稲川淳二:“こわい話”誕生秘話 怪談には「つきまとわれるような怖さがある」

怪談話の第一人者、稲川淳二さん
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怪談話の第一人者、稲川淳二さん

 夏の風物詩となった稲川淳二さんの怪談話。その「超こわい話」シリーズの新作が、11年ぶりにテレビ放送されるほか、22年目となる怪談全国ツアーも開催される。この季節にぴったりの“怖い話”について、その第一人者である稲川さんに話を聞いた。

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 ◇怪談は想像できる人は怖い

 −−最初に怖い話をすることになったきっかけは?

 もう40年も前、ラジオで話したのが最初でした。でもそのときは、レギュラーでやろうなんて思ってなくて、たまたま自分の番組の中でやっていただけなんです。まさか、それを商売にしようなんて思ってもいなかったですよね。

 −−ラジオだと余計に怖かったでしょうね。

 怪談を怖がれる人は、絵が見えて状況が想像できるから怖いんですね。そういう感性を持っている人は、特に怖いでしょうね。怪談は、自分で想像して、気づくから怖い。たとえば暗闇に立って、5分はいられるけど、10分たつとだんだん不安になってくる。「ちょっと待てよ、何かいるんじゃないか?」って、思った瞬間から怖い。そういう、人間の心理を突くようなところがある。これまで21年も怪談ツアーに来てくれている方の中には、においまで想像できる人がいるくらいですからね。DVDも、みなさん同じ話を何度見ても怖いという。もうオチまで分かっているのにね。それは、どうしても絵を浮かべてしまうからなんですね。

 ◇怪談は古くからの教えなどもあった

 −−そもそも怪談とは? 稲川さん流の定義のようなものがあるのでしょうか。

 怪談は、昔からよくある、おかしな話や不思議な話の一つで、日本の文化や生活の中から生まれるものなんです。ホラーのような襲ってくる恐怖とは違い、つきまとわれるような怖さがあり、でもそこには、人の思いもあります。例えば、東北なんかにいくと、冬の季節は両親が遠くに出稼ぎにいって、家には孫(子ども)とお年寄りだけ。雪深くて、なかなか外に出られないので、おじいさんが北国に伝わる怖い話を孫に聞かせたりしていた。わりと、そうやって語り継がれてきたものも多いです。

 −−庶民的な娯楽だったということでしょうか。

 そうそう。その中には、言い伝えや、古くからの教えなんかもあった。例えば「カラスが鳴くから帰ろ」って歌があるでしょ。あれは、早く帰らないとカッパに足を引っ張られるという歌なんだけど……。これは、実際に多くのお年寄りから聞いた話ですがね。昼間は人間の子どもが遊んで、夕方からはカッパが遊ぶんですよ。でもそのカッパというのは、実は障害があったりする子どもで、地域の人が、そういう子どもにも遊ぶ時間を作ってあげていたっていうこと。あとね、昔は“口減らし”というのがあって、生活が苦しくて面倒を見られないから、生まれた子どもを川に流していた。カッパを漢字で「河童」と書くのは、そういうことなんです。それにそういう子は、お墓もないから、お盆の時期に大人がキュウリをもぎって川岸にお供えしていた。それを知らない人が見て、「ああ、河童はキュウリが好物なんだ」って。まあ、いろいろ調べたり、聞いた話なんかをまとめていくと、そういうことだったんじゃないかなって思うんですよね。

 −−そういうお話は、どのように収集されているのですか?

 いろいろな土地に行って、聞いたり見たりしたものをまとめていくんです。でもそれをすぐに話すのではない。しばらくすると、近くの地域でまた似たような話を聞くことがあって。その二つが、ピタッと合うことがあるんです。地面から何かの破片を拾って、少しずつ集まっていって、どうやらツボのようだって分かっていくみたいな感覚でしょうかね。昨年のツアーまでの21年で、私が紹介したのは400話とちょっとあるんですが、人から聞いたままお話しできるようなものは、せいぜい4話くらいかなと思いますね。

 ◇不思議な体験を引き寄せることも

 −−不思議な体験することも多いそうですが。

 そんなにたくさんあるわけではないですが、たとえば殺人事件で亡くなったり心中された方を発見してしまったとか、遺留品を発見したりとかありますね。警察の方にいわれましたよ、「稲川さん、こんなにしょっちゅう発見するなんて、あんた普通じゃないよ」って。昔はね、テレビでリポーターやなんかもやっていたので、いろんなお宅におじゃまさせていただいた。あるとき、すごく話が盛り上がって、ご飯までごちそうになったご夫婦がいたんですが、実はそれが殺人犯だったなんてことも。人を殺したあと、私とご飯を食べて、そのあとまた殺してたって。あとで警察に聞いて、ゾッとしましたよ。

 −−何か引き寄せるものがあるみたいですね。

 不思議なこともありますよね。あるとき少し具合が悪くなって、乗る予定だった飛行機をキャンセルしたら命拾いしたとか。乗った漁船が貨物船とぶつかりそうになって、運よく助かっただとか。3歳のころ、駅のホームから落ちて、ギリギリで電車が止まって助かったとか、命拾いしていることも、たくさんあります。でもそれを考えると、ただ生きているのでは申し訳ないなって。何かしなくちゃいけないなって思いますけどね。

 −−では最後に、番組を見てくれる方、ツアーに来てくれる方へメッセージをお願いします。

 怪談というのは、見ればだんだん、聞けばだんだん、面白さが分かって深みにハマっていくもの。「なんだ、全然怖くねえじゃん」と思っても、夜一人になってごらんなさい。だんだん怖くなってきますから。ツアーの方は、ただ怖いだけじゃありません。一番の魅力は、怪談ならではの深い癒やしのようなものがあるところ。どこか懐かしいような気がする。やっぱり日本人なんだなと感じると思います。今年は、すごく怖い話、悲しい話、事件っぽい話もあります。35年前に私と一緒に舞台をやった人が、久しぶりに電話をしてきて、ある一つの事実が分かったんですが……。この話も、怖いですよ。

 日本人はふるさとって聞くと、どんな都会育ちの人でも、山間の村を想像する。そういうものが、日本人の中にあるんですね。だから私がやっている怪談は、そういうふるさとのようなものにしたいと思っています。夏になったら、稲川の怪談を聞きに行こうって。そんなね、夕涼みにくるような、気楽な気持ちで会場にお越しください。お待ちしております。

 <プロフィル>

 1947年8月21日生まれ、東京都出身。桑沢デザイン研究所を卒業後、工業デザイナーとして活躍。一級建築士の資格も持ち、店舗設計や空間デザインも手がけ、2008年には通産省選定のグッドデザイン賞を受賞している。一方で、タレントとしてワイドショーやバラエティー番組などに数多く出演。怪談・ホラーブームの火付け役として活躍。1992年から「怪談ナイトツアー」を開催。

 稲川淳二の怪談ナイト「ミステリーナイトツアー2014~今年もあいつがやって来る~」7月26日三郷市文化会館を皮切りに、10月24日のCLUB CITTA’まで36公演を開催。8月12日には「音霊SEA STUDIO」、8月16日には「SUMMER SONIC 2014」でも開催する。また、「稲川淳二の超こわい話2014 DVD−BOX」が発売中。DVD「稲川淳二の超こわい話 特別怪演」は7月25日発売。

 (インタビュー・文・撮影:榑林史章)

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