1巻が発売されたコミックスの中から、編集部と書店員のお薦めマンガを紹介する「はじめの1巻」。今回は、「月刊コミック@バンチ」(新潮社)で連載、綿密な描写で近世の士官学校の日常を物語にした中島三千恒(みちつね)さんのマンガ「軍靴のバルツァー」です。
ウナギノボリ
10年前の朝ドラ「花子とアン」 当時の吉高由里子インタビュー
軍事大国ヴァイセン王国のエリート将校・バルツァー少佐は、同盟国である軍事後進国バーゼルラントの士官学校教官として赴任した。しかし、戦禍にさらされず発展してきたバーゼルラントでは、前時代的な戦略戦術論と旧式の兵器を用いており、砲撃訓練をしたことのない生徒がいる始末。バルツァー少佐は悪戦苦闘しながら教官としての日々を送るが、ある出来事から同僚で王族出身の教官と衝突してしまう。
帝国主義時代から近代国家へ移り行くはざまのヨーロッパ。歴史に翻弄される士官学校の教官と生徒たちの日常と非日常、戦争と平和を描くという試みは、近年、身近なテーマばかりが目立つマンガ業界の中にあって相当な冒険作だと思います。担当編集ではありますが、いちマンガ愛好家としても「作家さん、描くの大変だろうけど……、こんなマンガが読みたかった!」「ありがとう!」という作品ですね。
中島さんは、軍服やライフル、野戦砲や戦術論を描くのが大好きで、当時の食べ物から少年兵たちの洗濯シーンまで描くという“偏愛”ぶりです。でも、それでいて独り善がりなストーリーではなく、多くの人が読んで「面白い!」と言わしめる王道の展開とドラマもしっかり踏まえているところがすごいです。可愛らしい少年たちとちょっとニヒルな教官との、ほのぼのとした掛け合いを楽しむもよし。戦争というリアルを突きつけられた彼らの葛藤に心を砕くもよし。マンガ界に現れた、近年まれに見る本格的な歴史大河ドラマをぜひ一度ご覧ください。
「@バンチ」に変わって新連載の単行本が次々と発売される中、「@バンチ」を代表する作品となるべく現れたのがこの「軍靴のバルツァー」。舞台は19世紀のヨーロッパ、士官学校を舞台にしているためか女性がモブキャラしか出てこないという徹底した男臭さ。さらに生徒たちと主人公、王子がイケメンという理由からか、バンチ作品では異質の女性購入率の高さとなりました。周囲の抵抗に苦心しながら変革しようとする主人公に引きつけられ、舞台背景、武器類の緻密な描写に魅入られる期待の作品です。
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