進撃の巨人:樋口真嗣監督が明かす撮影エピソードと苦悩 「自分の中では終わっていない」

実写版「進撃の巨人」への思いを語った樋口真嗣監督
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実写版「進撃の巨人」への思いを語った樋口真嗣監督

 昨年公開された、諫山創さんの人気マンガ「進撃の巨人」を実写化した2部作の映画の前編「進撃の巨人 ATTACK ON TITAN」と後編「進撃の巨人 ATTACK ON TITAN エンド オブ ザ ワールド」。2015年の邦画最大の注目作となった同作は公開前から原作ファン、映画ファン問わず多くの関心を集め、公開後もさまざまな感想が寄せられるなど話題を呼んだ。後編の公開から約5カ月が経過し、17日にはDVDとブルーレイディスク(BD)がリリースされる。同作のメガホンをとった樋口真嗣監督に改めて実写化に至るまでのいきさつや同作への思いなどを聞いた。

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 ◇原作から“挑戦状”が来た

 「進撃の巨人」は、圧倒的な力を持った巨人たちと人類との絶望的な闘いが描かれた作品で、主人公のエレンが巨人たちから生活圏を取り戻すための作戦を実行する中で、ヒロインのミカサや人類最強の男・シキシマらと関わりながら巨人の謎に迫っていく……というストーリー。主人公のエレン役を三浦春馬さん、ミカサを水原希子さん、エレンの親友のアルミンを本郷奏多さん、シキシマを長谷川博己さんが演じており、脚本は「GANTZ」2部作などで知られる渡辺雄介さんと、映画評論家の町山智浩さんが手掛けたことも話題になった。

 樋口監督は実写化の話が出る以前に原作を表紙で“ジャケ買い”しており、原作マンガは知っていたという。実写化の話が持ち上がった当時は原作の大ブレーク前で、まだ周囲に知っている人は少なかった。だが、マンガを読み、躍動感のある絵に引かれ「動いているところがみたい」という衝動に突き動かされた。樋口監督は特殊効果を使った作品など、これまでに積み上げてきた経験を生かせば「ものになるんじゃないかと思った」という。「大変だろうな」とは思ったが、「原作のコマから、『やれるもんならやってみろ』みたいな挑戦状が来た、みたいな……。この挑戦は受けて立たないといけないんじゃないかと思いました」と笑顔で語る。

 実写にする上で最も苦労したのは、「ゼロから未知の世界を構築することだった」と樋口監督は明かす。「廃虚になる前の100年ぐらい幸せな生活を営んでいた世界というのは、どんな世界なのか」と考えた。それまでに製作してきた作品は、図書館なりしかるべき場所で資料にあたれば解答が見つかった。だが、今作は架空の世界の物語のため“正解”がない。本来指針になるはずの原作も、設定を変更しているので答えにならない。結局、すべて自分で作り上げなければならず、初めての経験に頭を悩ませた。樋口監督は「すべてを選ぶというのが、こんなに大変なのか」と感じたといい、「(原作が)大好きだからやったのはいいけれど、食事に行っても、脳が疲弊してて何を食べていいか分からないくらい(笑い)」と当時の苦悩を振り返る。

 ◇三浦春馬と長谷川博己が本気で殴り合い?

 同作は、主人公は三浦さん、ミカサは水原さん、アルミンを本郷さん……と注目の若手が主要キャラクターを演じたが、キャスティングの決め手は「動けるかどうか」だったという。マンガでも主人公たちが空中を自在に飛び回る“立体機動装置”による戦闘シーンが見どころの一つだったため、「どれだけ動けるかが肝だった」と樋口監督は明かす。

 また、主要キャラクターと並んで、作品に欠かせないのが巨人たちの存在だ。不気味極まりない巨人たちの表情や動きが同作の魅力でもあるが、樋口監督は「単純に怖がらせて、というより、他人の嫌な部分というのをどこまで膨らませられるかに重点を置いていた」と語る。巨人たちの侵略による恐怖と絶望を、どこまで描けるか。樋口監督は「一歩間違うと、ばかばかしい絵になってしまう。コメディーになりかねない。緊張感をどう維持させようかと気をつけました」と話す。

 キャストについては「春馬くんがすごく頑張ってくれた」と語る樋口監督。後編では、三浦さん演じるエレンと長谷川さん演じるシキシマが殴り合うシーンがあるが、役に集中するあまり、ハプニングもあった。「すれすれを狙いながら、すれすれを超えちゃっていることがあって。長谷川さんの拳が、本気で(三浦さんに)当たっちゃっているんですよね。(三浦さんは)大丈夫です、と我慢しているけど、編集で見ていて、絶対に入ってるじゃんこれ! みたいな……」と樋口監督は撮影の裏話を明かす。

 ◇「自分の中では終わっていない」 自己評価は……

 後編の公開から約5カ月が過ぎた今、樋口監督は同作へどのような思いを抱いているのだろうか。改めて自己評価を聞いてみると、「自分の中でまったく終わってない感じがするんですよ。“保留”みたいな(笑い)」と複雑な表情で笑う。7月に公開される映画「シン・ゴジラ」の撮影が控えていたため完成後の作品をしっかり観賞できていないといい、「公開されているのに自分で見られない、その場にいられない、というのは初めての体験で。だから、ちゃんと総括できてない、というのがありますね」と心境を明かす。

 「お客さんと一緒に見て初めて、受けたなとか、受けなかったなとか、反省を糧に次に行くんですけれど、まだ見られていないので……。だからモヤモヤしているんです(笑い)」と語りつつも、続編について「許してくれるのならやりたいですね」とほほ笑んだ。

 前編「進撃の巨人 ATTACK ON TITAN」は17日、後編「進撃の巨人 ATTACK ON TITAN エンド オブ ザ ワールド」は3月23日にDVD&BDが発売される。

 ◇プロフィル

 ひぐち・しんじ 1965年生まれ、東京都出身。主な監督作品に「ローレライ」(2005年)、「日本沈没」(06年)など。16年7月29日から公開される庵野秀明総監督の「シン・ゴジラ」では監督・特技監督を務める。

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