化物語:大暮維人のキャラはなぜ美しいのか? “美しい”は実は没個性!?

「化物語」のイラスト
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「化物語」のイラスト

 西尾維新さんの人気小説「<物語>シリーズ」の「化物語」のコミカライズが、「週刊少年マガジン」(講談社)で連載されている。「<物語>シリーズ」は、阿良々木暦ら少年少女と怪異にまつわるドラマを描いた小説で、アニメ版も人気を集めている。コミカライズを手がけるのは「エア・ギア」「天上天下」などの人気マンガ家の大暮維人さんだ。大暮さんはとにかく画力が高いマンガ家だ。大暮さんの描くキャラクターは美しい。女性キャラクターが可愛い。美しさの説明は難しいが「なぜそんなに美しいの?」と聞いてみた。

ウナギノボリ

 ◇人がひかれるのはアンバランスな部分

 「なぜそんなに美しいの?」という質問に「実は同じような質問はよくされるのですが、説明が難しい。いつもどう言えばいいのか悩みます」と語る大暮さん。

 「モンタージュってあるでしょう? 犯罪捜査とかに使われるアレです。アレを使って、顔のレイヤーを薄くして100枚、200枚と重ねていく。すると個体の持つ特徴がだんだん相殺、中和され、500枚目くらいでなんの個性もない顔が出てくる。これは性別、人種、国籍をランダムに混ぜても同じなんだそうです。人類の“真ん中の顔”ですね。しかし、それを見た人間は“普通だな”とは思わない。僕が見てそうでした。そして『めっちゃイケメンだな』と感じました。理屈で言えば当然のことで、いわゆる“整った顔”というやつですね。つまり“美しい”というのは実は没個性なんでしょう。目がキレイとか、鼻が高いとか、特徴的で突出しているのとはむしろ真逆で、結局はバランスが取れてるものに人間は美を感じているわけです。その“中庸なバランスのいい顔”を描けるようになっておく、というのがすべての基本です。顔や肉体だけでなく性格もそうですね」

 ただバランスが取れていればいいわけでもない。「それはただのマネキンでしかない。中庸なものに美しさを感じたからといって、心がひかれるかと言えばそれはまた別。むしろ、人が人にひかれるのはアンバランスで特徴的な部分です」とも話す。

 「<物語>シリーズ」はアニメ化もされているが、マンガ「化物語」では、戦場ヶ原ひたぎ、羽川翼らキャラクターがマンガならではの魅力を放っている。戦場ヶ原、羽川の造形について説明してもらった。

 「例えば羽川は“ほかのキャラより胸が大きい”というアイコンだけでなく、若干ふくよかで丸みがあり太ももがむっちりしてより“女性的”な特徴を備えている。骨の上に薄く肉が全方位ついているややだらしない体のイメージですね(顔以外)。一番の興味が自分の容姿以外の場所にあるという体として描いています。一方で戦場ヶ原は体の厚みがなくて手足がすらりと長く、肩や骨盤が皮膚の真下にあってなんとなく角ばっている。経済的な貧しさやプライドの高さがその体に表れているわけです」

 ◇“念じなければ絶対に可愛い女の子にはならない

 キャラクターを見るだけで、確かに育ってきた環境、性格などが分かる。さらに踏み込んで“美”についても聞いた。

 「外面は内面の鏡で、お尻の垂れ方一つでも生活や年齢、性格まで表出してしまいます。それらの特徴が魅力的に見えるか、というとそれは人によるのだとは思います。好みに合わなければ時に醜いと感じる場合すらあるので。でも、それがいい!的な。そんな気持ちで描いてます。誰かにとっての欠点は誰かにとっての美点ですから。普遍的な美はあると思いますが、普遍的な好みはないのでしょう。そういう描き分けをやろうとすると、目を鍛えるしかないわけですけど、結局は“女の子をより女の子らしく描く”ということに尽きるのかな。今の時代にはなかなか声を大にしては言いにくいというか、そんな“女らしさ”なんて男が勝手に決めつけているだけって、よく耳にしますけど、実際その通りで、めちゃくちゃ男目線。ただの男の勝手な理想像ですよね(笑い)」

 大暮さんの描くキャラクターは緻密な分析、計算があるから美しいのかもしれない。

 一方で「不思議なもので“ここは柔らかく”とか“ここはカチッと”と念じながら描くと実際にそういう線になる。これは絵心のない人がやっても、誰でもそうなります。逆に言えば“可愛い女の子にしたい”と念じなければ絶対に可愛い女の子にはならない。そこが一番重要なんじゃないでしょうか」とも話す。一番重要なことは意外にシンプルなのかもしれない。

 「化物語」のコミカライズのコミックス第12巻が発売されたことを記念して、講談社のマンガアプリ「マガポケ」で第1~11巻が無料配信中。4月16日まで。

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