ゲーム業界展望:WiiU発売 コンプガチャ問題振り返る エンターブレイン浜村社長語る

エンターブレインの浜村弘一社長
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エンターブレインの浜村弘一社長

 任天堂の新型ゲーム機「WiiU」の登場や、ソーシャルゲームのコンプガチャ問題、スマートフォン向けのアプリ「ネイティブアプリ」のヒットなど、激動の1年だった12年のゲーム業界。ゲーム出版大手「エンターブレイン」の浜村弘一社長に聞いた。(毎日新聞デジタル)

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 −−印象に残ったことは。

 毎年激動ですが、特に12年は濃縮された年で、数年分の出来事がまとめて来ました。ソーシャルゲームの大きな市場ができると思いきや、コンプガチャ問題で市場が混乱しました。一方で「パズル&ドラゴンズ(パズドラ)」や「おさわり探偵 なめこ大繁殖」などネイティブアプリのヒットも生まれています。そして任天堂の「WiiU」も登場しました。

 −−そのWiiUですが、6年前に発売されたWiiと比べてどうでしょうか?

 (Wiiと比べると初週の販売)台数は若干減りましたが、ほぼ同じレベルです。ゲーム機としては、振り切った面白い商品だと思います。特に最初からゲーム機に搭載されている「Miiverse(ミーバース)」は、絵を描いたり、メッセージを出したり、注目です。今まで(のゲーム機は)ゆるやかにつながっていたのですが、WiiUはソーシャル、ネットワークが前提のゲーム機になっています。今回は1人で遊んでいていも1人でやっている感じがしません。

 −−SCEとマイクロソフト(MS)が13年に次世代ゲーム機を出すという話が、ゲーム業界で持ち上がっています。

 米国、欧州の市場でもゲーム機の売り上げが落ち着いています。任天堂も新型ゲーム機を出しましたからね。13年になれば何かの動きが出ると思います。

 −−12年のソフトをみると3DS用ソフト「とびだせ どうぶつの森」が人気となり、発売から2週間でミリオンを突破しました。

 独り勝ちの状況ですね。ブランドのイメージも良く、DS版「おいでよ どうぶつの森」も最終的に500万本以上を売ったから、(ミリオンの)数字にも驚きはありません。他のコアゲーマー向けのソフトだと、2、3週間で売り上げは落ちますが、「どうぶつの森」はファミリー層に売れるソフトなのでクリスマスシーズンでさらに売り上げを伸ばすでしょう。ただバイラル(口コミで広がる宣伝効果)で人を呼ぶし、ゆるやかに人とつながるゲームでもあるので、売れ筋が一極集中になります。

 −−ソフトの「勝ち組」「負け組」がはっきりすると。

 「どうぶつの森」は、つながって遊ぶ傾向はありますが、1日中遊ぶゲームではないから、他のゲームが入り込む時間もあるのですが……。後は消費者のお財布の相談になるので、(不景気の)影響があるのかもしれません。

 −−12年話題になったオンライン専用ゲーム「ドラゴンクエスト(ドラクエ)10」はいかがですか。

 遊べば面白く、むしろ現在はプレーヤーが遊びすぎてコンテンツ不足になっているぐらいです。(02年にサービスを始めたPS2用のオンライン専用ゲーム)FF11も序盤は、「レベル上げしかやることない」と同じことを言っていましたね。

 −−その「ドラクエ10」ですが、多くのメディアで前作「9」と売り上げの比較がされました。

 「ドラクエ10」は、オンラインゲームの利用料である月(30日)1000円を払う人が何十万人いて、1年間やればソフト2本を買ったのと同じ売り上げになります。さらにいえばオンラインをやりながら、新しい「ドラクエ」が出る可能性もあるわけで、総合的には収益力のあるビジネスになっているといえます。いずれにしてもゲームが変わったという印象は受けますね。

−−ゲーム業界が変革している?

 そうですね。「モンスターハンター」もソフトが出て、オンラインゲームの「フロンティア」も継続していて、アプリゲームもあるなど、コンテンツがいろいろな形で出ています。この展開で新規のユーザーも増えているわけで、ゲーム業界の産業構造が変わりましたね。

 −−ソーシャルゲームは、大きな変革期を迎えました。

 普通なら3~5年かけて起きることが1年で起きました。ブームが来て、コンプガチャの問題が指摘されて業界が冷え込み、そしてワールドワイドのプラットフォームになって海外進出が始まりました。

 −−ソーシャルゲームでは、続編が多い家庭用ゲーム機のソフトと異なり、新規タイトルが次々と出るなど元気があるように見えます。

 ソーシャルの方が開発しやすいので当然ですが、WiiUの「Miiverse」のように家庭用ゲーム機でも新しい動きはあります。さらに言うならば、今はもうソーシャルゲームと家庭用ゲーム機を分けて考えないほうがいいでしょう。メーカーは、IPによってプラットフォームを変えて勝負をしていると思っています。

 −−ソーシャルゲームにはまだ可能性がありますか。

 ありますね。エイチーム(名古屋市)が制作したソーシャルゲーム「ダークサマナー」が100万ダウンロードを突破するなど、アプリドリームは起きていて、大手ゲーム会社でなくても勝負できる市場になっています。

 −−12年に世間をにぎわせたコンプガチャの問題は?

 コンプガチャのシステム自体は家庭用ゲーム機のソフトでもあり、ましてや全部のソーシャルゲームがダメだったわけではないと思います。しかし、やはりやりすぎたということでしょう。20万円を突っ込んでカードを集めるのは、一般常識から考えても変だったということですね。結果として、全部のソーシャルゲームが影響を受けました。

 −−悪影響は残るでしょうか。

 今は落ち着きました。そういえば、昔にゲームセンターが好調だった時期、「不良の巣窟」とよばれた時代があって、その後世間の批判にさらされて「風営法」で縛られましたが、それに近いことがソーシャルゲームで起きたということです。いずれにしても、コンプガチャ以降はゲーム内容も変わりましたし、これが一つの節目になったのは間違いありません。収益は、他の稼ぎ方はあるので問題ないのですが、「ソーシャルゲームが悪いもの」というイメージダウンは大きく、多くの子供たちが離れたのは痛いと思います。

 −−ですが、フジテレビやヤマダ電機も参入しています。

 NTTドコモも参入したように、業界の構図が変わりました。また大手だけでなく、地方でコツコツとゲームを作っていたら世界で勝負できるような新規の会社も登場しています。ある意味、(80年代に)家庭用ゲーム機の市場が勃興したときよりもダイナミックかもしれません。

 −−海外で日本のゲームが売れず、開発向けの賞も取れなくなっていますね。

 日本のクリエーターは海外から尊敬されているが、残念ながら「昔の人」というイメージになりつつあるのは事実です。日本の市場がソーシャルゲームに変わっていることもあるも関係していますが……。

 −−ゲーム会社の方向性もずいぶん変わりました。

 カプコンはパッケージゲーム、セガはスマートフォンやPCを大事にしていて、バンダイナムコはIPを軸にしています。それぞれ(商売を)張っている場所が違っているのです。昔ならば「任天堂とソニーのどちらに張るか」でしたから。今は、ソフトメーカーの戦略が問われる時代でもあります。

 −−ゲーム機だけでなく、アマゾンの「キンドル」や、楽天の「kobo」など電子書籍端末もあり、それらがゲーム機の代わりになる可能性もありますね。

 マンガも映画もゲームも、あらゆるコンテンツが同じ軸で競争しているのが現状です。ゲーム業界にとって、裾野が広がるメリットもありますが、ソフトの価格が安くせざるを得ないデメリットもあります。これまで数千円のパッケージが、スマートフォンだと1000円程度になるのですから、売る側は大変でしょうね。

 −−最後に13年のゲーム業界の展望をお願いします。

 やはり「モンスターハンター」シリーズの新作が出ることでしょうか。そして、IPごとに複数のゲーム機で遊べる「クロスプラットフォーム」が進むので、ビッグタイトルの移籍ということはなくなりますね。もう一つは、クラウドゲームがいよいよ始まることでしょうか。ITのサービスもクラウドに向かっていますから、ゲームもそうなりますね。12年は大変革で濃縮した年でしたが、13年はそれ以上かもしれません。

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