米国の伝説の天才チェスプレーヤー、ボビー・フィッシャーさんの物語「完全なるチェックメイト」(エドワード・ズウィック監督)が25日に公開された。米ソ冷戦下、国の威信を懸けて闘った男の神経衰弱ギリギリの緊張感あふれる心理ドラマがたっぷりと描かれている。主演はトビー・マグワイアさん。「ラスト サムライ」(2003年)で知られるズウィック監督が手掛けた。
ウナギノボリ
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1972年。アイスランドの首都レイキャビクでチェスの世界王者決定戦が行われていた。最強の王者であるソ連のボリス・スパスキー(リーブ・シュレイバーさん)に挑んだのは、米国の若き天才ボビー・フィッシャー(マグワイアさん)だった。ボビーは政治活動に忙しい母の元で寂しい子供時代を送り、独学でチェスを覚えてチェスクラブに入門。10代で全米チャンピオンに輝いた。やがて一人になったボビーは、ますますチェスにのめり込み、支援者も現れて、世界一を目指して駆け上がっていく……という展開。
天才の物語は、どうしてこんなに面白いのだろうか。時間にルーズ。些細(ささい)なことにこだわる。急にキレる。周囲を振り回す。困った大人の代表のような人物だが、どこか純粋だ。孤独な少年時代を過ごしたボビーは、きっとチェスだけが心のよりどころだったのだろう。時代は米ソ冷戦下、ソ連が24年間保持した世界王者のタイトルに米国が挑む構図は、戦場をチェス盤に代えた代理戦争だ。しかしボビーは神経が細かった。「僕が世界一だ!」と自信満々でほえていなければ、プレッシャーに押しつぶされてしまうほどに……。一方の、ソ連代表スパスキーのプレッシャーもきちんと映し出されている。敵対する国同士だが、同じような人間の姿がある。
今でも語り継がれているというレイキャビクでの対局は緊張感たっぷりに描かれている。衣装も当時を彷彿(ほうふつ)とさせ、演じるマグワイアさんとシュレイバーさんの目線や手の動きだけでなく、観客の表情までもが秀逸で高揚感がある。チェスのルールが分からなくても手に汗を握り、なんて神経を使うゲームなんだとゲームに吸い寄せられる。繊細なボビーにとっては、人一倍神経をすり減らす。その精神状態を姉だけが心配していたが、なかなか周囲に理解されない天才のもの悲しさも余韻となって心に残った。25日からTOHOシネマズ シャンテ(東京都千代田区)ほかで公開。(キョーコ/フリーライター)
<プロフィル>
キョーコ=出版社・新聞社勤務後、映画紹介や人物インタビューを中心にライターとして活動中。趣味は散歩と街猫をなでること。BS12の昭和ドラマ「女と味噌汁」を楽しみ中。
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