講談社のマンガサイト「モアイ」で連載中の、伝奇小説「西遊記」を題材にしたギャグマンガ「西遊筋」は、昨年プロマンガ家にデビューしたばかりのマレーシア人が執筆している。なぜ異国・日本でのデビューを決めたのか。「OTOSAMA」のペンネームで活動してる梁金富(リャン・チンフー)さん(27)に話を聞いた。
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梁さんは少年時代、日本のマンガやアニメに親しみ、「日本は夢の国のように見えた」という。好きだったのは、「ウルトラマン」「仮面ライダー」「クレヨンしんちゃん」「あずまんが大王」など。しかし「中学生になるまでマンガ家になりたいと思っていたけれど、マレーシアで将来の職業にするにしても、詳しい人がいなくて……」と一度はあきらめた。
マレーシアのゲーム会社に入社し、働いていた2012年、趣味の一環でフェイスブックで発表したのが「西遊筋」だった。ゲーム会社を退職し、マンガをアニメのように動かすモーションコミックを手掛ける「シフトワン」(東京都千代田区)からスカウトされ、「西遊筋」を本格的に執筆するようになる。そしてモーションアニメ「西遊筋」は講談社モーニング編集部編集者の目に留まり、15年8月から連載スタート。念願のマンガ家デビューを果たした。
梁さんのデビュー作「西遊筋」は、もちろん「西遊記」をモチーフにした作品だ。三蔵法師の天竺への旅に孫悟空らがついていくのは同じだが、「西遊筋」の三蔵法師は筋肉ムキムキで、お供をする悟空よりも圧倒的に強い。悟空や猪八戒、沙悟浄は可愛い美少女で、性格にかなり難ありの超個性派。馬の白竜(玉龍)は、立派な体格の三蔵法師に押しつぶされて吐血し、三蔵法師の靴になって、歩くたびに色っぽい声を出す。突っ込みどころ満載の笑える作品だ。
魅力は、国や文化の枠を超えて通じるギャグセンスだ。シフトワンは梁さんをスカウトした際、台湾の人だと思い込んでいたといい、講談社も当初、日本人作家だと思って連載を打診している。日本人編集者を勘違いさせるほど、国や文化の壁をまったく感じさせない強みが「西遊筋」にはある。
そうしたギャグセンスは、ゲーム会社勤務時代に培われた。当時、マンガ連載は多忙のため1日たった1ページの更新だったが、そのため1ページで笑わせるアイデアを練りに練ったといい、そうした経験が生きているという。文化や言葉の違う日本での連載に、ギャグを作る苦労はないのかと尋ねると、梁さんは「もともとこういうギャグが好きなんです。むしろ昔、中国語で読む人たちに私のギャグを理解してもらえるか心配した」という。
今は日本に住み、日本語学校に通いながら、平日は1日平均5時間、週末はひたすら執筆に時間を費やす。「描くのはそれほど(苦労)でもないんです。ギャグマンガなので、時間がかかるのはむしろネタ作り」と話す。そして日本語を勉強することで、昔に読んだマンガのネタの意味が分かるのも楽しみの一つだという。「この感覚は、外国人にしか分からないかもしれませんね」と笑う。
「日本のファンの応援が一番うれしい。マンガを読んでもらえれば好きになってもらえる自信がある」と話す梁さんの次なる挑戦は、23日に発売される初のコミックスだ。プロとして売り上げという結果が求められていることは百も承知だが、新作の構想もあるという。
「マンガ家になれたのは、たくさんの偶然が重なった結果」と振り返る梁さんは「連載は大変だけど、今は本当に楽しい」と話す。“マンガ大国”日本の外で育った新しい才能が、どう花開くか注目だ。
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