連載企画 プリティーシリーズ秘話:第3回 「プリパラ」 オンデマンドプリントで自分らしさを 森脇監督はぶっ飛んでいるようで…

「プリパラ」のビジュアル
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 タカラトミーアーツの女児向けアミューズメントゲームから生まれた「プリティーシリーズ」が今年、10周年を迎え、テレビアニメが9年目に突入した。誕生時からシリーズをプロデュースしてきたタカラトミーアーツの大庭晋一郎さん、シンソフィアの加藤大典さん、タツノコプロの依田健さんが、これまでの歩みを振り返る連載企画「プリティーシリーズ秘話」。第3回は、2014年7月~2017年3月放送の「プリパラ」の制作の裏側に迫る。

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 ◇自分だけの世界で一枚のチケットを

 --「プリティーリズム」シリーズと「プリパラ」ではゲーム、アニメ共に大きく変わりました。

 大庭さん 「プリティーリズム・レインボーライブ」の時点でアミューズメントゲーム筐体(きょうたい)の耐用年数を考えると、新しいものを作らないといけなかったんです。筐体を新しくする時、アニメも新しいものにしたい。筐体の特性を生かしたアニメにして、連動させないといけません。「レインボーライブ」を作りながら、新しい遊びをどうやって発明するかを考えていました。カードゲームに変化があった時期でもありました。先駆者として(コナミアミューズメントのカードゲーム)「オレカバトル(モンスター烈伝 オレカバトル)」があり、今後のトレンドは、筐体でカードをプリントして、毎回違うカードが出てくるオンデマンドになると考えていました。

 --「プリパラ」はプリチケという縦長のカードを使用します。マイチケとトモチケを上下に切り離せるところが斬新でした。

 大庭さん プリチケがあのサイズになったのは、プリンターの仕組みと印画紙のサイズが関係しているんです。

 加藤さん 横長のロール紙を横から切るとあのサイズになるんです。

 大庭さん 縦長になるので、既存のカードサイズに近づけるために、ミシン目を入れて、上の部分を切り離せるようにしました。それを名刺を交換するように交換する遊びを考えたのです。交換するチケットは、その子の分身です。人に渡すもので、デコったり、サインを入れることができます。デジタルな遊びだけど、アナログな要素を入れることができます。そうすればお店のゲーム筐体がコミュニケーションや情報発信の場になると思ったのです。

 加藤さん 本当に交換してくれるのかな?と思っていましたが、みんながやってくれたことがうれしかったですね。

 --カードで自分らしさを表現できます。

 大庭さん 自分だけの世界で一枚だけのチケットを作ることができます。カメラで写真を撮影できるようにもしました。プリントシールのようなチケットが100円でできるのもポイントでした。

 ◇森脇真琴監督の起用理由

 --アニメも人気になりました。ゲームとの連動は?

 依田さん 「プリパラ」は、早い段階からゲームとアニメの企画を一緒に詰めていました。「レインボーライブ」はアニメが先行の部分もありましたが。

 大庭さん アニメとゲームのCGをできるだけ近づけようとしました。アニメとゲームの映像がほぼ同じニュアンスになっているはずです。

 --森脇真琴監督を起用した経緯は?

 依田さん 「プリティーリズム」を手がけた菱田(正和)さんは、作家性の強い監督でしたが、その個性に負けない、全く新しいものにしたかったんです。女性の監督で、女性の感性を入れたかった。「プリティーリズム」で、CGのライブシーンと作画で見せるというフォーマット、器ができていたので、器に入れるものをがらりと変えたかったんです。「プリパラ」は、森脇さんのこだわりが、よい形になりました。女の子だけで構成されている世界、独特の世界観を作っていただけました。ぶっ飛んではいますが。

 加藤さん 森脇さんに、ライブの構造をよく質問されたのが印象的でした。ゲームでは、キャラクターがステージに行くまでの手順を説明していないので、建物の構造、例えば入り口のイメージ、何階で着替えるのか? どうやってエレベーターに乗って、ステージに行くのか?などを質問されました。街並みの外観、大きさ、距離も。そういう設計図を考えていなかったんですよね(笑い)。質問される度に考えていました。ゲームでは考えない設定も必要だと勉強になりました。

 依田さん 森脇さんは演出がぶっ飛んでいるので、誤解されるが方もいるかもしれませんが、実は基本を大切にされるんです。シナリオもそうなんですよ。理詰めで考えている。緻密に構築するけれど、その上で、面白ければ、ぶっ飛ばしてもいい、という思い切りがある。基礎がしっかりしていないとブレますからね。

 大庭さん 監督から「プリパラの中でアイドルのライブを見ている子は誰?」という質問もありました。ライブを見ているのも子供、プレーヤー、アイドルでプリパラの世界に遊びに来ている。マイキャラ(プレーヤーが作るキャラクター)をお手本にして、アニメでライブを見ているキャラクターとして登場させることになりました。だから、観客もアイドル衣装を着ているんです。もしかしたら、自分のマイキャラに似ている子がアニメの中にいるかもしれない。「プリパラ」は、らぁらの物語ですが、みんなにあの場所を好きになってもらいたかったんです。

 --「タイムボカン」シリーズのようなタツノコらしいワチャワチャ感も魅力です。

 依田さん こちらでお願いしているわけではないのですが、タツノコに来てくださる監督は「せっかくだからタツノコっぽくしたい」とおっしゃってくれることがあるんですよ。

 ◇あろま、ガァルル誕生秘話

 --2年目に突入し、ゲームに新要素が加わりました。

 大庭さん ゲームは、3人チームを5人にして、チケット(カード)を大きくしました。

 --ドリームチケットですね。サイズが2倍ですが200円します。

 大庭さん 200円の価値をしっかり作りたかったんです。3回に1回、特別なステージ、ドリームシアターの扉が開く。特別感を出そうとしました。

 加藤 最初は毎回、扉が開いていたのですが、3回に1回という仕様を決めたのがギリギリだったんです。4月稼働だけど、3月末に仕様を変えました。ドリームチケットにドリームシアター、ドリームチーム……。ドリームドリームしていましたね(笑い)。ステージを円形にしたり、ダンスも演技っぽくしたり。

 大庭さん アンフィ(舞浜アンフィシアター)に円形ステージがありますが、ドリームステージを考えていた時は、アンフィを知らなかったんですよね。

 加藤さん そうそう。アンフィを見て、これはドリームシアターだ!!となった(笑い)。

 --アニメは2年目でキャラクターも増えました。

 大庭さん 2年目はコンセプチャルなアイドルを考えていました。アイドルライブイベントを見に行った時に、椎名ぴかりん(椎名ひかりさん)を見て、いいよね!!となったんです。それがきっかけになって、あろまのイメージができました。

 加藤さん 大庭さんが「悪魔がいい!」って話をしたんですよね。相棒は天使のみかん。名前がみかんってすごいなあ……(笑い)。

 依田さん ミカエルの“みか”なんですよね。

 大庭さん 森脇さんにあろま、みかんの説明をした時、森脇さんがマンガを描いてくれました。

 依田さん あろま、みかんが学校で何をやっているかを描いたマンガですね。あろまは、難しいキャラクターです。序盤は、周囲を引っかき回すので、嫌な子に見えるかもしれない。なので、純粋で、子供のいたずら感覚でやっている……と加減を考えながら作っていました。

 --個性的なキャラクターが続々と登場しました。

 大庭さん ふわり、ひびきも登場します。ふわりは最初、エスニック風だったんです。

 加藤さん エスニック風がしっくりこなかったんですよね。その後、トロピカル風になって、北欧っぽくなった。

 --ガァルルも子供に人気でした。

 加藤さん ゲームは1年間のプランを組み、この時期にこのキャラクターが登場する……と考えているのですが、2月にキャラクターが一人足りなかったんです。予算もない。じゃあ、ファルルのモデリングを流用するか!というのが始まりです。

 大庭さん ドロシー、レオナも元々一人だけど、モデリングを流用して双子にして、二人になった。そういう経緯もありました。ファルルのモデリングがよかったので、妹を作ろうとしたんです。ただ、アニメで2月に急に出てきても受け入れてもらえないので、少しずつ成長しながら、2月にアイドルデビューするようなプランを考えました。森脇さんには、バグでミニファルルが生まれて、その中に一人だけガァルルがいる、怪獣になりたい女の子、と説明しました。2年目は、らぁらたちが成長して、ある程度は立派になっていますし、その中でゼロベースの女の子を入れたかったんです。僕のイメージは6人くらいの姉妹の一人だったのですが……。

 依田さん 6人じゃなくてたくさん出てきましたね。アニメを作る方は大変でした(笑い)。

 大庭さん ガァルルは半年かけて成長させました。結果として愛情を持って迎えられたと思います。

 依田さん ちゃんと扱いたくなるキャラクターなんです。“天才VS努力”のストーリーにもうまく絡めることができましたし。

 ◇らぁらは中学生にならない

 --「プリパラ」は、3年目に突入します。長いシリーズになってきました。

 大庭さん 3年目は、筐体の耐用年数もあるので、締めの年と考えていました。神アイドルのストーリーに決着を付けようとしました。一方で、筐体が優秀で故障が少なかったかったんです。ここで終わってもいいものにしたかったし、ずっと続けられるものにもしたかった。

 依田さん 3年目は、らぁらが年を取らない。1年目は小学5年生で、2年目は小学6年生ですが、中学生にはしませんでした。

 大庭さん 2年目にらぁらは、ひびきとぶつかって、すごいアイドルになりました。3年目はすごいアイドルの状態で始まります。でも、子供が自分の目線で見られるのかな?と考えていました。中学生にしてしまうと、見ている子供と乖離(かいり)してしまいます。ここは、いつものらぁらのままに、さらにゼロから新しい経験をさせることが必要だと思い、定番でもある赤ちゃんを育てる話にしたんです。

 加藤さん 4年に一度の神アイドルグランプリも開催されます。神アイドル、ステージを考えるのが楽しかったですね。ステージを盛って盛って、後光が差すようにしようとしていました。後光の研究に、日光東照宮に行ったんですよ。工事中だったんですけど(笑い)。そういうこだわりがありました。

 依田さん キャラが大分増えましたよね。森脇さんは新キャラが出ても、旧キャラを大事にするんです。キャラが増えたけど、みんな描こうとする。これ以上増えるのは大変でした。アフレコのブースにも声優が収まらなくなってきましたし。

 --のんの活躍も見どころでした。じゅのん、ぴのん、かのんの一人三役を演じていたという設定にも驚かされました。

 大庭さん じゅのん、ぴのん、かのんは、デザイン案として3つあったものが全部よかったので、3つ全て採用したんです。演出的にも面白いものになりました。(のん役の声優の)田中美海さんは大変だったと思いますが……。

 --女神のジュリィ、妹のジャニスも登場します。

 大庭さん ジャニスを考えたのは、森脇さんです。

 依田さん ジャニスはジュリィの別人格などいろいろなアイデアがありました、

 加藤さん ジュリィのモデリングを流用できるし、予算がかからないので大丈夫だと思っていたんですけど、いろいろとお金がかかってしまった……。

 大庭さん モデリングを流用するローカロリーシステムは、実は成功したことがないんです。ガァルルも顔を変えましたし、結局、ローカロリーにはならなかったですね(笑い)。

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