武田鉄矢:「日本には子供と遊ぶ妖怪のアナザーワールドがある」 「映画 妖怪ウォッチ」で声優

「映画 妖怪ウォッチ エンマ大王と5つの物語だニャン!」にゲスト声優として出演している武田鉄矢さん
1 / 6
「映画 妖怪ウォッチ エンマ大王と5つの物語だニャン!」にゲスト声優として出演している武田鉄矢さん

 ゲームやアニメが人気の「妖怪ウォッチ」の劇場版アニメ第2弾「映画 妖怪ウォッチ エンマ大王と5つの物語だニャン!」(高橋滋春監督・ウシロシンジ監督)が全国で公開中だ。五つのエピソードで構成されるうち四つ目のエピソード「USAピョンのメリークリスマス」で、巨大サンタの声でゲスト声優として出演している武田鉄矢さんに話を聞いた。

ウナギノボリ

 ◇ニャンパチ先生に身近さを感じる

 今作の出演が決まる前から「妖怪ウォッチ」に興味を持っていたという武田さんは、「興味があるということをスタッフの方の耳にどこかで耳に入ったのか、『非常にうれしく思います』という連絡があった」と明かし、「しばらくしてから、『今度の映画に出てもらえませんか』という話がありました」と振り返る。

 「妖怪ウォッチ」の印象について、「どこか子供の心を捉えるものを持っていて、そのキーワードが妖怪なのではと思った」と切り出し、「妖怪と名乗っている以上は、やっぱり“死んだものである”という。それも言葉を整理すると比較的無念を残して死んだということなのですが、ネコの妖怪が子供たちにウケるというのは何かと考えたときに、意外と深いものを持っているのでは」と持論を述べる。

 興味を持ったきっかけを、武田さんは「そんなことを思い始めたらラジオで(お笑いコンビ「博多華丸・大吉」の)博多大吉という同郷の漫才師が、『妖怪ウォッチ』は以前からよく遊んでいて、コンテンツの一つ一つの要素がとても深く作られているということを話していた」のを聞いたことだといい、「ジバニャンはネコがトラックの前に飛び出して死んだことで妖怪になったのと、彼が変化する一つのパターンに“ニャンパチ先生”がいて、それがちょっと自分の“カケラ”みたいなものが、同じ福岡出身ということで、飛び散って宿ったのではと身近さを感じた」と親近感を感じたことを明かす。

 ◇俳優と声優の演技の違いに驚く

 武田さんは巨大サンタの声を演じているが、声作りに関して「いわゆるサンタクロースのパターンは含んだほうがいいのでしょうか」と監督に提案をしたところ、「深く演じていただきたいし、(巨大サンタは)善意の結晶体でプレゼントをあげたすべての子を記憶していますなど、そういう点を含んでやってほしいといわれた」と説明。そして、「監督さんの顔つきを見ると渾身(こんしん)のといいますか、ものすごく真剣に取り組んでいる」と武田さんは現場の雰囲気に感心したことを語る。

 さらに武田さんは「大吉くんが言ったとおり、いろいろと考えているんでしょう」と続け、「キャラクターたちは、壊された神社の狛犬(コマさん)や、初めて宇宙に行く小動物として選ばれるはずだったうさぎ(USAピョン)とか、考えると壮大。変な言い方かもしれないけれど、生き物の世界よりも無念を残して死んでいった生き物たちの世界の広さを感じる」と分析。「子どもたちは敏感だから、そういうのに反応するのでは」と武田さんは推察する。

 今回が2度目の声優挑戦となったが、「仕事としては面白い」と武田さんは声優業を評し、「アニメに声がはまって、ありありと実在感がにじんでくるから、本当に“命を与える”というか、そういう達成感みたいなものはある」と実感を込める。声優を本職としている人たちについて「一番驚くのは声優という世界で生きている人たちのうまさ。本当にうまい!」と絶賛するも、「ただし、こっち(俳優業)に来たら負けないぞというのはありますけれどもね」と楽しそうに笑う。

 俳優と声優の演じる際の違いを聞くと、「たとえば『長いせりふをよく覚えますね』といわれたりするが、俳優業をやっているとき、せりふを読みながら何を整理していくかというと、気持ちを整理していく」と武田さんは切り出し、「最初に気持ちがあって気持ちから言葉が出るような手順を自分にしつける。つまり、何気ないところから始まって、感情が決まってせりふが出る」と俳優として演じるときのポイントを解説する。

 それに対して声優業は「声優の人たちは声を出しながら感情を出す」と武田さんはいい、「声がまず先にあって、出しておいた声から感情がこもっていくのが私たちの手順と違うし、そこが声優という人たちの職業と自分たちの職業の違いだと思う」と両者の違いを論じる。

 ◇サンタクロースは“存在する”と熱弁

 サンタクロースの存在について、「子どもも読むからはっきりしておきましょう」と武田さんは居住まいを正し、「サンタクロースは間違いなくいます!」と断言。その理由として、「12月に入ると北米の空軍はサンタクロースの探査にジェット(戦闘機)を派遣するみたい」と今や50年以上にわたり毎年実施されてきた北米航空宇宙防衛司令部(NORAD)による“サンタ追跡作戦”を例に出す。

 さらに武田さんは「北極圏の向こう側からサンタクロースがソリでやって来るのですが、接近するサンタクロースの写真を撮って流すみたい」と内容を説明し、「アメリカ空軍が毎年目撃しているので、存在は間違いないし、ニューヨークタイムスも実在するというエッセーを発表したのだから、(サンタクロースは)やっぱり存在するんでしょう!」と笑顔で結論づける。

 武田さん自身の子供の頃のクリスマスのエピソードを聞くと、「私が父親になったあとは足繁く来るようになったのですが、(自分が子供の頃は)うちはあまり来なかった(笑い)」とちゃめっ気たっぷりに話す。

 ◇「妖怪ウォッチ」は日本の伝統を継承

 「妖怪ウォッチ」に関して、「今ひそかに勉強していて、まとまったらラジオで発表しようと思っていますが、宮沢賢治の『風の又三郎』は一種の『妖怪ウォッチ』なのではという気がする」という持論を語る武田さん。その真意について、「(『風の又三郎』の中で)転校生でやって来た高田三郎くんに、とある同級生が『あいつはただの同級生ではなくて風の又三郎だ』というのですが、それは『妖怪ウォッチ』の世界と同じで、子どもたちと普段は楽しく遊んでいるけど、非常に危険な遊びをやりたがる」と語り出し、「高田三郎くんがいて、風が吹き始めて空が怪しげになると三郎くんに風の又三郎が憑依してくるという。日本にはもしかすると、そういう子供と遊ぶ妖怪の“アナザーワールド”が歴史的にあるのかもしれない」と力説する。

 続けて、「そういう伝統があって、それを科学でつぶして『ない』というから、いじめみたいなものが発生してしまっているのでは。妖怪の存在を認めて、その妖怪の中から子供たちを守ってくれる、安全に遊んでくれる妖怪をとにかく早く見つけることが大人がすべきことなのかもしれない」と真剣な表情で語る。「そういうことを考えると、(今作は)ささやかな五つの物語ですけれど、監督さんたちが一生懸命に魂を吹き込もうとなさっているので応援してあげたいと思います」と言ってほほ笑んだ。映画は全国で公開中。

 <プロフィル>

 1949年4月11日生まれ、福岡県出身。72年にフォークグループ「海援隊」で歌手デビュー。77年には映画「幸福しあわせの黄色きいろいハンカチ」で俳優デビューを飾る。79年ねんにスタートしたドラマ「3年B組金八先生」で主人公の金八先生を演じたほか、主題歌「贈る言葉」も大ヒットを記録。映画、ドラマ、音楽だけでなくエッセーなどの執筆も手がけるなど幅広い分野で活躍。主な映画出演作は「刑事物語」シリーズ(82~87年)、「プロゴルファー織部金次郎」シリーズ(93~98年)、「私は貝になりたい」(2008年)、「ストロベリーナイト」(13年)など。

(インタビュー・文・撮影:遠藤政樹)

写真を見る全 6 枚

アニメ 最新記事