堀井新太:テレビドラマ初主演に「僕の人生の転機」 NHKドラマ「川獺」で悩める青年を好演

NHKスペシャルドラマ「川獺(かわうそ)」でドラマ初主演を果たした堀井新太さん
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NHKスペシャルドラマ「川獺(かわうそ)」でドラマ初主演を果たした堀井新太さん

 俳優の堀井新太さん主演のNHKスペシャルドラマ「川獺(かわうそ)」が29日に放送される。「川獺」は、ドラマの脚本家の登竜門として知られる「創作テレビドラマ大賞」の第39回受賞作を映像化。絶滅したとされるニホンカワウソを題材に、名もない人生を送った父の生き方の真実に触れる息子の物語を描く。今作がテレビドラマ初主演となる堀井さんは、NHK連続テレビ小説「マッサン」でニシン漁師の息子・森野一馬役や、NHK大河ドラマ「花燃ゆ」での中原復亮役、さらに「下町ロケット」(TBS系)など話題作に立て続けに出演し、注目を集めている。初主演の意気込みや撮影の様子、ドラマの見どころを聞いた。

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 ◇テレビドラマ初主演に気負いと喜びが同居

 堀井さんは、今作が「僕の人生の転機」だと感じ、「失敗したら次はないのかも……と考えました」と話す。初主演が決まり、「素直にうれしかった」と喜ぶ一方で、「正直、僕に初主演が務まるのかなという不安もありました」と当時の心境を明かした。「(携わってきた)作品それぞれに僕の思いというのはありますが、『主演だから……』と気負っちゃっいました」と振り返るも、「でも気負いは3割ぐらいで、逆に『やっときたか!』といううれしい思いが7割ぐらい。好奇心というか、やってみたいという気持ちが強かった」と笑顔を見せる。

 台本を読み「初心に帰る気持ちになった。自分の原点と向き合えると感じた」というが、「演じているときに“その人の人生を生きること”イコール演じるというのが自分の中でずっとテーマ」と持論を語り、「お芝居にはいろんなリアリティーがあると思いますが、今回、“日常風景にカメラを置き、その人の日常を撮っている”という感じの作品に近い」と作風を説明する。

 続けて、「例えば、目線を動かすだけとか、口角をちょっと上げるだけでも意図が変わったりするのが今回のお芝居」といい、「分かりやすくするためにアップなどで伝えたりはしますが、(心情を表すためなどに)余計なことは一切しなかったから、その人の人生を生きていないと演じられない」と理由を語る。

 ◇撮影を思い出せないほど役にのめり込んでいた

 堀井さんが演じるのは、父にわだかまりを抱きつつ、妊娠した恋人・香山由美(岡本玲さん)を守りきれない自分にもいらだっている青年・松浦保。絶滅したはずのニホンカワウソを発見したとうその発表をして世間を騒がせたことで両親が離婚し、それ以来、父・明憲(勝村政信さん)とは別々に暮らして来たが、危篤の知らせを聞いて14年ぶりに故郷へと戻る……というストーリー。

 こまやかな感情の変化を表現する難しさもある役どころだが、堀井さんは「孤独で素直じゃない人」と保の人柄を表現し、「保の生涯を振り返ると、大変な人生を生きてきたとは思ったけれど、それでも周りに支えてくれる人がいる。それはやっぱり両親に愛されて育ってきたのでは」と印象を語る。

 さらに、「保は父親の愛情を知らずに育ってきてしまい、恋人が子どもを身ごもるけど父親になる自信がない」と役柄の境遇を説明し、「実は裏にはいろんな悲しい過去があって……ということですが、本当にその人の気持ちになっていないと、すごく自分勝手な人の役に見えかねない」と役の見え方の危険性に言及。「一つ間違ってしまうとそう見えかねないし、心情の微妙な変化が大きな間違いになる可能性があるなど、すごく繊細な感じが難しかった」という。

 繊細な感情を表現するため、「『さっき何をしたのだろう』と感じるぐらい、(役に)のめり込んでいた」と堀井さんは明かし、「考えていないわけでは決してないのですが、撮影しているときは夢中になってやっていた」と振り返る。

 ◇注目してもらうことが「今の活力」

 話題作に次々と出演し脚光を浴びている現状について、「いろんな人が注目してくださっていることが、僕の“エンジンを回す燃料”」という堀井さん。「ここ最近、いい燃料を切らさないでいられる」と喜び、「共演した役者さんからも、いい意味で期待されていたり、お世話になったスタッフさんからは『次の作品を見ているから』と言われたりすることが励みになっています」と充実感をにじませる。しかし、「視聴者の方はもっと厳しい目で見るから、それが僕の今の活力」と言い切る。

 出演作も「自分が『やりたかった』ものや、『こんなにいいところでやらせてもらえるのか』という環境が増えてきました」と堀井さんは明かし、「もちろん、こちらからお願いすることもありますが、ありがたいことに(制作側から)『やってみないか』と声をかけてもらえるなど、環境は変わってきました」と手応えを感じている。

 自身の置かれている立場を、「すでにみんなから尊敬される役者さんは、雲の上を抜けて上空1万メートルくらいで、もう安定している」と飛行機のフライトに例えて表現し、「僕はやっと離陸して浮き始め、少しぐらつくからシートベルトをしているところで、上空1万メートルまではまだまだ」と自己分析する。そして、「乗り込んでスタートし、加速をして、安定に向かって浮いている感じだから面白い」と思いをはせる。

 そんな堀井さんの理想の女性像は、「一緒にいて気を使わずに楽で、掃除と料理が好きな人」だといい、「掃除は大事だし、料理はご飯を2杯おかわりしちゃぐらいおいしいほうがいい」と満面の笑みで理由を語る。

 そう強く感じるようになったのは、「ある番組ロケで長崎の漁師のお宅にお邪魔した」ことがきっかけだったという、「だんなさんの仕事のため、奥さんが朝早く起きて料理を作っていたのですが、すごく豪華だった」と驚き、「(メニューも)テレビ用ではなく毎日同じような感じだったそうで、めちゃくちゃおいしかった」と振り返り、「掃除も行き届いていたりして、その分、だんなさんは一生懸命働いている。その関係がいいなと」と憧れを感じた。

 ◇「身近なものは大事」ということを再確認してほしい

 今作が「今の時代に必要だと思う」と力を込める堀井さんは、「“大切な人のために、その人のことを思って生き続けてきた”というメッセージがあり、これは見落としがちだけど、実はすごく大事」と力を込める。続けて、「例えば、自分の恋人だったり家族だったりを思って生き続けるということを、(見ている側も)自分自身振り返って改めてそう思えるような作品になっていると思う」と語り、「それだけでも見る価値はあるのでは」とメッセージを送る。

 撮影は高知オールロケで行われたが、初めて訪れた高知を「ものすごくいい所でした」といい、「撮影条件に合った、海、山、川、漁師町とか、すべてそこにあるものを使わせてもらい芝居ができたので、役者にとってはこれだけやりやすいところはない」と感謝する。「もう環境が最高なので、できた画(面)に関しては自信があるし、台本もよくて監督、スタッフさん、自分以外のキャストさんが全員すごく素晴らしい」と充実感をにじませ、「本当にそれぐらい全部が整っているので、自分も頑張らなければと思ったし、出来上がりが楽しみで早くいろんな人に見てほしい」と目を輝かせる。

 見どころについて、「もやもやというか払拭(ふっしょく)しきれない思いを抱えた青年が、どうなっていくのかというのが一番のテーマ」と切り出し、「(保と)父がどうなるのか、家族は、恋人はどうなるのかという疑問を最後まで抱きながら見ていただいたとき、うまくいっていれば、みんなが共感してくれるのではないかなと思います」と説明する。そして、「最初は、自分勝手すぎて憎たらしく保が見えるかもしれないけど、チャンネルを替えず、じっくりと見てほしい」とアピールする。

 さらに、「人が見るというのは時間を割いてくれているわけだから、なにかこちらも残さないと……と思っていて、今回もいろいろ考えてお芝居をしました」と堀井さんは語り、「記憶に残ってくれるのが一番うれしいですが、見てなにか思ってくれたらそれだけでもいいし、見てよかったという作品になればすごくうれしい」と神妙な表情を見せる。特に見てほしい層として「若い子」だといい、「意外と今の世の中、忘れがちなことが身近にいっぱいあるので、今作を見て、もう一度、身近なものは意外と大事ということを改めて思ってほしい」とメッセージを送る。

 今後チャレンジしてみたいことは、「映画出演がまだ少ないので、テレビではできないようなお芝居を映画でやっていきたい」と意気込み、「役はなんでもいいです。テレビと映画ではジャンルが違うので、テレビでできない役を映画でやりたい」と語った。「川獺」はNHK総合で29日午後10時から放送。

 <プロフィル>

 1992年6月26日生まれ、東京都出身。2010年に「D☆DATE新メンバーオーディション」でグランプリを受賞し、「D-BOYS」と「D☆DATE」に加入。同年12月にシングル「あと1cmのミライ」でデビューを飾る。11年にドラマ「シマシマ」(TBS系)で俳優デビューして以降、ドラマや舞台、CM、バラエティーなどで活躍。15年には「ズタボロ」で映画初出演を果たす。主な出演作に「GTO」(フジテレビ系)、NHK連続テレビ小説「マッサン」、「表参道高校合唱部!」(TBS系)、「下町ロケット」(TBS系)、NHK大河ドラマ「花燃ゆ」、「警視庁ゼロ係~生活安全課なんでも相談室~」(テレビ東京)などがある。

 (インタビュー・文・撮影:遠藤政樹)

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