【推しの子】:「普通とは逆を行く」アニメのこだわり “盛り”で原作の感動を伝える 平牧大輔監督インタビュー

テレビアニメ「【推しの子】」の第2期の一場面(C)赤坂アカ×横槍メンゴ/集英社・【推しの子】製作委員会
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テレビアニメ「【推しの子】」の第2期の一場面(C)赤坂アカ×横槍メンゴ/集英社・【推しの子】製作委員会

 「週刊ヤングジャンプ」(集英社)で連載中のマンガが原作のテレビアニメ「【推しの子】」。2023年4~6月に放送され、大ヒットした第1期に続き、7月にスタートした第2期も大きな盛り上がりを見せ、キャラクターの心情を細やかに表現する高クオリティーの映像が話題になっている。第2期は、アクア、黒川あかね、有馬かならがマンガ原作の2.5次元舞台「東京ブレイド」に挑む姿が描かれ、アニメでどのように舞台が表現されるのか、毎話注目を集めている。第1期に続き、アニメを手がける平牧大輔監督に制作のこだわりを聞いた。

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 ◇原作の魅力をアニメに置き換える

 「【推しの子】」は、「かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~」の赤坂アカさん、「クズの本懐」などの横槍メンゴさんの豪華タッグが原作を手がける人気マンガで、「週刊ヤングジャンプ」で2020年4月に連載をスタートした。突然の死を遂げた天才アイドル・アイがのこした双子の兄妹の物語が描かれる。双子の妹・ルビーは母に憧れ芸能界に入り、兄・アクアはアイ殺害の協力者であろう実の父親への復讐(ふくしゅう)を誓う。

 平牧監督は原作の魅力を「業界外の方が知りたそうなネタを読みやすく、分かりやすく描いてるところ」と感じているという。

 「僕は、原作を読む時は、キャラクターがどういう動きをしているか、どういう表現をしているかというところを見ていますが、シリアスになりすぎずコメディーにしていたりするところが、うまいなという印象です。そこが読者の共感であったり、読みやすさ、わかりやすさにつながっていると思います。知らないことをちょっと匂わせて、見させてくれる」

 テレビアニメは、「ちいかわ」「私に天使が舞い降りた!」などで知られるアニメ制作会社・動画工房が制作し、第1期でも原作の繊細なタッチを再現した圧倒的なクオリティーの映像が話題になった。平牧監督が制作する上で大切にしていることは「原作の魅力を損なわないようにしたい」ということだという。

 「マンガをアニメ化する際、普通は誰でも描けるように線が多いところは省略する場合が多いのですが、キャラクターデザインの平山寛菜さんの『省略したくない』という意見もあり、原作の影や実線をちゃんと拾うようにしています。省略する部分もあるのですが、できるだけ原作のニュアンスを拾う。線の多さに関しては、僕がこれまで手がけた作品の中では最も多いのですが、大変だけどやる、という。だから、『【推しの子】』では、普通と逆のことをやっているんです」

 「普通と逆」ということでは、ほかのアニメと比べて色数が多いのも「【推しの子】」の特徴だという。

 「普通であれば、多色は『ここぞ』という時にしか使わないのですが、『【推しの子】』では『ここぞ』というところを増やしている。また、ただ場面で色を変えるのではなくて、キャラクターの照り返しの色にこだわっています。実写作品などで、照り返しの影の部分に別の色のライトを入れて印象的なシーンにするという手法があります。アニメでも『シティーハンター』の頃からやっているのですが、それを『【推しの子】』ではどうしようか?と考えながら作っています」

 線数、色数を増やすなど、“盛る”表現を意識しているという。

 「普通に作ったら、キャラクターの感情などマンガを読んだ時の印象を超えられないと思いました。もちろん、色や音がついてキャラクターが動くというのは、マンガにはないアニメの良さだと思うのですが、マンガは一コマ入魂で、見開きや大コマの演出ができる。アニメではできないところをどう置き換えるか。一番大切なのは、マンガを読んだ時の感情を、アニメでも同じように伝えることです。それが“アニメに置き換える”ということだと考えているので、そのためにいろいろなことをしています。もちろん、盛りすぎるとよくないので、どこを盛って、どこを盛らないかは、しっかりと打ち合わせをしています」

 ◇読後の感情を表現する“色” 助監督のセンス

 「【推しの子】」の“色”のこだわりは、スタッフィングにも表れている。第1期では、平牧監督いわく、「色に強い」という猫富ちゃおさんが助監督と共に「カラースクリプト」と呼ばれる色の統括を担当した。

 「色というのはやはりセンスなのですが、猫富さんは“センス極振り”の方なんです。色の部分は、ほかの作品であれば自分がやっていたことなのですが、『マンガを読んだ時の感情を変換する』という共通認識があれば、お任せできる。第1期の第1話でも、猫富さんのセンスが発揮されています」

 第2期では、“センス”の要素を増やすべく、助監督が2人体制となっている。第2期で猫富さんと共に助監督を務めるのが、第1期の第6話「エゴサーチ」の絵コンテ・演出を担当した仁科くにやすさん。「エゴサーチ」では、黒川あかねがネットの誹謗(ひぼう)中傷に追い詰められていく姿が生々しく描かれ、話題になった。

 「仁科くんは、過剰なほどにキャラの掘り下げができる。『エゴサーチ』でやっていただいたことを、第2期では全体に引き延ばす形で関わっていただいています。第2期の舞台稽古(げいこ)のシーンで、姫川大輝の演技に有馬かなが衝撃を受ける姿を、ペンキが顔にかかる描写で表現していますが、あれは仁科くんのセンスですね」

 ◇目の中の星はスター性の象徴 2.5次元舞台ならではの演出

 「【推しの子】」は、アイ、アクア、ルビーらキャラクターの目の中に“星”が描かれるのも印象的だ。平牧監督も原作を読み、「目に星がある!」と驚いたという。

 「原作の先生とお会いした時に、目の星は『スター性の象徴である』とおっしゃられていたので、それをアニメで置き換えるとどうなるかと考えた結果、今のような表現になっています。スター性のあるキャラクターだけ光るようにしていて、現状は、アイ、ルビー、アクア、かな、あかね、MEMちょの瞳は光る場合があります」

 アニメで描かれる目の星は、ハッとさせられるほどに美しく、インパクトがある。

 「それは撮影監督の手腕が光っていますね。僕からは『星が光って、その後ろにもキラキラが欲しいです』と伝えて、上がってきた画(え)にさらに追加でお願いをして、今の形になっています」

 アニメでは、さまざまな“盛り”で作品、キャラクターの魅力を表現している。第2期では、「舞台ならではの演出の良さ、360度回転するステージアラウンドの良さを表現する」ことを大切にしているという。

 「舞台が回転するので、舞台転換の方法ですとか、後ろにあるセットの色遣い、ライティングの変化に気をつけています。第1期では、アイドルのライブステージを描きましたが、舞台では、ライトの装置自体は同じでも、演出が違う。ストーリーをベースにライトも変化していきます」

 平牧監督は、「物語の本筋はキャラクターの心情や復讐劇」とした上で、第2期では「『東京ブレイド』のキャラクター性と、『【推しの子】』のキャラクターの心情がどう絡むか、どう成長していくかを見ていただけたらと思います」と語る。

 アニメで表現される2.5次元舞台「東京ブレイド」、アクアたちの戦いに注目したい。

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