小林ゆう:人気声優がアキバ系落語に挑戦 談志の落語きっかけに

「モエオチ!」への思いを熱く語った小林ゆうさん
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「モエオチ!」への思いを熱く語った小林ゆうさん

 アニメ「まりあほりっく」の祇堂鞠也(しどう・まりや)役などで人気の声優・小林ゆうさんが、「寿限無」「死神」「まんじゅう怖い」「芝浜」の四つの古典落語を現代の“アキバカルチャー”に置き換えて“女子萌え落語”として演じたCD「モエオチ!」を発売した。10年ほど前から落語を聞き始め、立川談志の落語に出合って「自分もチャレンジしてみたい」と、数年前から自宅で一人、落語を演じていたという。小林さんにCDの聞きどころや、今月開催したという“初披露目”のイベント、落語への思いについて聞いた。(毎日新聞デジタル)

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 小林さんが落語を聞き始めたのは、声優の仕事の勉強になると周囲に薦められたのがきっかけ。最初は昭和の名人として名高い古今亭志ん生、古今亭志ん朝などを聞き、その後、談志の落語と出合ったという。「一番最初に、すごく好きになった噺(はなし)は談志師匠の『堀の内』。初めに“コピー”させていただきました」と語る。

 キュートなルックスとファッションセンスで写真集も発売している小林さん。「落語のCDを出したい」と話した時、周囲はとても驚いていたというが、自分の落語への思いを訴え、実現にこぎ着けた。今作では「落語を聞いたことがない方にも興味を持ってもらいやすいものを」という考えで、「私が声優のお仕事でお世話になっているアニメや秋葉原の世界、オタクカルチャーという世界に古典落語をスライドさせた」という。脚本は劇団「ロリータ男爵」を主宰する脚本家で演出家の田辺茂範さんが担当。出囃子(でばやし)は「軽快でポップな感じに」とオリジナルで制作した。

 企画から発売まで約半年という短期間でいくつかの作品が出来上がり、寿限無を基にした「微レ存~フルボッコの神降臨~」、死神を基にした「タヒネ申~彼女いない暦=享年~」、まんじゅう怖いが基になった「じゅうまん怖い~リア充野郎は逝ってよし~」、芝浜が基になった「シー・バハマ~なんてったって地下アイドル~」の4作品をCDに収録した。収録では、声優ファン、落語ファン、どちらにも受け入れられやすいよう「落語であり、ドラマCDというイメージを強く持っていた」という。

 タイトルからも“アキバカルチャー”への置き換えが見て取れるが、内容もアキバ一色だ。「微レ存」は、コミケに“初デビュー”する女の子がマンガ評論家ぶった先輩に自分のマンガのタイトル付けを依頼したところ、ネットスラングやオタク用語などを駆使した長いタイトルになってしまって……という話。「じゅうまん怖い」は、イケメンで仕事ができる“リア充”な男タツヤに嫉妬した友人が、タツヤが嫌いだという気の強い女をそろえて合コンを行う……という物語だ。「タヒネ申」は“モテキ”の来ない男と女の死神の掛け合いで話が進み、「シー・バハマ」は地下アイドルを追っかける男とその母の物語になっている。古典の基本ストーリーは変えず、斬新なキャラクター設定で物語を磨き上げた。

 小林さんは今作を「(古典落語の)カバー」と称し、「微レ存はポップス、タヒネ申はシリアスでクラシカルな曲。じゅうまん怖いはパーティーチューンで、シー・バハマはバラード」と独特のたとえで表現。「微レ存は(マンガのタイトルを言う)長ぜりふが一番の聞きどころ。覚えやすいので(ファンの方にも)覚えていただけたら」と語り、「じゅうまん怖いは合コンに参加する女の子グループ、男の子グループも全員演じ分けているので、そこが醍醐味(だいごみ)。(各キャラクターの)想像が膨らむと思います。タツヤは(自分が過去に演じた)役に近いものがある。聞いている方にはそういう楽しみ方もしていただければ」と魅力を話した。

 自身が落語を演じることについては「声優という仕事から得た血となり、肉となったものを全部注がせていただきたいという情熱でやらせていただいた」と力を込め、「私らしい落語になった。(これまでに演じた)前向きな明るい少年、イケメンで女の子にもてる男の子、ハイテンションな女性などバラエティーに富んだ役柄を一つもこぼすことなく、役柄に感謝しながら、全部を『モエオチ!』に投入した。男の誰がしゃべっているのかという細かい演じ分けにも注意したので、そこも聞きどころ」と自信を見せている。

 レコーディングでは“役が勝手に動き出す”という経験もし、「自分から離れて勝手に登場人物が会話をし始めた時は胸が震えました。こういうことがあるのですね! 経験させていただいてありがとうございます(という気持ちになった)」という。また1人で演じることで「全体を俯瞰(ふかん)で見渡す、サッカーでいうと監督。語りをすることで司令塔という役割もした。こういう経験は生まれて初めてだった」と喜んだ。

 また8月5日にはCDの発売を記念して、今回収録した作品を初披露するイベントを東京・秋葉原の店舗で行い、12歳の女の子から40代以上の男性まで100人以上のファンが詰めかけ、立ち見も出るほどの大盛況に。「お客様がワクワクしているお顔をしてくださって笑ってくださるというライブ感。それに興奮してしまいました! アドリブを試して、笑いが大きくなって、爆笑になった時の喜びといったらない。夢のような時間でした」と大興奮で振り返った。

 小林さんは今後の落語の活動について「恐れ多い夢」としながらも、「独演会のような形で何本か演じたい。(話の導入の)まくらももう少し長くしたい。古典の方にも足を踏み入れさせていただけたら……」と語っている。

 今回のCDをきっかけに古典落語を聞きたい方におすすめの作品はと聞くと、一気に落語ファンの顔へと変わり、大好きだという談志の「堀の内」のほか、「啖呵(たんか)を切らせたら右に出るものはいないと言われる『らくだ』もおすすめ。歴史を楽しみたい方は『源平盛衰記』を」と談志の口演を挙げた。志ん生の「あくび指南」、三遊亭円生の「百川」も挙げ、満面の笑みを見せていた。

 ◇プロフィル

 こばやし・ゆう。2月5日生まれ。東京都出身。雑誌モデルを経て声優に。09年に放送されたアニメ「まりあほりっく」の女装した男子・祇堂鞠也役でブレーク。SF時代劇アニメ「銀魂」でくノ一の猿飛あやめ役、アニメ「さよなら絶望先生」シリーズの複数の人格を持つ木村カエレ役など、エキセントリックなキャラクターを好演している。12年5月10日発売のアニメ雑誌「月刊アニメージュ」(徳間書店)で発表された読者の人気投票による第34回アニメグランプリでは、声優部門の3位に選ばれた。現在、アニメ「銀河へキックオフ!!」(NHK)の主人公・太田翔役などを務めている。「モエオチ!」は1890円。

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