はじめの1巻:「金魚坂上ル」 PEACH−PITの最新作 「思い出のカケラ」を探す女子高生の物語

PEACH−PITさんのマンガ「金魚坂上ル」1巻の表紙
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PEACH−PITさんのマンガ「金魚坂上ル」1巻の表紙

 1巻が発売されたコミックスの中から、編集部と書店員のお薦めマンガを紹介する「はじめの1巻」。今回は、女性向けマンガ雑誌「デザート」(講談社)で連載、「思い出のカケラ」を探す女子高校生を描いたPEACH−PITのマンガ「金魚坂上ル(きんぎょざかのぼる)」です。

ウナギノボリ

 どこか懐かしい、坂ばかりの町・深郷町に引っ越してきた女子高校生・花小野にしきは「すくい屋」と称して人助けを始めた。にしきは人助けが終わると幼なじみの蒼馬に、千代紙で鶴を折ってみせ、「これが私を作っていく大事なカケラになる」と説明する。ある日、神社で金魚すくいの金魚を手にした少女を目撃したにしきは、思わず「……きつね……」と口にする。しかし、少女はあっという間に姿を消してしまった。翌日、小学生の妹・朱(あかい)の面倒を見てほしいという遠野紺(こん)の依頼に、にしきが「葛葉荘」を訪れると、そこにはそのときの少女が待っていた。

 ◇編集部からのメッセージ デザート編集部 図師いづみさん「どこまでもやさしい物語を」

 「どこまでもやさしい物語を描いてみたい」というPEACH−PITさんの言葉から、すべては始まりました。実際にある町や坂道を歩いて感じて物語を構築していくのは、「ローゼンメイデン」などファンタジックな作品が多いお二人にとっても初めての試みだそうで、毎回の取材を楽しんでいらっしゃいます。すっかり金魚にハマってしまい、現在、飼育中! 知識は本当にすごいんですよ。

 人は誰しもたくさんの思い出のカケラから現在の自分が成り立っているものですが、この物語の主人公・にしきは、ある事情から、自分の大切なカケラを探して集めている少女です。彼女が失くしたもの、そして永遠に失くさないものは何なのか……? そのヒミツの鍵を握るのは、心優しい幼なじみの蒼馬とあやかしの世界に誘う紺という二人の男性。特に「きつねの化身?」と思わせる紺はリア充的恋愛ものが多い「デザート」では珍しいキャラなのですが、現実と幻の間にいるような、まさに“まれびと”の妖しい大人の色っぽさで強烈に読者を引きつけています。

 初夏発売予定の2巻ではさらに、にしきのヒミツが明らかに……!“きつねの男の子”とはいったい誰だったのか!?担当の私がいちばんソワソワしています。

 ◇書店員の推薦文 伊吉書院類家店の中村深雪さん「にしきがこぼした涙が印象的」

 下町で暮らす女の子のハートフルストーリー?と読み始めたのですが、それだけに止まらないミステリアスな雰囲気。にしきの世界にキラキラと射し込む光と、影を落とす部分が見え隠れし、なんとも切ない。にしきの中の小さなカケラたちがつながり、ずっと笑顔だったにしきがこぼした涙がとても印象的でした。にしきを見守る蒼馬やおばあちゃんが知る真実、美しい坂の名前を「きつねの窓」から風景にして見せてくれた朱、自らを客人だという紺も謎めいていて、その不思議さにすっかり虜。伏線がたくさんあり1回読んだだけでは見落としているかも。何度も読み返して続きを待ちましょう!

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