高橋一生&大友啓史監督:「芝の上に居るだけ」が理想 2人が語る映画の可能性

「3月のライオン」でメガホンをとった大友啓史監督(左)と林田高志役で出演している高橋一生さん
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「3月のライオン」でメガホンをとった大友啓史監督(左)と林田高志役で出演している高橋一生さん

 俳優の高橋一生さんが出演している映画「3月のライオン」(大友啓史監督)の後編が22日、公開された。高橋さんは、主演の神木隆之介さん演じる高校生のプロ棋士、桐山零の担任の林田高志を演じている。林田は、将棋ファンで零の相談にも乗る“頼もしい兄貴”のような存在で、緊迫感漂う対局シーンの合間で穏やかな空気を作り出している。高橋さんに俳優としての作品への向き合い方などを聞くとともに、同作でメガホンをとった大友監督に俳優としての高橋さんの魅力などを聞いた。

ウナギノボリ

 ◇高橋一生「演技という言葉が嫌い」

 ――今回の作品でお互いの新たな発見は?

 大友監督:林田先生の物語の役どころは、緩急だと緩。ビシビシ将棋を指しているシーンがある一方で、零をゆるく励ましてあげる。林田先生は教育者だから、無責任なことを生徒に言ってはいけない。ちゃんと生徒のことを考えて、寄り添う形でどういう距離感がいいのかを分かっていなきゃいけない。林田は彼と、ほどよい距離感をうまくとってくれたなと思った。

 高橋さん:桐山(零)君との距離感は「もし自分がこうだったら、こうされたい」というのが念頭にありました。林田も通過儀礼のようにその孤独の道を通っていて、距離を近づけていく方法を感覚で分かっている人間だと思う。あとは現場で、大友さんが何度も(零とのシーンを)やらせてくれて、それが本当に幸せで。屋上で零と話すシーンは、いつまでもやっていたい、というシーンでした。

 これまで、「来週撮らなくちゃいけない」というような作品に追われることが多かったんです。あるとき、ある映画俳優さんとご一緒したときに、映画とドラマの違いってなんだろう、と話したことがあって。それは「奇跡を待てること」と「奇跡を作らなきゃいけないこと」だろうと。奇跡を作ることも、ときには絶対必要だと思う。追われている中でひねり出てくるものもあるから。だけど、時間のゆるやかな流れの中でピッとしたものができあがり、その瞬間を切り取るということは、ある時間のかけ方をしないといけない。大友さんはそれをすごく考えて使い分けてくださっているのを感じていました。大友さんの懐の中でゆっくりと楽しく過ごさせてもらいました。

 ――映画俳優としての高橋さんの魅力は?

 高橋さん:とんでもなく恥ずかしい質問が出てきましたね(笑い)。

 大友監督:(原作は)将棋という題材で、いろいろ面白いキャラクターもいて、尺を考えると連続ドラマ向きなんですよ。それと、僕はアクション作品のイメージがあるから、棋士の戦いの映画となると、みなさん心配するんですよ。「大丈夫?」と。ただ、名人戦とかを見てると面白いんですよ。大の大人が将棋盤を何時間も挟んで、勝ち負けも分からない勝負をしている。そこを映画でじっと撮っていくと、俳優でも、目の奥に何かが出る。テレビの画面だと、目の奥の表情は伝わらないかもしれないけど、映画のスクリーンはでかいから伝わる。将棋も、そこに人がいれば、感情が動けば、そしてそれが映れば映画になる。それを信じられるのが映画の面白さだと思います。

 今回は非常にわかりやすい掛け合いでの芝居だったけど、次に高橋さんを撮るとしたら、たとえば孤独をまとっている人とか、何もしないでいる彼を撮りたい。今回やって、そう思わせてくれました。

 高橋さん:僕もずっと、監督が今おっしゃったようなことを考えてテレビをやってきた人間。演技をいかに捨てられるかと、35歳を超えたあたりから考えるようになってきて。(高橋さんが出演していたTBS系の火曜ドラマ)「カルテット」も、想像させる余地がたくさん入っていると思う。みなさんが面白いって言ってくれたのは、きっとその余白があったから。何かをしようとしない俳優たちが、ただそこにいただけだから、想像させることができたんだと思う。

 演技という言葉が僕は本当に嫌いで、なんとか演技をせずに、“芝の上に居る”だけをしたいんですよ。だけどそれを分かってくれる人がなかなかいなくて……。だから今、何も示し合わせていないのに、大友さんが「孤独を背負っているだけの高橋一生が見たい」と言ってくれて、うれしくてゾクゾクしました。情報がたくさんあっても、あえて何もしないことがこれから大事になっていくような気がするんです。いま大河ドラマ(NHKの「おんな城主 直虎」で小野政次役を)やらせていただいているけど、その点をすごく心がけています。今まではテクニカルなことを考えてきたんですけど、今は(テクニカルな考え方を)捨てたくて捨てたくて。もしかしたらすごく大きな賭けかもしれないですけど。

 ◇対局シーンを見て「これ、すごいかもしれない」

 ――高橋さんは将棋ファンの先生役ですが、将棋への思いに変化は?

 高橋さん:テレビで対局しているのを見ていて、この人たちの脳内とか心の動きってどうなっているんだろう、と思ったことがあって。林田が中継を見ているシーンがあるんですけど、大友さんがおっしゃっているように、じっとしている画(え)に、ものすごい躍動が見えるんですよ。これどうしたらいいんだみたいな思いが、演じている俳優からにじむんです。それを見た瞬間に「これ、すごいかもしれない」って。内在する躍動みたいなものを、大友さんは見事に切り取っているんだと断片的な映像で分かって、これってすごい戦いなんだな、と。(大友監督が手がけた)「(るろうに)剣心」とは違う、別の躍動みたいなものを感じました。

 ――お二人が、一貫して考え続けてきたことは?

 大友監督:僕自身、組織を離れた人間ということもあるけど、二本足で立っている人が好きなんです。自分の足で立とうとしている人が好き。できる限り、登場人物みんながそういう人でありたいなと思っています。寄り添って生きるとか、そういうのが嫌いで、どこかで個人であるということが価値だと思っているんですよね。

 高橋さん:僕も監督がおっしゃっているみたいに、寄り添って、というのが嫌いな人間で、結果的に寄り添ったという形が美しいと思っているんです。何が大事かって「個人であること」だと僕も思うので、個人で居続けようとは思っています。

 <プロフィル>

 たかはし・いっせい。1980年12月生まれ、東京都出身。「信長協奏曲」「民王」「カルテット」など多数のテレビドラマに出演。現在はNHKの大河ドラマ「おんな城主 直虎」に小野政次役で出演中。

 おおとも・けいし。1966年生まれ、岩手県出身。慶應義塾大学法学部卒。90年、NHK入局。97年から2年間米ロサンゼルスに留学し、ハリウッドで脚本や映像演出を学ぶ。帰国後、連続テレビ小説「ちゅらさん」シリーズ、「ハゲタカ」「白洲次郎」、大河ドラマ「龍馬伝」などの演出を担当。映画「ハゲタカ」(2009年)では監督を務めた。ギャラクシー賞、芸術祭優秀賞など受賞歴多数。11年4月、NHKを退局。12年公開の「るろうに剣心」は、興収30億円を超すヒット作となった。

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