注目映画紹介:「東京オアシス」 他人の打ち明け話を聞いて癒やされる人間関係の妙を描いた

「東京オアシス」の一場面 (C)2011オアシス計画
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「東京オアシス」の一場面 (C)2011オアシス計画

 かつての“オリーブ少女”が中年にさしかかった今、こんな映画を見るに違いないと思わせる映画「東京オアシス」(松本佳奈監督)が公開された。出演者が小林聡美さん、加瀬亮さん、原田知世さん……。このラインアップを見て「こんな映画だろう」と察した気になるのは損だ。都会の風景がなんとも細やかに映し出され、「相手の鏡となる」という対話の基本がここにある。人生の途中で迷っている人たちの背中をそっと押してくれる映画だ。

ウナギノボリ

 深夜。ナガノ(加瀬さん)がコンビニで買い物をすませて出てくると、走るトラックに向かって喪服の女が駆け出す。反射的に助けたナガノに、その女トウコ(小林さん)は「一緒に車に乗せてくれ」と言い出す。女優だというトウコは、撮影現場から抜け出してきたらしい。ぎくしゃくと会話を交わすうちに、どことなく共感し合う2人。車は夜明けの海岸へ。また、ある夜。トウコは小さな映画館で知り合いに出会う。かつてシナリオライターをしていたキクチ(原田さん)が働いていたのだ。キクチはトウコに打ち明け話をする……という展開。

 人生に迷っているトウコという女性が出会うのもまた、人生に迷った人たちだった。三つの話で展開されるが、トウコと誰かが横に並んで話をする、という風景が反復される。そこから見えてくるのは、他人の打ち明け話を聞くことによって自分もどこか癒やされることだったり、他人の中に自分に似た部分を見つけたり……1対1の人間関係の妙があるということだ。どのカットも丁寧で、音(たとえば、深夜のコンビニ店内の機械音、閑散とした動物園の気配など)にも気を配っている。エンディングの大貫妙子さんの曲もピッタリでさわやかな気分になる。今どき万人ウケを無視して製作する度胸と根性も買いたい。あと一つ。もたいまさこさんが、いつどこに出てくるのかをお楽しみに。(キョーコ/毎日新聞デジタル)

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