演芸・お笑い:「笑点」50年、ピコ太郎…2016年を振り返る

2016年に大ブレークしたピコ太郎さん
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2016年に大ブレークしたピコ太郎さん

 人気長寿番組「笑点」(日本テレビ系)が放送開始50年、お笑い芸人の古坂大魔王さんがプロデュースしたとふれこみの「ピコ太郎」さんの大ブレークなどさまざまな話題があった2016年の演芸・お笑い界。今年1年の出来事を振り返った。

ウナギノボリ

 ◇サプライズ戦略はまった「笑点50年」

 今年は「笑点50年」の年として多くの人に記憶されるだろう。日本テレビの人気長寿番組「笑点」が放送開始から50年を迎え、さまざまな「サプライズ戦略」もあって、落語に普段触れない人々からも注目を浴びた。

 桂歌丸さんが司会を勇退したことに始まり、「(三遊亭)円楽さんでは?」と盛り上がった新司会者には春風亭昇太さんが就任。新メンバーには林家三平さんが入り、同局の「24時間テレビ」では林家たい平さんがチャリティーマラソンに挑んだ。昇太さんが司会する大喜利は、これまでに比べてテンポが速く、試行錯誤を繰り返しながら、その様子を番組であからさまにすることで、新たな魅力が加わった。

 笑点メンバーの活躍も目立った。三遊亭好楽さんは芸歴50年を迎えて記念公演を開いた。林家木久扇さんは息子の林家木久蔵さん、そして孫と3世代ユニットでNHK「みんなのうた」に登場。今年流行(?)の“不倫”で芸能ニュースをにぎわせた円楽さんは、プロデュースする「博多・天神落語まつり」が10回目となり、東西落語界の人脈をつなぐ貴重な場に成長させた。三遊亭小遊三さんは来年4月の「信玄公祭り」(甲府市)で武田信玄役に。三平さんは笑点で子供の名を募集し、妻の女優、国分佐智子さんは11月に男児を出産。そして昇太さんは、来年のNHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」に今川義元役で出演する。笑点メンバーの話題はまだまだ続くだろう。そして、笑点の存在が落語を知らない人々と落語をつなぐ大切な番組であることは、これからも変わらない。

 ◇「落語ブーム」はまだこれから

 昨年10月の八代目橘家圓蔵さん(81)に続き、三代目桂春團治さん(85)が亡くなり、戦後の落語界を盛り上げてきた東西の「四天王」が皆、この世を去った。東京(五代目春風亭柳朝さん、古今亭志ん朝さん、五代目三遊亭圓楽さん、立川談志さん、圓蔵さん)も、上方(六代目笑福亭松鶴さん、五代目桂文枝さん、桂米朝さん、春團治さん)も、四天王の弟子の世代、さらに孫弟子の世代以降が活躍する時代となった。

 昨年に続き、春風亭一之輔さんや桃月庵白酒さん、落語芸術協会所属の二つ目ユニット「成金」が若い世代に受け、マスコミも「落語ブーム」と、彼らを中心に取り上げられる機会が多かった。だが、落語ブームというよりは、落語会ブーム、イケメン落語家ブームといった視点の紹介が目立ち、東京偏重も相変わらず。NHK新人落語大賞は上方、桂雀三郎さん門下の桂雀太さんが受賞したのだが、NHKの関連番組がほとんど雀太さんを取り上げなかったのは、いただけなかった。あおるだけのブームは長続きしないものだ。

 もし本当に「ブーム」ならば、落語を見せる番組がもっとあっていいはずだが、断片的に取り上げる番組ばかりで、落語番組はさほど増えていない。一般の人に「名前を知ってる落語家」を聞けば、まだまだ笑点メンバーが圧倒的だ。年末、手帳のCMには昇太さんと柳家喬太郎さんが登場したが、もっと一般に対しての落語家の知名度が上がらなければ、ブームとはいえないだろう。吹きかけているブームの風は、さらに強くできるはずだ。

 ◇「東西、4派の壁」はどうでもいいこと

 落語界を説明する本、雑誌も多く出され、たいていの本には「落語には東京と上方があり、東京は4派あって……」という記述があったが、落語を聴く方からすれば、「東西」「4派」は関係ない、というか、どうでもいい。円楽さんプロデュースの「博多・天神落語まつり」は、そうした壁を「自分たちの世代でなくしたい」という強い思いがあり、多くのベテラン、売れっ子、若手落語家が毎年集まってきた。

 桂文珍さんは、春の大型連休に東京・神保町で「桂文珍的ココロ『神保町大阪文化祭!』」を開いた。東京で活動する上方の落語家も増えてきた。

 上方漫才が東京に進出して、関西弁と漫才の「東西の壁」は一挙に消えた。落語も東西にこだわらずに進んでいかないと、ブームもさらなる発展もない。そのためにも、東西の四天王や桂枝雀さんがそうだったように、「圧倒的な知名度と人気、実力」を持った落語家の登場が待たれる。

 ◇中堅世代、安定した活躍

 かつて「ブーム」と報道された、六人の会(春風亭小朝さん、笑福亭鶴瓶さん、春風亭昇太さん、立川志の輔さん、林家正蔵さん、柳家花緑さん)、SWA(昇太さん、柳家喬太郎さん、林家彦いちさん、三遊亭白鳥さん)のメンバー、そして立川談春さんといった中堅世代も、変わらず最前線で安定した活躍を続けた1年だった。

 小朝さんは菊池寛の作品を落語にした会をスタート。志の輔さんの東京・渋谷での公演「志の輔らくごinパルコ」は建物の改築で区切りを迎えた。鶴瓶さんはタモリさんの助言で生まれた「山名屋浦里」(くまざわあかねさん作)が歌舞伎座で舞台化された(脚本は小佐田定雄さん)。「本当のサプライズ」だったので報道されなかったが、千秋楽にはタモリさんと鶴瓶さんが登場。再演を期待している。

 「創作落語の会」が100回を迎えた桂文枝さんは、上方落語協会の会長に再選(8期目)されたが、2年の任期後に勇退することを表明。副会長を5人に増やし、神戸の「第二の繁昌亭」計画も進めることが決まった。定席の天満天神繁昌亭は10周年。お練りが繰り広げられた。

 ◇誰も予想できず「ピコ太郎」

 誰も予想しなかった「謎のエンターテイナー」ピコ太郎さんの「PPAP」が世界を席巻し、渡辺直美さんも海外でもブレーク。お笑いコンビ「オリエンタルラジオ」は「RADIO FISH」としてNHK紅白歌合戦に歌手枠で出場と、芸人の既存の枠から大幅に外れた活動が目立った。

 他に今年活躍したお笑い芸人は「トレンディエンジェル」を筆頭に、平野ノラさん、メイプル超合金、ゆりやんレトリィバァさん、横沢夏子さん、おかずクラブなどを挙げたい。

 M-1グランプリ優勝の銀シャリをはじめ、和牛、スーパーマラドーナ、さらば青春の光、スリムクラブ、アキナ、相席スタートらも勢いを見せた。

 ◇来年は「○○ブーム」?

 雲田はるこさん原作のアニメ「昭和元禄落語心中」(MBS、TBSほかで放送)と東京の寄席が年明け早々にコラボする。作品に登場する落語を落語家が演じる「昭和元禄落語心中寄席」が1月31日、新宿・末広亭、浅草演芸ホール、池袋演芸場で開かれる。アニメと寄席、そして寄席3軒同時の企画は異例中の異例だ。保守的と見られがちな落語協会と寄席の意欲が伝わる企画だ。

 襲名は華やかなイベントであり、今後が楽しみな公演でもある。今年は三代目橘家文蔵さん、上方講談の五代目旭堂小南陵さん、四代目玉田玉秀斎さんが誕生した。来年は笑福亭三喬さんが七代目笑福亭松喬を、真打ちに昇進する桂三木男さんが五代目桂三木助を襲名する。

 そして「落語ブーム」はどうなるか。若手が増え、力を付けてきた講談、浪曲のブームが起きるかもしれないし、「女流ブーム」かもしれない。いずれにしろ、若返りして健闘している業界は、心配することはないと信じたい。

 ◇追悼2016

 昨年末には国本武春さん(浪曲師、55)、上方漫才の大ベテラン、海原小浜さん(92)の訃報が届き、年明け1月の春団治さんに続き、劇作家の大西信行さん(86)が亡くなった。大西さんは正岡容(いるる)さん門下で桂米朝さん、小沢昭一さん、加藤武さんらと同門だった。

 歌舞伎俳優の中村梅之助さん(85)は落語家・二代目談洲楼燕枝さんの孫であり、落語好きと話されていた。最後の公演は「人情噺文七元結」だった。

 長寿番組「日曜喫茶室」(NHK-FM)でおなじみ、はかま満緒さん(78)は「テレビに登場する放送作家」の先駆者でもあり、初代林家三平さんのブレーンとしても活躍。萩本欽一さんらを育てた。

 講談師の神田陽司さん(53)は雑誌「シティロード」編集者からの転身。大病と闘っていたとは知らなかった。秋田Bスケさん(90)は昨年亡くなった秋田Aスケとのコンビが戦後、人気となった。

 江戸家猫八さん(66)は2009年に小猫から四代目を襲名。父の三代目とは異なる個性で声帯模写の芸を確立した。芸は息子の小猫さんが継ぐ。前田健さん(44)は松浦亜弥さん(あやや)の物まねが懐かしい。

 柳家喜多八さん(66)は最後まで病と闘いながら高座を務めた、寄席を愛した落語家だった。

 柵木眞さん(89)はマセキ芸能社会長。ウッチャンナンチャンや出川哲朗さんらを育てた。

 永六輔さん(83)は今ごろあちらで立川談志さんとケンカしてるだろうか。柳家小三治さん、入船亭扇橋さんらとの交友も長く、若手のころお世話になった落語家も少なくない。

 関西では「ツチノコ芸人」と言われたテントさん(65)に続き、吉本新喜劇の「たつじい」、井上竜夫さん(74)、そして「大阪名物パチパチパンチ」の島木譲二さん(72)と、ベテランが続けていなくなった。

 松岡由雄さん(76)は立川談志さんの弟。兄を助け、また立川企画社長として多くの落語家を育てた。作曲家のたかしまあきひこさん(73)が手がけた「8時だョ!全員集合」や「ドリフ大爆笑」の音楽は忘れられない。

 浪曲界の大御所、二代目春野百合子さん(89)は、上方の多くの芸能人に愛された。春野恵子さんら弟子たちがネタを継承していくだろう。

 (文・油井雅和/毎日新聞)

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