で、世界の真実に近づいていく……というストーリー。伊藤さんの遺作で、SF小説を対象とした米文学賞「フィリップ・K・ディック賞」を受賞したことも話題になった。伊藤さんの作品をアニメ化するプロジェクト「Project Itoh」の一環として製作される。

 アリアス監督が「キャラクターが魅力的」と話すように、劇中には主人公・霧慧(きりえ)トァンとカリスマ的魅力の美少女・御冷(みひえ)ミァハ、トァンとミァハの理解者である零下堂(れいかどう)キアンという魅力的な3人の女性キャラクターが登場する。なかむら監督は、原作を読んで「未来を予想しているところがあるのですが、映像化すると退屈になるかもしれない」と感じたと明かしながらも、「3人の関係性を描くことで物語にして、一本筋を通そうとした。特にトァンとミァハの人間性を際出せようとした」と語る。

 SF小説は設定が重要な要素だ。「ハーモニー」でも未来の世界や新たなテクノロジーが社会に及ぼす影響などが描かれているが、なかむら監督は「設定に関する説明は必要。ただ、トァンとミァハの関係を見せるために、説明を最小限に抑えようとした。小説は繰り返し読めるし、分からなくなったら、戻ることができるけど、映画はそういうわけにはいかないので、キャラクターの感情面を見せようとした」と狙いを明かす。

 ◇伊藤計劃は文章の美しさを考えていたのかも…

 09年に亡くなった伊藤さんが最後に残した「ハーモニー」を読み解きながら、アニメ化していったという2人。アリアス監督は「伊藤計劃イズムに反することはしたくなかった。読者の印象になるべく近いものを作りたかった」と強い思いを明かし、「もし、伊藤さんがいらっしゃったら、小説に書いていないことを聞けけたのですが……。伊藤さんは頭のいい方で、絵が浮かんでから文章にしていたのではなく、文章の美しさを考えて、書いていたのかもしれない。それに人生観を確認したかった」と語る。

 ◇セルルックの可能性

 「ハーモニー」のキャラクターには、セル画(2D)のアニメ(セルアニメ)だけでなく、「蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ-」「シドニアの騎士」などでも使用されたセルルックという手法も取り入れた。3DCGでセルアニメのような表現を実現する手法で、今作では「手描き(セルアニメ)が7割くらい」(なかむら監督)だといい、アリアス監督は「デジタルでしか表現できない超スローモーションや視点がぐるっと変わるようなシーンで3DCGを使っている」と説明する。

 セルルックで制作されたテレビアニメは、この1、2年で急増しており、大きな注目を集めている。精密な表現を得意とするアニメーターでもあるなかむら監督も「可能性がある。今後も増えていくと思う」と期待を口にする。一方で、「鉄コン筋クリート」のデジタル表現が注目されたアリアス監督は「(06年に公開された)『鉄コン筋クリート』から意外に進化していないかもしれない」とも語った。

 “二人の名手”によってアニメに生まれ変わった「ハーモニー」。なかむら監督は「彼女(トァン)たちの感情の揺らぎ、輝きを感じていただければ」と呼びかける。劇場で伊藤さんの遺作の新たな魅力が発見できるかもしれない。

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