インタビュー:「ファンボーイズ」カイル・ニューマン監督に聞く 「共感できる作品を心掛けた」

 米国で09年2月に封切られ、「スター・ウォーズ」ファンを大喜びさせた「ファンボーイズ」。ところが日本では、劇場公開どころか、DVDすら発売されないという大ピンチ。そこで、日本の「スター・ウォーズ」ファンたちが、日本での上映を求める署名活動をしたところ、1000人を超す署名が集まり、ついにDVD発売が決定。しかも発売直前には劇場公開もされることになった。劇場公開とDVD発売のPRのために来日した、カイル・ニューマン監督に話を聞いた。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)

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 「ファンボーイズ」の舞台は、「スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス」公開直前の98年。親友ライナスが、実は末期がんで余命わずかと知ったエリックは、ライナスの「死ぬ前に『エピソード1』を見たい」という願いをかなえてやりたいと考える。エリックは仲間とともに、ジョージ・ルーカスの本拠地スカイウォーカーランチに乗り込み、「エピソード1」のフィルムを盗み出そうと車での米国横断の旅に出る……というストーリー。

 なるほど、「『スター・ウォーズ』ファンによる『スター・ウォーズ』ファンのための映画」をうたうだけあって、並の「スター・ウォーズ」ファンには太刀打ちできないようなシリーズへのオマージュやパロディーが詰め込まれている。それだけでなく、「スター・トレック」ファンの“トレッキー軍団”との衝突や、“カーク船長”ことウィリアム・シャトナーさんとの遭遇シーンもある。

 しかし、ニューマン監督自身は、「オタクじゃなければお手上げという作品にはしたくなかった。細部には、熱狂的ファンが『なるほど』とうれしくなるようなネタを入れつつ、分からなくてもストーリーに共感できる作品を心掛けた」と話す。

 企画の発端は、アーネスト・クラインさんが98年に書いた脚本。クラインさんの母親ががんに侵されていたことから思いついた話だという。当時、ニューヨーク大学の学生だったニューマン監督は、その情報を「一ファンとして追いかけていた。まさか自分が脚本を書き換えたり、ましてや監督することになるとは思っていなかった」と話す。

 製作には、「アメリカン・ビューティー」などで知られるオスカー俳優ケビン・スペイシーさんが名を連ねている。スペイシーさんのプロダクションの関係者で、「ファンボーイズ」のプロデューサーでもあるエバン・アストロウスキーさんが、スペイシーさんに企画の話をしたところ、なんとスペイシーさんが「スター・ウォーズ」の大ファンであることが判明。「なんとしてもこの映画を作ろうと、いろんな人に働きかけてくれて、資金集めにも協力してくれたんだ」と、ニューマン監督はスペイシーさんの功績をたたえる。

 撮影は、25日間で53カ所を回るというハードスケジュールだったが、ひとまず無事に終えることができた。ところがここに思わぬ横やりが入ることに。

 「撮影期間があまりにも短かったから、(プロデューサーなどは)リテーク(撮り直し)の必要があるだろうと考えたんだ。だけど、リテークするためには役者をもう一度集めなきゃならない。その間、時間が空いてしまう。そのすきに周囲が、これを入れてみたらとか、あれを入れてみたらと言い出したんだ」

 彼らの注文に従っていると、“余命わずかな友達のために繰り広げられる旅”というテーマとズレてくる。「権利は先方にあるとはいえ、彼らが思い描いているビジョンが、僕たちのと同じであることを祈るしかなかった」と内心ヒヤヒヤだったニューマン監督。しかし、幸いなことに、ルーカスフィルム側はニューマン監督のバージョンを応援してくれていた。「お陰で、最終的には僕らのバージョンに落ち着いたんだ」と胸をなでおろしたという。

 映画には、「スター・ウォーズ」でレイア姫を演じたキャリー・フィッシャーさんやランド・カルリジアン役のビリー・ディー・ウィリアムズさんなど、「スター・ウォーズ」ファンなら泣いて喜びそうな俳優たちも出演している。「小さいころから何度も見てきた僕にとってはアイコン(象徴)的な存在の人たち。だけど、ファンの自分はひとまず自宅に置いてきて、現場ではプロに徹したよ」と強い意志をのぞかせた。

 当時のことをそう話すニューマン監督が、印象深いシーンとして挙げたのは、フィッシャーさんの出演場面だ。それについてはこんなエピソードを教えてくれた。

 フィッシャーさんは、ライナスたちが旅の途中で立ち寄る病院の女医を演じており、当初は、彼らの旅を阻む“悪役”として描かれていた。「だけど彼女が、『私がやったレイア姫は善人のはず。だから、ちょっと書き換えましょう』とその部分の脚本を手直しすることになったんだ。彼女自身も脚本を書く人だから、一緒に考えてくれて、3案くらい出てきたんだけど、その中の一つに、彼女には内緒であることを書き加えたんだ。『何これ』と突っぱねられることを覚悟していたから、彼女が『これ、やるわ』と言ったのにはびっくりしたよ」。その“内緒で書き加えられたあること”が何なのかは、本編を見てのお楽しみ。

 ところで、ファンにとって気になるのは、ルーカス監督はこの映画を見たのかということ。これについてニューマン監督は、「確信はないけど、(ルーカス監督は)これが公開されてからいろんなイベントに僕を招待してくれるし、DVDが出てからもより熱心にサポートしてくれているようなので、きっと見て、気に入ってくれていると思う」と楽観的なコメントをした。

 そして、今回の日本での公開を「とにかくうれしい。ファンの署名活動なしには公開できなかった」と日本における「スター・ウォーズ」ファンの努力に深い謝意を表し、「ずっと日本に来たいと思っていたけど、それが、この作品のプロモーションで実現できたことが何よりうれしい」と満面の笑みで語った。

 *「ファンボーイズ」は7日まで渋谷シアターTSUTAYA(東京都渋谷区)でレイトショー後、12日にDVDを発売。

 <カイル・ニューマン監督プロフィル>

 1976年、米ニュージャージー州生まれ。98年ニューヨーク大学映画学科卒業。在学中に多くの短編を製作し、その中の1本「Bitten by Love」は、コカコーラの「Refreshing  Filmmakers Award」でグランプリを受賞し、98年の、米国における映画興行関係者向けのコンベンション「ショーウエスト」でお披露目され、全米1万8000スクリーンでも上映された。04年にはABC Familyのテレビ映画「The Hollow」を監督し、同局のハロウィーン特集番組として放送された。「ブラッディ・バレンタイン3D」に出演した妻ジェイミー・キングさん主演のコメディ「Emo Boy」を製作中。

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