1巻が発売されたコミックスの中から、編集部と書店員のお薦めマンガを紹介する「はじめの1巻」。今回は、「週刊少年チャンピオン」(秋田書店)で連載、“うまくいかない人々”のどこかおかしい日常をオムニバスで描いた阿部共実さんのマンガ「空が灰色だから」です。
ウナギノボリ
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極度の恥ずかしがり屋の女性が自分克服のためにあるチャレンジをしたり、友人に絶交を言い渡された女子高生がその悪口を言ったりと、どこか“うまくいかない人々”が登場する。彼らは大まじめに自分が思う道を突っ走るが、その道は常軌を逸していて……。
2011年初夏。しばらく掲載機会のなかった阿部先生に、急きょ12ページ3話の掲載チャンスが転がってきた。
私「掲載決まりました。第1話の入稿が×日までだから、3日後に面白いネームを3本あげてきてください」
阿「え? そんなにすぐなんですか? 締め切り」
私「週刊連載とはそういう世界ですよ。これが当たり前です」
私はためらいもなくうそをついた。締め切りはずいぶん先のことだ。でも阿部先生はまだ新人。週刊連載の厳しさを知ってもらう、いい機会だと判断したからだ。
阿「じゃあとりあえず、明日2本あげます」
私「えっ……」
ネームはマンガの命だ。1日に1本生むことすら困難だ。まして打ち合わせ段階ではオムニバス3話を想定している。作品通じてのキャラクターは不在で、各話ゼロから創作しなくてはならない。
本当にできるのか……?
翌日、阿部先生からネームが届いた。その数、なんと4本。3話連載なのに……。阿部先生は予測不能。
この4本中、1話減らしたものが「空灰」の前身、3話連載「空が灰色だから手をはなそう」として掲載されました。
お笑いあり、不条理あり、ロマンスありと、どれも異なる味わいの話ばかりですが、そのすべてから強烈な作者の個性を感じさせてくれる短編集でした。一見ギャグマンガのようでありつつ、心の奥に仕舞い込んだ喜びや悲しみを無造作に見せられるようなエグさと切れ味が衝撃でした。デリケートな感情の渦巻く物語は、目を背けたくなるものから、興奮とともに凝視してしまうものもあり、どれひとつとして油断ならない印象です。最初に読んで以来、この作者は何者なんだと、驚きっぱなしですよ。
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