名探偵コナン
#1140「女子会ミステリー3」
11月2日(土)放送分
アニメの舞台になった町をファンが訪れる“聖地巡礼”が、自治体の注目を集め、学問の研究対象になっている。アニメ「らき☆すた」を使った町おこしの先駆けとして知られる埼玉県久喜市の鷲宮地区で3日、“聖地巡礼”をテーマにした「コンテンツツーリズム研究会」が開かれ、研究者や大学生などが約50人参加した。筆者はこれまで数々の“聖地巡礼”を取材した経験があることから、同研究会に招かれ、恥ずかしながらシンポジウムにパネリストとして出席してきた。(河村成浩/毎日新聞デジタル)
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「コンテンツツーリズム」とは、アニメやマンガの舞台を観光資源として利用するツーリズム(旅行)を意味し、“聖地巡礼”を研究対象にする新しい学問だ。研究会は、この日同じ鷲宮地区で開かれた異色の運動会「萌フェスin鷲宮2012」(主催・鷲宮商工会)に続くイベントとして開かれ、午後2時過ぎまで運動会を取材していた筆者は午後3時から始まる研究会に駆け込んだ。
扱うテーマがアニメが関連するため「遊び」と誤解する人もいそうだが、参加者は真剣そのものだ。事前の応募では定員を超え、会場スペースの都合のため断った人もいたほど。北海道や広島から訪れた人もいて、関心の高さをうかがわせた。
二つの基調講演が用意され、一つ目は、観光社会学を専門にする京都文教大の岡本健(たける)特別講師が「コンテンツツーリズム教育の現状と課題」をテーマに、アニメの“聖地巡礼”が学問的にどう考えられているかを説明した。アニメ「らき☆すた」の放送時に大学院で観光を研究していた岡本さんは、全国的な史跡がなく、宿泊施設のない鷲宮に若い人が足を運んでいるのを見て驚き、研究するようになった。
講演では、学会などで岡本さんが“聖地巡礼”について発表した際、“聖地巡礼”という異色の現象が学術で指す「観光」に当たらないという指摘があったことを明かした。「観光」とは宿泊を前提にするためで、宿泊施設がなく日帰りで現地を訪れることは、上記の定義からは「観光」にならない……というわけだ。
また“聖地巡礼”という宗教学の言葉を使ったことに「軽々しく使うものではない」といわれた経験にも触れながら、「実は意見や批判をしてくれた人が、後から認めてくれたようです」と話し、会場でも驚きの声が上がっていた。岡本さんはこの分野の第一人者だが、その苦労がうかがえる基調講演だった。
二つ目の基調講演では、埼玉県産業労働部観光課の福島るり子主幹が「埼玉『超』観光立県の取組みとコンテンツツーリズムに期待すること」をテーマに県の取り組みを語った。埼玉県は史跡名勝といった観光資源が少ないことを逆手に取り、実際にアニメの“聖地巡礼”を後押ししたり、新しい名産の開発にも乗り出している。
福島さんは、県庁へ映画の撮影場所についての問い合わせが来るものの、実際の撮影に結びつける難しさを紹介した。また観光誘致のため、アニメを制作したり、AR(拡張現実)の技術を利用して、鷲宮では「らき☆すた」、川越市ではアニメ「神様はじめました」のキャラクターが撮影できるスマートフォン用のアプリを開発した。アプリの改良、コンテンツの継続的な開発ができるか?といった課題もあるが、自治体の試みとしては注目を集めそうだ。
二つ目の基調講演で面白かったのは、埼玉県の観光立県のコンセプトで、「東京に訪れる観光客を積極的に横取りする」というキャッチコピーは見事。アニメの“聖地巡礼”でさまざまな自治体を取材したが、よそから人が急に集まったら困るなど、問題を起こさないようにと“安全第一”に考え、積極的に取り組む自治体は少なかった。アニメの“聖地巡礼”は、最も盛り上がる放送期間に企画を仕掛けるなど、速さと決断力が重要になるため、この意気込みで攻めてほしい。
基調講演の後には、3人の学生が“聖地巡礼”についての研究結果を報告し、最後にシンポジウムが開催された。「らき☆すた」を使った町おこしの仕掛け人で鷲宮商工会の坂田圧巳さん、「らき☆すた」の連載誌「月刊コンプティーク」の加藤剛編集長とともに筆者も登壇。来場者から質問を受け、一つずつ答えていく形となった。
加藤さんには作品作りへの質問、坂田さんには鷲宮の町おこしの取り組み、私には各地の“聖地巡礼”についての質問が次々と投げかけられた。当初は午後6時前に終了予定だったが、1時間以上オーバーして閉会となった。その後の交流会でも出席者から「メディアで取り上げられるにはどうすればいいか」などと質問が続き、関心の高さをうかがわせた。
07年の「らき☆すた」の放送をきっかけに舞台の一部となった久喜市鷲宮の鷲宮神社やその周辺をファンが訪れる“聖地巡礼”が全国で注目を集め、以後も地方都市をモデルにしたさまざまな作品が続いている。それを受けて、地方自治体が地域振興策として注目し、大学生の卒業論文のテーマになっているのは興味深い現象だ。将来は地方自治体が参加したテレビアニメが放送されたり、“聖地巡礼”の研究成果を用いた町おこしが生まれる時代が来るのかもしれない。自称“聖地巡礼の伝道師”としてこれからもできるだけ現地に赴き、現場の熱気を感じ取りたい。
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