井上和彦:コラボアニメ「サイボーグ009VSデビルマン」語る 「新しい可能性を感じてほしい」

「サイボーグ009VSデビルマン」について語った井上和彦さん
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「サイボーグ009VSデビルマン」について語った井上和彦さん

 石ノ森章太郎さん原作の「サイボーグ009」と永井豪さん原作の「デビルマン」がコラボしたオリジナルアニメ「サイボーグ009VSデビルマン」(川越淳監督)のDVDとブルーレイディスク(BD)が11日にリリースされた。島村ジョーら9人の戦士たちとデビルマンが、ある事件をきっかけに激突するという衝撃の物語が描かれている今作で、「サイボーグ009」のテレビシリーズ第2期で009こと島村ジョーの声を担当した井上和彦さんに話を聞いた。

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 ◇009とデビルマンの親和性を指摘

 科学を扱った「サイボーグ009」と悪魔が登場する「デビルマン」という世界観が異なる作品がコラボすると聞き、井上さんは「VSだから戦うんだろうけど、どうやってコラボするんだろう」と第一印象で思ったという。続けて、「009はサイボーグだけど神様がいて戦ったりする場面もあったので、そういう意味ではデビルマンに強いイメージを持っていると違和感はあるかもしれないけれど、どっちみち(どちらも)ぶっ飛んだキャラなのでは」と語り、「だから見ていて違和感はまったく感じなかった」という。

 当時の雰囲気を残しつつ、一新されたキャラクターのビジュアルについて、「今風な感じ」と評し、「島村ジョーのナイーブで優しいところやフランソワーズの可愛いところ、007のおかしいところなどはすごく強調されていたと思う」と当時の印象と振り返りながら語る。

 ◇当時の自身の表現力を悔いる

 009役を決まった当時の心境は、「子どもの頃から大好きな作品だったので青天の霹靂(へきれき)というか、そのときは声優になろうとか役者になろうとかまったく思っていなかったので、まさか自分がやるとは思っていなかった」と井上さん。「中学の頃はクラスで009を描くのがはやっていて、すごくうまい男の子がいて描いてもらいました(笑い)」と思い出を語る。

 009役はオーディションで決まったというが、「当時多くの方がオーディションを受けていたのですが、高橋(良輔)監督がなかなか首を縦に振らず、『どんな新人でもいいから連れてきてほしい』と」という状況だったと説明し、「声を掛けられた僕はバイクを飛ばして行ってオーディションを受けさせてもらいました」という。

 その結果、009役を射止めた井上さんだったが、「今見るととても恥ずかしい演技力。必死に頑張っていたのですが許して……という感じです」と自虐的に笑う。「ただ、そのヘタさ加減というか初々しさや気張って頑張っている姿が、一生懸命ブラックゴーストに立ち向かっているジョーの姿とイコールになっているのかなと」と自己分析し、「流ちょうにお芝居ができないものだから、目が離せないし、大丈夫かとハラハラしちゃう(笑い)。今見ると、そういう際どさがある気がする。そういう意味では、それまでの強いヒーローとは違う島村ジョーになったのでは」と振り返る。

 第1話の放送後には「当時のプロダクションの社長に怒られました(笑い)」といい、「今となっては録(と)り直せないですけど、録り直せるものなら録り直したいと、ずっと思っています」と思いのたけを語る。そして、「自分は一生懸命やっていたけれど、あの新鮮さ加減は、もしかしたら監督としては狙っていたのかなという気がしますが、ヘタなのは許してください!」とちゃめっ気たっぷりに話す。

 ◇009名ぜりふ誕生秘話を披露

 009の名せりふに「加速装置!」というのがあるが、実は井上さんが初めてこのせりふを言ったという。「『デビルマン』でも『デービール!』というのがあるように、当時は技の名前を叫ぶのがはやっていた」と井上さんは切り出し、「(台本の)ト書きに『加速装置』と書いてあったのでいってみたら(装置が発動したあと)ピュンッと(速く)行く気がして、テストのときに『加速装置!』と言ったんです」とせりふを発したきっかけを明かす。

 「加速装置を使った気持ちが出ればいいなと思い言ってみた」とせりふの意図を明かすも、「どうせ本番でカットされるだろうなと……」と感じていたという井上さん。しかし、「そうしたら『それ、やろうか』となり、次週からは台本に(せりふとして)加速装置と書かれるようになりました」と当時の秘話を語り、「奥歯をかみながら『加速装置』とは普通いえないですけどね(笑い)。あれはモノローグ扱いなで、実は心の声なんです」と笑顔を見せる。

 井上さんは、「サイボーグ009」の魅力について「作品のテーマ性」といい、「無償の愛というか、見返りを求めない愛。結局、人のために命を張って戦ったとしても、助けた人たちからは“化け物”と呼ばれてしまう。それでもでも助けるというところが、すごく切ない」と思い入れたっぷりに語る。

 さらに、「どこかに傷を持っている人たちが集まり、仲間として協力し、世界の人たちのために戦うというのはワールドワイド」と9人の戦士たちの境遇を語り、「世界中の人が力を合わせて平和のために戦うんだというのが、いまだに世界中で戦争がなくならない中で、(原作の)石ノ森先生はそういうテーマを009の中に込めて発信していたんだなと思います」と敬意を表す。

 ◇実はプロボウラーになりたかった

 現在、声優として活躍する井上さんだが、実は「プロボウラーになろうと思って、高校を卒業し、ボウリング場に就職しました」と打ち明け、「そこで働いていたのですが現実の壁にぶつかり、ちょっと引きこもってしまった」という。その後、再び働き始めるにあたって、「まず体力だと思いテレビの大道具の仕事に就き、元気になってきた頃に友人から『声優になりたいけれど一緒に学校に行ってくれないか』と」と誘われたが、「その頃はまだ全然お芝居に興味がなかったけれど、そういうことをやれば人嫌いが直るかな……と(笑い)」と思ったという。

 養成所に入学したあとは、「いわれるままに勉強していたら、在学中にお仕事をいただいた」と井上さんは続け、「実は最近分かったことで、『八州犯科帳』に丁稚の役で出させていただいたのですが、そのときに一緒にいた番頭役が角野卓造さんでした」と井上さん自身も驚きの事実を打ち明ける。そして、「声の仕事もいただいたりして楽しいと思い、やっているうちにどんどん面白くなった」と次第に魅力にはまっていった。「最初はまったく興味なかったのですが、演じることはどこか好きだったとは思いますが、人を笑わせる方が好きでした」と当時の心情を振り返る。

 ◇新しい可能性を感じさせるVS作品

 「009」の数あるエピソードの中で特に印象に残っているものを聞くと、井上さんは「ジョーの元恋人だった人をボロボロになりながらも助けるという『裏切りの砂漠』」というものの、「(ジョーは)フランソワーズが好きなくせに、身勝手といえば身勝手(笑い)」と冗談めかし、「切ないところが盛り込まれる話は好き」だという。

 井上さんの転機となった島村ジョーというキャラクターが、世代を超えて受け継がれていくことに対し、「年を取ったなと思います」と笑いながら話す井上さん。「いろんな009がいて面白くて、櫻井(孝宏)くんがやったり、福山(潤)くんがやったり、宮野真守くんだったり、あちこちで会うと口には出さないけれど、同じ役をやっているんだよなと」と語り、「神谷(明)さんもラジオドラマでやっていて、福山くんと神谷さんと一緒になったときには、『009をみんなやってる』と(笑い)」と体験談を明かす。そして、「みんなそれぞれに009像があるから面白い」と感慨深げに語る。

 思い入れが強い009が活躍する今作について、「009が好き、デビルマンが好きという人にとってはいっぺんに見られるというのがすごくワクワクする」と魅力を語り、「どういう形でVSなのかと見ていると、『なるほど。そうきたか!』と。1+1が2ではなく3にも4にもなっているという楽しみができる作品だと思うので、ぜひ009とデビルマンの新しい可能性を感じてほしい」とメッセージを送るも、「僕は出ていませんけどね」と話して笑いを誘った。

 「サイボーグ009VSデビルマン」のコンプリートBD<特別限定版>」初回限定は1万3800円(税抜き)、全3話収録の「コンプリートBD通常盤」が9800円(税抜き)、DVD1巻が2900円(税抜き)で11日にリリース。DVD2巻は12月9日、3巻は2016年1月6日発売予定。

 <プロフィル>

 1954年3月26日生まれ、神奈川県出身。デビュー以来、「サイボーグ009」の島村ジョー、「美味しんぼ」の山岡士郎、「NARUTO-ナルト-疾風伝-」のはたけカカシをはじめ、数多くのキャラクターを演じる。海外作品の吹き替えも担当している。2005年に芸能事務所「B-Box」を設立。「B-Box 養成所 VAEL」で講師として後進の育成にも力を入れている。

 (インタビュー・文・撮影:遠藤政樹)

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