瑛太:映画「64-ロクヨン-」に出演 新聞記者の大変さを知り「俳優でよかった」

映画「64-ロクヨン-前編」で新聞記者を演じた瑛太さん (C)2016映画「64」製作委員会
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映画「64-ロクヨン-前編」で新聞記者を演じた瑛太さん (C)2016映画「64」製作委員会

 横山秀夫さんの小説が原作で、俳優の佐藤浩市さんが主演を務める映画「64-ロクヨン-」(瀬々敬久監督)の前編が7日に公開される。たった7日間でその幕を閉じた昭和64(1989)年に起きた通称“ロクヨン”と呼ばれる事件の時効が近づく中、平成14(2002)年にロクヨンを模倣した事件が発生し、主人公の県警警務部の広報官らが事件解決に奔走する姿を、警察内部の対立や県警記者クラブとの衝突などを織り交ぜて描いている。県警記者クラブを幹事社としてまとめる、東洋新聞キャップ・秋川を演じる俳優の瑛太さんに話を聞いた。

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 ◇佐藤浩市との共演シーンに「震えた」

 秋川は、佐藤さん扮(ふん)する元刑事で今は警務部の広報官である三上義信と、事件発表の対応を巡り衝突する役どころ。「浩市さんが主演で、監督が瀬々さんという話を聞いていたので、お二方とどういうふうに向き合い、自分がこの作品に携わってどう楽しめるか」を考えていたという瑛太さんは、「お芝居とはいえ浩市さんに刃向かっていけるというのはやりがいもありますし、覚悟を決めなきゃいけないというところで、俳優として楽しみで仕方なかったです」と当時の心境を明かす。

 撮影初日には「クランクインして、いきなり浩市さんとぶつかるシーン」だったため、瑛太さんは「震えました」と打ち明けるも、「一歩踏み込んでしまえば景色が変わってくるというか、僕が踏み込んだことを、浩市さんがきちんと感じてくださるということも実感できました」という。

 そして、「(演じながら)気持ちの中で動いていることを一緒にキャッチボールできた気がしたので、あとはシーンにおいての意味合いをコントールしていけばいいのかなというところから始まりました」と佐藤さんとの共演シーンへの手応えを語る。

 佐藤さんとは数多くの共演シーンがある瑛太さんだが、「基本的に浩市さんとは現場では一言もしゃべっていないです」と言い、「浩市さんとは“秋川対三上”というつもりで現場にいて、本番では思いっきりぶつかっていこうという覚悟でやっていました」と打ち明ける。

 ◇新聞記者役に「知的な役はあまりやったことがない」

 役作りについて、「台本が答えだとは思う」と瑛太さんは話すも、「衣装合わせもそうですし、監督がどういうものをイメージしているかを考えたり、そういった事前の準備をしつつ、現場に行ったら全部“忘れてしまう”」という作業をしているという。

 その理由を、「稽古(けいこ)をしてきたものをそのままカメラの前でやるというのが一番つまらないと思う」と説明し、「現場の楽しさは、相手があって現場の空気感があって、そこで何が起きてくるかというところ」と力を込め、「何か起きてくれないかなと思うし、何か起こそうとも考える。そういった部分は大事にしようと思っています」と演技へのスタンスを語る。

 今作では記者クラブの幹事社の新聞記者を演じるが、「知的な役はあまりやったことがない(笑い)」と瑛太さんは自虐的に語り、「記者に見えるかなという不安もちょっとありました」と本音を吐露する。しかし、「俳優なので映像に映ったら、そう見えていればいいなと信じたい」と思いをはせる。

 ◇現役の新聞記者の話を聞き「想像がふくらんだ」

 くせ者のような印象がある秋川役については、「ヒール役というか、間違ったことをしているわけではないけれど、広報室にとってはすごくやっかいな人間」と説明し、「正義も悪も実はあの中にはない気がしている」と瑛太さん。続けて、「今まで新聞記者の実情といったことは知識としてもなく、役者として想像しながら楽しむところから始まった」と明かし、「実際に記者の監修の方がいらっしゃって、その方からいろいろ記者クラブの実情とか、結構えぐい話をさりげなく聞きました」と笑顔で語る。

 実際の記者との対話はネタ取りに始まって多岐にわたり、「(新聞記者は)睡眠時間も少ないし、休みもなく、とにかく人として何かを失っていく仕事である」と瑛太さんは感じ、その結果、「光が見えてきたというか、秋川に対しての想像がすごくふくらんだ」と明かす。そして、「現場では芝居をしていくうちに、どんどん自分も孤独になっていくという感覚はすごくあった」と振り返り、「内部事情も映画の中で描かれているので、見ているお客さんも楽しめるのでは、という気はしています」と自信をのぞかせる。

 秋川は髪形がぼさぼさでネクタイも曲がっているような身なりだが、「現場に行ってみて、衣装合わせで衣装を着てみて、こういう感じかなと思った」と瑛太さんのアイデアも盛り込まれているという。瑛太さんの弟・永山絢斗さんもNHKのドラマ「64」で同じく秋川を演じていて、「弟のドラマを見たらスーツが同じ色でびっくりしましたし、みんな考えることは一緒なんだなと(笑い)」と楽しそうに話す。

 しかし、苦労話を聞き過ぎたせいか、「(新聞記者は)すごく責任は重大であるという気がします」と深くうなずき、「僕には無理、俳優でよかったなと思いました」と笑う。

 ◇佐藤浩市とぶつかり合うシーンに注目してほしい

 今作は佐藤さんをはじめ、実力派のキャストがそろった。「(佐藤さんが)自分の脱いだコートをハンガーに掛けるところで、その音がせりふとかぶった瞬間に気になるかどうかを録音部さんと話に行ったりしていた」と撮影裏話を告白し、その姿を見た瑛太さんは、「これが映画の主役を張る俳優がやるべきことなのかなと」と驚いたという。「自分は今まで何をやっていたのだろう、ということも感じました」と我が身を振り返り、「大きくどっしり座長として作品を引っ張っていくという、具体的に言葉を発しているわけではないが、現場にいる浩市さんのたたずまいには本当に感動しました」と実感を込めて語る。

 物語の核となる“ロクヨン”と呼ばれる事件は昭和64年に起きた設定だが、「最近、共演する人もだんだん平成生まれの人が出てきていて、僕は昭和だよみたいな感じはあります(笑い)」と自身の“昭和感”を認めつつ、「特に自慢することでも強気になることでもないですけれど……」と冷静に語る。さらに昭和64年については「小学校1~2年生ぐらいの頃で、弟が生まれたのがそのあたりだったので、僕は兄になったというのが昭和64年だったかなと」と瑛太さん。「それで秋川を弟が先にやっているという。わりと運命的な部分はあります」とちゃめっ気たっぷりに話す。

 今作を「家族愛も人間ドラマもミステリーもあるので、女性が見ても楽しい映画では」と表現し、「男性の方にももちろん見てほしいんですが、女性の方がいろいろ感じることがあるのではと思います」とアピール。秋川については「事件や三上と向き合うことによって、秋川の中で心が動き始めるところや、浩市さんとぶつかり合うシーンが見どころになっていたらいい」と語った。映画は前後編で、前編が7日、後編が6月11日に公開される。

 <プロフィル>

 1982年12月13日生まれ、東京都出身。2002年に「青い春」で映画デビューし、05年公開の「サマータイムマシン・ブルース」で映画初主演を飾る。09年には「ディア・ドクター」をはじめ、「余命1ケ月の花嫁」「ガマの油」「なくもんか」などの作品で第33回日本アカデミー賞、第52回ブルーリボン賞など数々の助演男優賞を受賞。主な映画出演作は「僕達急行 A列車で行こう」「モンスターズクラブ」(以上、12年)、「まほろ駅前狂騒曲」(14年)など。16年5月には出演した映画「殿、利息でござる!」の公開を控える。

 (インタビュー・文・撮影:遠藤政樹)

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