TSUNAMI:ユン監督に聞く 逃げるシーン「女優が引きずられているのに気づかなかった」

韓国の災害パニック映画「TSUNAMI ツナミ」のPRのため来日したユン・ジェギュン監督
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韓国の災害パニック映画「TSUNAMI ツナミ」のPRのため来日したユン・ジェギュン監督

 高さ100メートル、時速800キロのメガ津波が韓国のリゾート地に押し寄せ、阿鼻叫喚(あびきょうかん)の光景が繰り広げられる韓国映画「TSUNAMI ツナミ」が全国で公開中だ。ディザスター(災害)ムービーでありながら人物がしっかりと描かれている。また、CG(コンピューターグラフィクス)を駆使して表現された、メガ津波にのみ込まれる市街地の様子は、ハリウッド映画に引けをとらない迫力のシーンとなった。本国・韓国では1300万人を動員し、歴代4位の大ヒット作。「予想外の展開があったことがヒットの要因」と分析するユン・ジェギュン監督に話を聞いた。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)

ウナギノボリ

 −−もともと、韓国のリゾート地ヘウンデで過ごしていたユン監督が、もし、今ここに津波が押し寄せたらどうなるかと考えたことから始まった企画とお聞きしています。そこからどのように物語を組み立てていったのでしょうか。

 この映画を撮る前に、いわゆるディザスタームービーを数十本見ましたが、そのほとんどが自然災害は映画の前半もしくは中盤までに起きていました。そうなると、物語の中心が自然災害になってしまい、人間模様の部分がどうしても弱くなる。それは避けたかった。ですから、前半から中盤にかけて人間模様をしっかり描き、映画がピークにさしかかるころに一気に津波が押し寄せる、そういう構成にしました。

 −−登場人物の多くの家庭がすでに崩壊しているのも興味深かったです。

 はたから見たら幸せそうな家族でも、そこには当人たちにしか分からない誤解があったり葛藤(かっとう)があったりするものです。でも、そういう問題を抱える家族こそが、平凡な家庭だと私自身は思っています。彼らに幸せな結末を迎えてほしいというのが、この映画が意図するところでしたので、そういう問題を抱えた家族が大きな事故、この場合は津波を体験することで、解決に向かわせたり、傷を癒やさせたりしたかったのです。

 −−韓国での大ヒットの要因は何だと分析していますか。

 商業的な見地からすると、予想外の展開とか意外性があったと思っています。公開前、多くの人たちは自然災害を扱った映画ということで、ハリウッド映画によくあるヒーロー物語だと思ったに違いありません。でも実際見てみると、庶民の生活を描き、そこには面白さもあるし、感動できる部分もあった。また、ビジュアル面でも、しょせんは韓国映画、ハリウッド並みのものは作れないと思っていたと思う。でも、ふたを開けてみると、そこには、ハリウッド映画と遜色(そんしょく)ないものだった。それらの要因と、見た人の面白かったという感想が口コミで広がった結果、多くの人々に見てもらえたのだと思います。

 −−韓国・釜山のランドマーク的な橋といわれる「クァンアン大橋」での撮影は、橋の半分でマラソン大会が開かれている中で行われたそうですね。

 実はこの橋での撮影は、マラソン大会の日と、そのほかに2日間撮影しました。というのもマラソン大会当日は、午前中の6時間だけしか使えず、また、海向きに撮るカットと海岸向きに撮るカットが必要だったからです。撮影中には見物に来る人もいれば、車を運転する人から「何やってるんだ、迷惑だ!」などと怒鳴られたりしました(笑い)。

 −−津波が押し寄せ、水浸しになった市場のシーンでは、主演のソル・ギョングさんが、相手役のハ・ジウォンさんが転んだことに気付かず走り続けたそうですが、そのテークは使われたのですか?

 使っています。あれは、限られた時間だけ道路を借りての撮影でした。俳優さん以外にエキストラも400~500人いたし、カメラを回せる時間は限られているし、そのカメラは3台も4台もあるしで、現場は本当に大変なことになっていて、本来なら監督である私が女優を守らねばならないのですが、とてもそんな余裕はなく、撮って、その後にモニター画面で確認して初めて、ギョングさんがジウォンさんを引きずっているのに気がつきました。そのときはさすがに、「アイゴー(おおっ!)」と叫びましたよ(笑い)。

 −−そのときのジウォンさんの反応は?

 彼女とは気心が知れた仲なんですが、あとから呼ばれて、「一体何やってるの」と突かれました(笑い)。

 −−もし津波が来たら、あなたならどうしますか?

 その質問に答えるには、逆に質問が必要です。まず、逃げる時間はありますか?

−−映画と同じ、津波到着まで10分間という設定にしましょう。

 家族は一緒? それとも別々?

 −−別々としましょう。

 でしたら、まず妻と(韓国の年齢で5歳と7歳の)2人の息子を捜します。そして、居所を確認し、彼らがひとまずちゃんと逃げられるよう誘導してから、自分のことを考えます。それで自分も逃げられる状況なら逃げることを考えるだろうし、逃げられないと判断したら、自分は生命保険に入っているから大丈夫だなと観念します(笑い)。

 −−ジェギュン監督は、以前は広告会社でコピーライターをしていたということですが、この作品のコピーを書くとしたら?

 難しい質問ですね……。(ちょっと考えて)「何を想像してもそれ以上のものをあなたは目にするだろう」。……ある意味、よく使われるコピーかもしれませんが。

 −−ありがとうございます。次回作の予定は?

 「テンプル・ステイ(原題)」というタイトルで、アメリカ人の家族が韓国に来て、寺(テンプル)に滞在(ステイ)するんですが、そこでいろんなことが起こるという楽しいファミリーアドベンチャーです。私自身がシナリオを書き、アメリカの俳優を主役にすえ、セリフも英語にしようと考えています。いってみれば、東洋版「ハリー・ポッター」ですね。

 −−では最後に「TSUNAMI ツナミ」をこれから見る人にメッセージを。

 この映画は、視覚的にもハリウッド大作に負けないくらいの迫力がありますし、みなさんの心を動かすような面白さ、感動もあります。ハリウッドの自然災害映画とはひと味違った韓国の災害映画を、ぜひ体験してみてください。

 <プロフィル>

 1969年、韓国・釜山生まれ。高麗大学経済学科卒業後、広告会社でコピーライターとして活躍。その後、「身魂旅行」(02年)の脚本がシナリオコンクールで大賞を受賞したのを機に映画界へ転身する。これまで、韓国の映画版「マイ・ボス マイ・ヒーロー」(01年)、「セックス イズ ゼロ」(02年)、「1番街の奇跡」(07年)の監督・脚本を担当するなど、コメディー作品を多く手掛けてきたが、今作「TSUNAMI ツナミ」では、めずらしくヒューマン作品を手がけている。他にプロデューサーとして「シークレット」(09年)を担当した。

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