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男性ホルモン合成酵素を強力に阻害する「WH23」を創製
2026年2月13日
岐阜大学
難治性乳がんの治療を目指す新たな候補化合物を創出 ~男性ホルモン合成酵素を強力に阻害する「WH23」を創製~
本研究のポイント
・救荒植物コウボウムギCarex Kobomugiに含まれるコボクロモンA(Kobochromone A, KC-A)をもとに、男性ホルモン(アンドロゲン)の合成に関わる酵素DHRS11※1を極めて強力に阻害する新規化合物「WH23」を開発しました。
・WH23は、がん細胞内でのアンドロゲン供給を止めるだけでなく、増殖の司令塔であるアンドロゲン受容体(AR)の発現自体も抑制するという「二重の作用メカニズム」を持つことを明らかにしました。
・既存の治療薬(AKT阻害剤カピバセルチブ※2)に対して耐性を持ったトリプルネガティブ乳がん(TNBC)細胞において、WH23を併用することで細胞死(アポトーシス)を誘導し、薬剤耐性を克服できる可能性を突き止めました。
研究概要
岐阜大学大学院連合創薬医療情報研究科の遠藤 智史 准教授、工藤 優大 博士研究員(日本学術振興会 特別研究員PD)らの研究グループは、岐阜薬科大学の五十里 彰 教授・吉野 雄太 講師・宮本 悠凛 学部生、坂 智文 大学院生(日本学術振興会 特別研究員DC1)、富山大学の豊岡 尚樹 教授・岡田 卓哉 准教授、北里大学の田中 信忠 教授、キングファイサル大学のMahmoud Kandeel 教授との共同研究で、トリプルネガティブ乳がん(TNBC)の中でも治療が困難とされるルミナル・アンドロゲン受容体(LAR)陽性サブタイプに対する新規治療薬候補化合物WH23を開発しました。
本研究は、乳がんにおける男性ホルモンの代謝酵素DHRS11に着目し、特異的阻害剤を開発した点に大きな意義があります。未知の部分が多いDHRS11の機能を解明する強力なツールとなるだけでなく、治療法の選択肢が限られていた患者さんに対し、病態に合わせた「個別化医療」を実現する新たな一手としても期待されます。
本研究成果は、現地時間2026年2月6日に、創薬化学の国際誌『European Journal of Medicinal Chemistry』のオンライン版で発表されました。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202602123996-O4-12V2G415】
研究背景
TNBCは、ホルモン療法やHER2標的療法といった標準的な治療が効かず、治療が難しい乳がんとして知られています。中でもLARサブタイプ(LAR TNBC)※3は、アンドロゲン受容体(AR)を介して増殖する特徴があります。
研究グループはこれまでに、アンドロゲン合成に関わる新しい酵素DHRS11を特定し、天然由来化合物KC-Aがこの酵素を阻害することを発見していました。本研究では、KC-Aの構造をさらに改良することで、より強力な治療効果を持つ化合物の開発に挑みました。
研究成果
1.強力なDHRS11阻害剤WH23の開発
23種類の誘導体を合成・評価した結果、最も強力な化合物「WH23」を同定しました。WH23は、従来報告されている阻害剤よりも低い濃度(IC50 = 37 nM)でDHRS11の酵素活性を阻害します。分子モデリングなどの計算科学的手法と変異導入試験により、WH23がDHRS11の特定の部位(His210)と強固な水素結合を形成することが、その強力な阻害活性の鍵であることを解明しました。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202602123996-O5-p0Ed538Y】
図1. KC-AとWH23のDHRS11ドッキングモデルの比較
2.二重の作用メカニズムと抗腫瘍効果
WH23は、TNBC細胞(MDA-MB-453)において、DHRS11によるアンドロゲン供給を断つだけでなく、ARの発現自体も抑制し、下流の増殖シグナルを抑制することがわかりました。また、がん細胞の生存に関わるPI3K/AKT経路も阻害することが判明しました。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202602123996-O6-D3slYp8n】
図2. KC-AとWH23のAR発現抑制およびアンドロゲン依存性細胞増殖抑制効果
3.薬剤耐性の克服と相乗作用
臨床で使用されるAKT阻害剤カピバセルチブ(Capivasertib、Cap)には、乳がん細胞において逆にDHRS11の発現を増加させてしまうという代償作用が生じることがわかりました。そこで、Cap耐性細胞に対してWH23を併用したところ、顕著な相乗効果により細胞死が誘導されることを実証しました。
今後の展開
本研究で開発されたWH23は、アンドロゲンに依存した難治性乳がんの治療における有望なリード化合物です。今後は、動物モデルを用いた体内での有効性評価(in vivo試験)や酵素-阻害剤複合体構造の解明によりさらに改良を進め、将来的な臨床応用に向けた研究を加速させます。
研究者コメント
乳がんにおける男性ホルモンの役割や関連する酵素については、まだ多くの謎に包まれています。DHRS11は比較的なじみの薄い酵素かもしれませんが、その特異的阻害剤を開発することには、基礎研究を大きく加速させる重要な意義があると考えています。こうしたニッチな分野への探求が、最終的には治療法が限られる患者さん一人ひとりに最適な治療を届ける『個別化医療』への道に繋がることを願っています。
謝辞
本研究は、AMED橋渡し研究プログラム(シーズA)(課題番号 21lm0203002)、岐阜大学COMIT共同研究 2024、公益財団法人 鈴木謙三記念医科学応用研究財団、公益財団法人 松籟科学技術振興財団、およびKing Faisal University(Grant No. KFU254489)の研究助成金により行われました。
用語解説
※1 DHRS11: Dehydrogenase/reductase (SDR family) member 11。アンドロゲン(男性ホルモン)の合成に関わる酵素。
※2 カピバセルチブ(Capivasertib): がん細胞の生存に関わるPI3K/AKT経路をブロックする薬剤。臨床で広く研究されているが、耐性が生じることが課題となっている。
※3 LAR TNBC: トリプルネガティブ乳がんの一種で、アンドロゲン受容体(AR)を発現し、そのシグナルによって増殖する性質を持つ。
論文情報
雑誌名:European Journal of Medicinal Chemistry
論文タイトル:Synthesis of potent human DHRS11 inhibitors and their efficacy against androgen-dependent proliferation and sensitivity to AKT inhibitor Capivasertib of triple-negative breast cancer cells
著者:Yuri Miyamoto, Wakana Hirai, Tomofumi Saka, Masatoshi Tanio, Yudai Kudo, Yuta Yoshino, Yusuke Nakagawa, Nao Kobayashi, Sana Takada, Takuya Okada, Naoki Toyooka, Mahmoud Kandeel, Nobutada Tanaka, Akira Ikari, and Satoshi Endo
DOI: 10.1016/j.ejmech.2026.118649
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