フランスで100万人を動員、半年以上もロングランヒットした「愛しき人生のつくりかた」(ジャン・ポール・ルーブ監督)が23日から公開される。パリと美しい海沿いの町を舞台に、こつ然と消えた祖母を探す孫をはじめとする家族3世代が、人生を見つめ直すヒューマン作だ。主演はフランスの国民的歌手、アニー・コルディさん。
ウナギノボリ
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パリで暮らすマドレーヌ(コルディさん)は、クリスマス目前に長年連れ添った夫を失った。長男ミシェル(ミシェル・ブランさん)ら3人の息子とその家族とともに葬儀を行っていると、大好きな孫のロマン(マチュー・スピノジさん)が遅れてやって来る。ミシェルは郵便局を定年退職し、高校教師の妻のナタリー(シャンタル・ロビーさん)とは微妙な距離があった。マドレーヌの話し相手は小説家志望のロマンのみで、老人ホームに入居した後も、ロマンとのおしゃべりを楽しみにしていた。しかし、家族の思い出の詰まった家が売却されたことを知ったマドレーヌが突然姿を消して……という展開。
何とも温かく、笑え、心が豊かにさせられる。派手ではないが、こういう映画は本当に心に染みる。葬儀から始まる今作は「人は必ずいつか死ぬ」という人生の究極の負の要素を前提に、祖母、息子、孫の現在を映しながら、迷える人の姿を温かく包み込んでいく。夫を失ってポッカリと心に穴が開いてしまったマドレーヌ。思い出と孫だけが友達だ。定年退職をして時間を持て余す息子と、そんな夫にイラつく妻の関係がサイドストーリーに組み込まれ、2人が危機をどう乗り越えるのかも面白い。家族の何気ないやりとりや会話の中に、国境を越えた悩みが見え隠れし、笑えて親しみが持てる。
姿を消した祖母が行き着いた先は、祖母だけの思い出の土地だった。「人の言いなりは嫌なの」という一言が、祖母の人生を物語っている。孫と息子夫婦の3世代を見せることで、おばあちゃんにも同じように、将来を迷う若いときがあり、夫婦の危機もあり、こうして老後があるのだと想像させられる。一人の女性の人生の重みが、美しい海沿いの町の静かな冬景色の中、染み入るように感じ取ることができる。老いた者に思いを寄せたとき、後に続く者のさびついた時計も再び動いていく……。見る者の心にグッとくる一言が必ずありそうな、ユーモラスでシニカルなせりふにも注目だ。23日からBunkamuraル・シネマ(東京都渋谷区)ほかで公開。(キョーコ/フリーライター)
<プロフィル>
キョーコ=出版社・新聞社勤務後、映画紹介や人物インタビューを中心にライターとして活動中。趣味は散歩と街猫をなでること。今作での店員のせりふ「現在がだめなら過去を思い出せ」にグッときました。
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