超硬派のゲーム雑誌「ゲーム批評」の元編集長で、現在はゲーム開発と産業を支援するNPO法人「国際ゲーム開発者協会(IGDA)」日本代表の小野憲史さんが、ゲーム業界の現在を語る「小野憲史のゲーム時評」。今回は、ゲームビジネスの変遷と、意外な業界で活躍しているゲームの技術を紹介します。
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コンテンツのデザインはビジネスモデルに規定される。市場が成熟すると共に、各社が「売れるためのモノづくり」競争にはげむことで、コンテンツが先鋭化していく傾向は、あらゆるエンターテインメント業界で見られるが、ゲーム業界でも時代を重ねるごとに変化してきた。
最初に産業化されたアーケードゲームでは、3分100円で楽しめる内容が基準となり、シューティングやアクションゲームが人気を集めた。より短時間で決着がつき、連続でコインを投入されやすい対戦格闘ゲームは、このビジネスモデルの申し子だ。
続く家庭用ゲームでは、数千円で数十時間遊べる内容が求められた結果、ロールプレーイングゲームやシミュレーションゲームがブレーク。自宅でじっくり遊べるスタイルが人気を博した。今ではアイテム収集などのやり込み要素も、長時間楽しませるためには欠かせない仕掛けになっている。
これが基本プレー無料で、アイテム販売でコストを回収するソーシャルゲームでは、ゲームの内容も1日に何回も、短時間だけアクセスさせる内容に変化した。開発コストは、数%のコアな課金利用者が支えているというのが業界の一般的な見方だ。ちなみにジャストシステムが12年に実施した「ソーシャルゲームに関する利用状況調査」によると、課金経験があるプレーヤーは48.5%とほぼ半数に達したが、月額利用料で1万円以上の利用者が8.4%。うち3万円以上の利用者も2.3%だった。
一方、ゲーム業界がパチンコ・パチスロの遊技機業界にも進出しているのはご存じだろうか。大型液晶モニターを備える台が増加する中、映像制作を担う例が増えてきたからだ。「お客は約1万6000円投資し、約50分に1回大当たりが出るか否かが勝負」(関係者談)というビジネスモデルだという。
ホールでは、人気アニメや芸能人がモチーフの「版権台」が主流だが、これらはお客の間口を広げるため。一方で小1時間も同じ台に座って、打ち続けてもらうための仕掛けが、「煽(あお)り」と呼ばれるテクニックだ。3種類の数字がそろいそうでそろわない、リーチと呼ばれる映像演出は代表例だ。他にもさまざまな映像を組み合わせ、リズミカルに表示して、お客の期待感を薄く、長く持続させ、大当たりで爆発させる。今では映像の組み合わせが1000万種類、映像時間の合計が1時間を超える台も珍しくない。
逆にこうした遊技機特有の映像演出をふまえていない台は、いくら人気の版権や美しいな映像を使っても人気が出ないという。以前は台の設計全般を担当する遊技機メーカーと、映像制作のゲーム会社で摩擦も見られたが、しだいに両者でノウハウもたまってきた。
さまざまな規制で縛られる遊技機設計だが、映像演出は原則自由で、作り手側の腕の見せどころ。手練手管を駆使してプレーヤーの感性を刺激し、適切にコントロールするのは、ゲーム業界の“お家芸”でもある。今後もさまざまな工夫が見られそうだ。
◇プロフィル
おの・けんじ 1971年生まれ。山口県出身。「ゲーム批評」編集長を経て2000年からフリーのゲームジャーナリスト。08年に結婚し、妻と猫3匹を支える主夫に「ジョブチェンジ」。11年から国際ゲーム開発者協会(IGDA)日本代表に就任、12年にNPO(特定非営利活動)法人の認定を受け、本格的な活動に乗り出している。
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