ジェシカ・チャステイン:「ゼロ・ダーク・サーティ」主演 「感情押し殺した」CIA分析官を演じる

(c)Mayumi Nashida
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 11年5月に実行された、米海軍特殊部隊(ネイビーシールズ)による9.11テロの首謀者ウサマ・ビンラディン容疑者殺害事件を取り上げた「ゼロ・ダーク・サーティ」が16日に封切られた。前作「ハート・ロッカー」がアカデミー賞作品賞、監督賞、脚本賞などに輝いたキャスリン・ビグロー監督と脚本家のマーク・ボールさんのコンビで作り上げた作品で、ビンラディン容疑者殺害にいたるまでに米国側はどのように情報を集め、計画を進めていったのかなどが描かれている。計画の中心人物となったCIAの若き女性分析官マヤを演じたジェシカ・チャステインさんに聞いた。(毎日新聞デジタル)

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 −−この役を引き受けるまでのいきさつを教えてください。

 私がカナダ・トロントで撮影しているときに、今作のプロデューサーからメールが入ったんです。何度か電話をくれていたようですが、私は他の作品に入っていて忙しかったので、電話に出ることができていなかったんです。するとメールをくれて、こう書いてあった。「頼みたいことがあるの、5分で済むから電話して」と。私は、すぐに電話をしました。すると、「ジェシカ、出演の話よ。キャスリン・ビグローが監督で、本当に素晴らしい作品なの。ピッタリの役があるんだけど、あなたのエージェントにはスケジュールがあかないから絶対に無理だと断られてしまった」と。私はすぐに「ビグロー監督の作品ならぜひ出演したい。スケジュールはなんとかするわ」と答えました。

 その話があった次の週に、今度はビグロー監督本人から電話がありました。そのときも仕事に出ていて、電話に出られなかったんですが、メッセージを残してくれていたので、小躍りしながらかけ直しました。「あなたの作品に出演したいので脚本を読ませてください」と頼んだんです。ほんの2ページ読んだだけで、すでに気持ちは決まっていたんです。そして読み終えてすぐにメールを送り、「ぜひこの役をやらせてほしい。無理なスケジュールなのは承知の上だが、絶対にやりたい」と訴えました。ビグロー監督らスタッフが話し合いをし、なんとかスケジュールをあけてもらって、撮影に入ることができたんです。そのかいあって、素晴らしい現場となりました。

 −−チャスティンさんはこれまで作品によって全く異なる役柄を演じており、同じような役を見たことがないのですが、何を基準に出演作を決めているのでしょうか。

 私が作品を選ぶ基準は、自分が今まで演じたことがあるかどうかということです。演技が好きな理由は、自分とは別の人になれて、その人の生き方を体験できること、それによって自分以上の何かとつながっていると感じられるからなんです。できれば自分と最も遠いキャラクターを演じたいと思っています。その方がワクワクするの。キャリアを通して一つの役のイメージがつかない役者であり続けたいと思っています。

 −−今作におけるマヤの心の変化を、チャステインさんなりにどのように解釈して演じていきましたか。

 実際にCIAにいた女性を演じ、彼女をリスペクトしています。リサーチをする中で、CIAで働くということは自分の感情を表に出してはいけない、正確さを期するという訓練を受けるというということを知りました。CIAでは女性として少しでもエモーショナルなものが見えてしまうと人から信じてもらえないし、そもそもイスラムまで彼女が送られるということはありません。彼女を演じるときに、このことが重要なポイントだと思いました。もちろん感情はあってもいいんです。基本的には感情を見せないということを演じている中で、一瞬だけ感情を見せる場面があります。長年感情を見せない訓練をしてきてフラストレーションがたまって言葉に出すシーンでは、感情はクレージーな形で表れてしまいます。実際にいる女性がリアルな形で世界をいかにしてわたっていくのかがすごく面白いと思いました。

 −−劇中に執ような拷問シーンがありました。あなたは、直接手は下してはいませんでしたが、役柄上それを見ていなければなりませんでした。そういうシーンに臨むときはどういう気持ちでしたか。

 そのシーンには苦労しました。私は冷酷で、すべてを分析的に判断するよう鍛えられた、非情な役柄でしたから。実生活の私とは正反対です。私は女優として、感情的で繊細で、傷つきやすい女性になるよう訓練を積んできました。ですから、このような感情を押し殺したシーンを撮影するときは、役に入り込むため、事前に心の準備をしなければなりませんでした。目の前の光景に驚きながらも、マヤらしく感情を押し殺し、冷静に演じる必要がありました。

 そのシーンはヨルダンの刑務所で、1週間をかけて撮影したのですが、最も苦労しました。なんといっても本物の刑務所なので、演じるよりも怖さの方が勝っていましたね。どこか別世界に迷い込んだ気分でした。スタッフと一緒にいたので、身の安全は保障されていましたが、万が一、何か予期せぬことが起こったらどうしようといつも考えていました。とても危険な出来事が起こったらとか……まさに崖っぷちの心境でした。そのシーンを見ていただくと、リアルな緊張感が出ていると思います。

 −−キャスリン・ビグロー監督の作品の魅力は? また撮影前と撮影が始まった後で印象は変わりましたか?

 映画というのは暴力が観客側にある程度予想されてしまうことがあるかもしれないんだけれど、それによる悲劇やどれくらい人を滅ぼすのかというのが分かりにくくなるケースが多い中で、彼女の作品ではキャリアの当初から暴力を通してモラルが失われていくということがきっちりと描かれています。そこが彼女の作品で好きなところです。実際に彼女に会う前はどういう人か想像できなかったけど、今回の作品で素晴らしいのは、120人ものせりふのある役、さまざまな状況やたくさんのロケーションで撮影したにもかかわらず、常に素晴らしい偉大なリーダーであり続けました。しかも、脅威ではなく思いやりを持ってみんなを率いていくことができるんです。彼女は強く美しく豊かな感受性を持っているからこそ、男性的な部分と女性的な部分を両方持ち合わせているのかもしれませんね。

 −−「ゼロ・ダーク・サーティ」 は米国で大変話題になっていますが、日本のように海外の観客にはどんなところを見てほしいですか。

 世界には知られざるヒーローが数多くいます。彼らは自分の人生を注ぎ、そのことに何時間も費やしています。例えば今作では国のために頑張っている人たちが普段光を当てられない彼らの姿が映し出されています。私はそこにすごく感銘を受けました。日本のみなさんにも同じように何かを感じてもらえればと思います。

 −−アカデミー賞の主演女優賞にノミネートされていますが、25日(日本時間)の授賞式を前に今、どんな心境ですか。

 ここ数年、人生変わってしまって、映画界ではオーバーナイトサクセス(一晩で成功してしまう)という神話があるだけに自分もそうなんじゃないかって、ここ最近、顔を見られるようになったからいわれがちなんですけど、実はそうではないんです。私はずっと女優という仕事をしてきて、大学も行っているし、オーディションも受け続け、テレビも映画も出演して、ようやくここにたどり着いたから、賞やノミネーションとして励ましやサポートをもらえることはうれしいことです。もしアカデミー賞をとれたら、夢見ていたことだから本当に光栄です。だけど現在の状態で私の中では受賞しているも同然。大好きな監督や脚本家と仕事をしたいというのは夢だったし、実際にさまざまなキャラクターを演じることも夢だった。ある意味、私は夢をかなえてしまっている中で生きているから、アカデミー賞を気にしないようにしています。だって今が十分にハッピーなんだから!

 <プロフィル>

 1977年生まれ。米カリフォルニア州出身。ニューヨークのジュリアード学院在学中から舞台に出演。「ER10 緊急救命室」(04年)や「ベロニカ・マーズ」(04年)などの人気テレビシリーズに出演した後、テレンス・マリック監督の「ツリー・オブ・ライフ」(11年)でブラッド・ピットさんやショーン・ペンさんと共演し、注目される。続く「ヘルプ~心がつなぐストーリー」(11年)で高く評価され、アカデミー賞、ゴールデングローブ賞など数々の助演女優賞にノミネートされ、演技派女優の地位を確立する。その後も「キリング・フィールズ 失踪地帯」(11年)、「テイク・シェルター」(11年)と立て続けに出演、「マダガスカル3」(12年)では声の出演も果たす。舞台でも活躍し、フィリップ・シーモア・ホフマンさんと共演した「オセロ」、ブロードウエーの舞台「The Heiress」などに出演。

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