耐熱ガラスメーカーのHARIOが制作した世界初のガラス製演奏用クラシックギターが29日、東京都内でお披露目された。監修を務めたギタリストの村治佳織さんが、その音色を初披露。ガラス製ギターは、総制作費約1000万円、10人の職人の手で11年9月から12年10月まで、約1年間をかけて制作された。ボディーが耐熱ガラス、ネックがアクリルでできており、19世紀のクラシックギターをモデルに、大きさは通常より小ぶりの長さ1メートル、幅28センチで、重量は約3.7キロ(通常のクラシックギターの平均は約1.6キロ)。
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ギターは、11年3月の東日本大震災の被害を受け、稼働を休止していた茨城県古河市にある同社の工場のガラス窯が復活したことを記念して制作。同社の村上達夫専務は、震災について「長期の停電でガラス窯が冷え切って消滅。人でいえば心臓が止まるとの同じことだった」と被害の状況を説明し、「こんなに短期間で復興できたのは、技術者や職人の努力の積み重ねがあったから。復活して初めて作ったギターは、希望の音がした」と喜びを語った。
音色を初披露した演奏会では、村治さんによる「禁じられた遊び」「カヴァティーナ」のギター演奏のほか、楽器の制作過程や担当者の開発秘話などを紹介。村上専務は、ガラスの本体をいくつも作って響きのいいものを選ぶのに、100本くらい壊したといい、「完成したのは予備を入れて2本です」と明かした。さらに「バイオリンやチェロは指で音程を調整できるが、ギターは音程が安定しないといけない。最初に完成したものから、村治さんとの微調整がさらに数カ月ありました」とギターならではの苦労を語った。
「最初の段階からかかわって、とうとう完成の日がきた」と喜んだ村治さんは、ギターについて「子供のころに弾いていたちょっと小さいサイズの懐かしい感じ。古楽なんかもいいんじゃないかと思います」と演奏した感想を語り、音色については「やや抑えめな感じですが(音の)伸びがいい。もともとの音質は硬質な感じで素朴感がある」と説明した。演奏は「柔らかめに聴こえるように調節します。あと、重さが普通の3倍くらいあるので腹筋を使って。持っていると足がしびれちゃう……」と苦労を明かした。
HARIOは、今年9月にハリオグラスから社名変更。「耐熱ガラスにこだわるが、とらわれない」をコンセプトに総合家庭用品メーカーに生まれ変わった。ガラスの楽器は、ガラス製品の可能性や芸術性を高める目的で、03年以降から制作しており、これまでは、世界初のガラスのバイオリン、チェロ、ビオラ、世界初で最大のガラス楽器となった琴、日本伝統和楽器の尺八や笛・太鼓などを制作しており、今回のギターは10年以来約2年ぶり、12作目。ギターの今後の展示・販売については未定だが、村上専務は「震災復興の記念でもあるので、要望があれば希望の音を聴かせたい」、村治さんも「聴きたいといってくださるなら、ギターと一緒に旅してみたい」と前向きに語っている。(毎日新聞デジタル)
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