劣悪な労働環境や慢性的な人材不足が問題となっているアニメ業界だが、徹底した工程管理で成功を収めている制作会社がある。コンピューターグラフィックス(CG)アニメ制作会社「ポリゴン・ピクチュアズ」(東京都港区)だ。アニメーション制作を手掛けたフルCGテレビアニメ「スター・ウォーズ/クローン・ウォーズ」と「トランスフォーマー プライム」が米エミー賞を受賞しており、先進的な制作技法に加え、工程管理などビジネススキームが注目されている。
ウナギノボリ
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世界で人気の日本のアニメだが、制作の現場は厳しい。月給は約10万円で、正社員はなるべく抱えず、契約社員や外注を活用し、テレビアニメの納品も放送当日になるケースもあるなど、問題を抱えている。だがそんなアニメ業界で「納期に遅れた覚えがない」と言われるのがポリゴン社だ。
同社の制作現場には、ゲーム会社のようにパソコン(PC)がずらりと並ぶ。給料は他業種と差はなく、土日は休みで、徹夜もしない。独自のツールを活用して、1時間の作業遅れを把握する。さらに帰宅した社員の空いたPCを活用し、深夜に映像の生成作業をするなど、効率重視を徹底している。取締役の守屋秀樹さんは「端的に言えば、我々は工業製品的に作っている。他のアニメ会社は、職人的で、その差だと思う」と話す。
ポリゴン社は1983年に設立され、米国での成功でCGアニメ会社の地位を確立した。徹底した工程管理はディズニーやルーカスフィルムなど世界をビジネスの相手にする中で必要とされたものだ。守屋さんは「米国の会社のスケジュールはキッチリしていますし、納期の遅れは損害賠償につながります」と明かす。
現在は日本での活動にも力を入れ、不死の新生物と政府の戦いを描いたアニメ「亜人」を、劇場版(3部作、第1弾は27日公開)とテレビアニメ(来年1月放送開始)で同時展開する予定だが、既に3月に放送するテレビアニメの10話まで完成しているというスピーディーさだ。有料動画配信サービス「ネットフリックス」の世界配信のため、翻訳作業などを見越しているからだという。
スピードだけではない。現在、アニメ業界では、セル画(2D)で制作されたアニメのような表現を実現する3DCGの手法「セルルック」に注目が集まっているが、最も多く手掛けているのがポリゴン社だ。この手法は、これまで主にSF作品に導入され、人間の表情を豊かに表現しなければならない現代劇には不向きと言われていたが、「亜人」ではその“タブー”に挑んだ。
同作の総監督で、CG映画「ファイナルファンタジー」にもアートディレクターとしてかかわった瀬下寛之さんは「当初はプレッシャーを感じたが、結果から言えば、日常ドラマを野心的にやってもいいと思えた。あのセルルックの質感は、ウチしか出せない」と、出来に自信を見せる。CGアニメに約30年かかわり、強みも弱みも把握している瀬下さんは、成功のカギは「違和感を与えず、視聴者を物語に集中させること」と言い切る。
そのため、世界設定の構築には、予算と時間の許す限りこだわった。「窓から光が入るシーン一つでも、季節や時間を考慮しなくてはいけないし、家の家具にも気をつかわなければいけない。また歩く速さと時間、建物の距離が合ってないと、視聴者に『おかしい』と感じさせてしまう」という徹底ぶり。瀬下さんの脳内には、舞台となる世界の地図が細かくあり、どこに何の建物があるか即座に言えるという。そうした緻密(ちみつ)さの積み重ねが、作品の臨場感を増幅させるというわけだ。
海外展開を前提に徹底した工程管理で、質とスピードの両立を実現した同社。そのビジネススキームが業界にどんな新風を吹き込むか注目だ。
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